年金の基礎知識:中高年が知るべき老齢年金及び遺族年金の受給の要件

目次

遺族基礎年金

自営業のご主人が亡くなったとき、奥様と未成年のお子様は、お子様が18歳になる年度末まで遺族基礎年金を受け取ることができます。

国民年金の第1号被保険者が亡くなったときのお金は3種類

自営業者などの第1号被保険者が亡くなった場合、遺族が受け取ることができるお金は、3種類存在します。遺族基礎年金、寡婦年金、死亡一時金です。

※遺族基礎年金は、第2号被保険者(厚生年金加入者)および第3号被保険者が亡くなったときも受け取れます。 ※子どもとは、18歳になる年度末まで(障害のある子は20歳になるまで)の子です。

まず、「遺族基礎年金」は亡くなった人に生計を支えられていた配偶者や子どもがもらえる年金です。生計を維持されている子どもがいる配偶者または、子どもに支給されます。

子どものいる配偶者が受け取る年金額は、81万6,000円(2024年度)を基本として、1人目と2人目の子ども1人につき234,800円加算されます。子どものみの場合は、1人目が81万6,000円(2024年度)となり、2人目と3人目の加算は同額です。

この年金を受けるためには、亡くなった方が年金の加入者であり、保険料の納付済期間と免除期間の合計が25年以上であることが必要です。特に、亡くなった方が老齢基礎年金の受給者である場合、その加入期間も考慮されます。また、故人が年金に加入している期間や60歳以上65歳未満の場合、保険料納付済期間などが全体の3分の2以上あるなど保険料納付期間も要件となります。

寡婦年金

「寡婦年金」は保険料の納付済期間が10年以上の夫が亡くなった際に、10年以上の婚姻期間を経て夫に生計を支えられていた妻が60歳から65歳になるまで受給できるお金です。受給額は、夫の第1号被保険者期間を基に計算された老齢基礎年金の4分の3です。

受給期間は、子どものいない妻が60歳から65歳になるまでの5年間です。亡くなった方が老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取っていたり、妻が年金を繰り上げて受給したりしている場合は、受け取ることができません。遺族年金と寡婦年金の同時受給も選択肢として存在します。

死亡一時金

「死亡一時金」は、保険料の納付済期間が3年以上の被保険者が亡くなった場合、生計を共にしていた遺族が受け取ることができるお金です。寡婦年金と死亡一時金のいずれかを選択する必要があります。

受取人は、亡くなった方と生計を共にしていた配偶者、子ども、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の中から、優先順位が高い人が対象となります。

金額は、亡くなった方が第1号被保険者として保険料を納めた月数に応じた金額となります。亡くなった方が付加保険料を3年以上納付していた場合は、受け取る金額に8,500円が加算されます。

遺族厚生年金(65歳未満のご遺族)

会社員のご主人が亡くなったとき、子どもがいない奥様でも遺族基礎年金を受け取ることができます。

遺族厚生年金を受け取れる遺族のルール

※上記のほか、55歳以上の子どものいない夫・55歳以上の父母・55歳以上の祖父母は60歳から、18歳になる年度末(1級、2級の障害がある場合は20歳未満)までの孫は、それぞれ遺族厚生年金を受け取れます。

遺族基礎年金とは異なり、遺族厚生年金では、30歳未満の子どものいない妻であれば、子どものいない場合であっても、5年間だけ年金を受け取ることができます。

その要件は、①厚生年金加入者が亡くなった場合、②厚生年金に加入している間に傷病が原因で初診日から5年以内に亡くなった場合、③1級または2級の障害厚生年金受給権者が亡くなった場合、④老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上の人が亡くなった場合です。子どもがいる配偶者や親がいない子どもは、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受け取ることができます。

受給者には優先順位が設けられており、55歳以上の子どものいない夫、55歳以上の父母、孫、55歳以上の祖父母の順に続きます。受給額は亡くなった方が受け取ることのできる老齢厚生年金の4分の3ですが、厚生年金の条件を満たす加入期間が300カ月未満の場合には、300カ月加入していたものとして計算されます。

中高年寡婦加算と経過的寡婦加算

妻が1956年4月1日以前に生まれた場合、妻が受け取る年金は要件に合わせて変化します。

子どもの成人となり年齢が規定を超えて遺族基礎年金が受け取れなくなった場合、40歳以上の奥様は「中高齢寡婦加算」を受け取ることができます。加算額は、遺族基礎年金の額の4分の3で、年額61万2,000円(2024年度)です。65歳になるまでは、遺族厚生年金と合わせてこれを受け取ることができます。

さらに、1956年4月1日以前に生まれた人が65歳になると、「経過的寡婦加算」に切り替わります。加算額は、受け取る妻の生年月日によって段階的に異なり、年額約1万9千円(1956年4月1日生まれまで)~58万3千円となります。

保険料納付要件に注意

遺族年金を受給するためには、死亡日までに、直前の2か月を含む被保険者期間があり、保険料納付済期間(免除期間、学生納付特例、猶予期間含む)が加入期間全体の3分の2以上必要です。注意しましょう。

遺族厚生年金(65歳以上のご遺族)

奥様が65歳を超えて老齢基礎年金を受け取っていても、夫が老齢厚生年金を受給していたのであれば、遺族年金を受け取ることができる可能性があります。

老齢基礎年金だけ受給している65歳以上の妻が受け取る遺族年金

夫が自営業(国民年金の第1号被保険者)の場合、老齢基礎年金だけ受給している妻が65歳以上になると、遺族基礎年金を受け取ることはできません。

夫が会社員(厚生年金に25年以上加入)の場合、老齢基礎年金だけ受給している妻が65歳以上になっていても、遺族厚生年金として老齢厚生年金の一部を受け取ることできる場合があります。また、障害基礎年金と遺族厚生年金、障害基礎年金と老齢厚生年金の組み合わせができる場合もあります。

老齢厚生年金を受給している65歳以上の妻は?

老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金まで受給している妻は、老齢厚生年金と遺族厚生年金を組み合わせて受け取ることができます。

妻は、自分の老齢厚生年金を全額受け取ることができます。夫が死亡したときに、妻の年金額よりも遺族厚生年金の額が多い場合、差額分を遺族厚生年金として追加で受け取ることが可能できます。

ここでの遺族厚生年金の計算には2つの方法があります。一つは、夫の老齢厚生年金の4分の3相当額です。もう一つは、夫の老齢厚生年金の半額と妻の老齢厚生年金の半額の合計額です。いずれか大きい方が選択されます。

例えば、妻の老齢厚生年金が14,000円だとしましょう。夫の遺族厚生年金を考慮した計算方法によって59,000円が遺族厚生年金と算定された場合、妻の遺族厚生年金の14,000円が差し引かれた金額を受給することができます。

未支給年金の請求は忘れずに

年金は年6回、偶数月の15日に支払われます。2月や3月の年金は4月15日に支給される後払いです。

そのため、年金受給者が亡くなった際には、死亡月の年金は未支給となります。この年金は、亡くなった人と同じ生計を営んでいた配偶者や子どもなどが受け取ることができます。受給するためには申請が必要で、死亡届を提出する際に合わせて行います。

夫が亡くなった!いくらお金をもらえる?

家計を支えるご主人に万が一の事態が発生することや、老後生活に準備するため、公的保険から受け取れる年金額を正確に試算することが重要です。ねんきん定期便を確認しましょう。これにより、不足が見込まれる金額が明確になります。

妻と子を残して会社員の夫が亡くなった!

会社員の夫が亡くなると、配偶者は遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給することができます。遺族厚生年金は、亡くなった方の老齢厚生年金の4分の3です。ただし、厚生年金加入期間が300ヶ月未満の場合でも、300ヶ月加入したと換算されます。

遺族基礎年金は、子どもたちが18歳になるまで支給され、その後、妻が65歳になるまで中高齢寡婦加算が支給されます。妻が65歳になると、老齢基礎年金の受給が始まります。

例えば、37歳の夫が亡くなったとき、妻が35歳、子どもは5歳と3歳だったとしましょう。遺族基礎年金約120万円、報酬比例の遺族厚生年金は約50万円で、合計約170万円だったとしましょう。上の子どもが高校を卒業すると遺族基礎年金が約20万円減少し、下の子どもが高校を卒業すると、中高年寡婦加算に切り替えられ、約60万円まで減少します。妻が年齢を追うごとに遺族年金額が減少していくことに注意が必要です。

妻と子を残して自営業の夫が亡くなった!

死亡時に国民年金のみに加入していた方が亡くなると、遺族厚生年金を受給できません。18歳までの子どもがいる場合は、遺族基礎年金を受給できます。

例えば、37歳の夫が亡くなったとき、妻が35歳、子どもは5歳と3歳だったとしましょう。遺族基礎年金約120万円だったとしましょう。上の子どもが高校を卒業すると遺族基礎年金が約20万円減少し、下の子どもが高校を卒業すると、受給できなくなります。妻は65歳になり老齢基礎年金の受給が開始されるまで、年金はゼロとなってしまいます。

妻1人残して会社員の夫が亡くなった!

厚生年金の被保険者が亡くなると、30歳以上の妻には遺族厚生年金が終身で支給されます。老齢厚生年金の4分の3です。しかし、妻が30歳未満で子どもがいない場合は、遺族厚生年金の支給は5年間に限定されます。

妻1人残して自営業の夫が亡くなった!

第1号被保険者期間が10年以上あり、婚姻期間が10年以上ある場合、妻は寡婦年金を受給できます。老齢基礎年金の4分の3です。ただし、受給できる期間は、妻が60歳から65歳までの5年間に限定されます。

老齢基礎年金

自営業で、ずっと第一号被保険者(国民年金加入)であった方は、65歳から毎年81万6,000円=月額68,000円(2024年)の老齢基礎年金を受給できます。

保険料納付月数に応じて年金額が決まる

日本の公的年金は、国民年金を基礎としと、厚生年金が上乗せされる2階建て構造を持っています。老齢基礎年金を受け取るための要件は、国民年金の被保険者期間が10年以上あり、65歳以上であることです。支給は原則として65歳から開始されますが、60歳までの繰り上げ受給や75歳までの繰り下げ受給も選択可能です。受給が開始され、亡くなるまでずっと受け取り続けることができます。

この年金を満額で受け取るためには、20歳から60歳までの40年間(合計480カ月)にわたって国民年金保険料を納付している必要があります。2024年度の満額は81万6,000円、毎月68,000円となります。保険料を一部でも納付することができなかった場合には、計算式に従い、保険料納付月数に応じて年金額が決定されます。

また、所得が少ない、失業したなどの理由で国民年金の保険料の免除を受けていた期間がある場合も、免除された期間と免除の種類に応じて異なる年金額を受け取ることができます。

計算方法は、2009年3月以前と2009年4月以後では異なります。老齢基礎年金は、納付状況や免除の詳細に応じて受給額が変動するため、個々の保険料の支払い履歴が重要となります。

専業主婦の女性も老齢基礎年金を受給できる

結婚に伴い、5年間働いた会社を辞めて専業主婦になった女性が、夫の保険の第3号被保険者として33年間加入したケースを想定しましょう。この場合、合計38年(=456ヶ月)の加入期間があります。この場合、満額の年金は816,000円ですが、480カ月に対して456カ月の保険料が納付されています。したがって、受給できる年金額は77万5,200円になります。

専業主婦として夫の保険に依存する期間が長いほど、個人の厚生年金の納付期間が短くても、第3号被保険者としての期間が加算されるため、受取る年金額が増えることが見込まれます。

働けなくなり全額免除の期間があった場合

20歳から60歳までの間に厚生年金に30年間加入していた方が、働けなくなったため全額免除を4年間受けたケースを想定しましょう。この場合、全額免除の4年間が2分の1の2年間として計算されますので、合計32年(=384ヶ月)の加入期間となります。この場合、満額の年金は816,000円ですが、480カ月に対して384カ月の保険料が納付されています。したがって、受給できる年金額は65万2,800円になります。

老齢厚生年金

23歳から60歳まで38年間、サラリーマンとして会社に務め定年退職した方は、65歳から、給料や賞与に連動して支払った保険料と加入期間によって算出された年金を受給できます。

2003年3月までと4月以降に分けて計算する

老齢厚生年金は、老齢基礎年金(国民年金)に上乗せして受給することができます。受け取るための要件は、老齢基礎年金の受給資格期間(原則10年以上)を満たしていることと、厚生年金保険に加入していた実績が必要です。支給は原則65歳から開始されますが、繰り上げ受給や繰り下げ受給も可能です。

会社員や公務員などの第2号被保険者は、勤め先からの給与天引きによって厚生年金保険料を支払います。この保険料には基礎年金分も含まれており、第2号被保険者として保険料を納めた期間は、老齢厚生年金と老齢基礎年金の両方を受け取る資格があります。

年金額は、加入期間中の標準報酬月額に応じた報酬比例部分と加入期間に応じた定額部分を合算して計算されます。

報酬比例部分の計算は、過去の給与や賞与を一定の方法で再評価した報酬額に基づいて行われます。被保険者の生年月日によって乗率が異なり、1946年4月2日以後に生まれた人は、2003年3月以前の報酬には1000分の7.125、2003年4月以後の報酬には1000分の5.481を乗じて計算します。

老齢基礎年金と老齢厚生年金の概算

加入期間平均月給 20万円平均月給 30万円平均月給 40万円平均月給 50万円
10年12万円19万円25万円32万円
20年25万円38万円51万円64万円
30年38万円58万円77万円97万円
40年51万円77万円103万円129万円

平均給与が月額50万円(年額600万円)だった方は、40年加入すると、約129万円の老齢厚生年金を受給することができます。これに老齢基礎年金81万6,000円(2024年)を合算すると、年金額は約210万円、月額約17万5千円となります。

23歳から働き始めて60歳になるまで38年間働いた場合、老齢厚生年金は約104万円です。これに老齢基礎年金は約77万円を合算すると、年金額は約181万円、月額約15万円となります。

女性が20歳から10年間会社に勤めた後、30年間専業主婦として過ごし、在職中の平均月給が25万円だった場合、老齢厚生年金は約15万円です。これに老齢基礎年金を合算すると、年金額は約96万円、月額約8万円となります。ただし、ご主人が定年退職された後は、60歳までご自身で国民年金に加入し、保険料を支払わなければいけません。

12年間だけで専業主婦を止め、再び働き出した場合はどうでしょうか。18年間会社員を続けたとして、在職中の平均月給25万円である場合、老齢厚生年金は約46万円です。これに老齢基礎年金を合算すると、年金額は約127万円、月額10万5千円となります。

年金の繰上げ年金の繰下げ

年金の受給開始は、60歳まで繰り上げることができますが、一生涯、減額になります。逆に75歳まで繰り下げることができて、一生涯、増額になります。

受給開始を1年繰り上げるごとに4.8%の減額

老齢基礎年金の受給開始は原則として65歳ですが、60歳まで月単位で繰り上げることが可能です。繰り上げた場合、受給額は1カ月ごとに0.4%減少し、1年で4.8%の減額となります。この年金額が一生涯続きます。

例えば、60歳で受給を開始すると、24%の減少となり、65歳で受給開始する場合の年金額の76%相当額しか受け取ることができなくなります。

一度繰り上げ請求をすると、その取消しや変更はできません。減額された年金額は一生続きます。老齢厚生年金と老齢基礎年金は、同じ減額率が適用され、老齢厚生年金を繰り上げる場合は、老齢基礎年金も同時に繰り上げる必要があります。

繰上げ受給するときは寡婦年金などに注意

繰上げ受給すると、寡婦年金を受給できなくなることがあります。また、年金を繰上げた後に障害を負った場合、障害基礎年金を受給ができなくなることがあります。これらは繰上げ受給のデメリットとなるため、注意が必要です。

受給開始を1年繰り下げるごとに8.4%の増額

老齢基礎年金の受給開始は原則として65歳ですが、65歳まで月単位で繰り下げることが可能です。繰り下げた場合、受給額は1カ月ごとに0.7%増加し、1年で8.4%の減額となります。この年金額が一生涯続きます。

例えば、70歳で受給を開始すると、42%の増加となり、65歳で受給開始する場合の年金額の142%相当額を受け取ることができます。

また、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げ受給できるので、片方だけ受給開始を遅らせることも可能です。

繰上げ受給するときは「損益分岐点」が受給開始から12年後

繰り下げ受給によって年金額が増加しても、寿命が変わらなければ受給できる期間は短くなります。例えば、年金の受給を1年繰り下げて66歳から受給を始めた場合、65歳で受給を開始した際と比べて総額が上回るのは、78歳になってからです。このため、総額が上回るタイミングは、67歳以降も受給を繰り下げた場合に同じように設定され、繰り下げによる損益分岐点は、受給開始から約12年後となります。

特例的な繰下げみなし増額制度

2023年4月に「特例的な繰下げみなし増額制度」が導入されました。この制度によれば、70歳以降80歳未満に年金を請求すると、これまで繰り下げ申出をしていなくても、請求日の5年前に繰り下げ申出をしたものとみなされます。その結果、みなし繰り下げ期間に対する増額分を含めた年金が、請求日から5年前にさかのぼって一括で受給することができ、それ以降も5年前時点で増額された年金額を受給し続けることができます。

遺族年金は増えない

すでに年金を受け取っていた夫が亡くなった場合、妻は夫の老齢厚生年金の4分の3を遺族厚生年金として受け取ることができます。

この点、夫が繰り下げ受給によって増額された老齢厚生年金を受け取っていた場合でも、遺族年金の計算は、増額された額ではなく、65歳受給開始の場合の年金額の4分の3に基づいて行われます。

例えば、夫が70歳まで繰り下げて142%増額された年金を受け取っていたとしても、遺族厚生年金は、100%の年金額の4分の3として算出されます。つまり、繰り下げによる増額分は遺族には反映されません。

厚生年金の受給額(加給年金と振替加算)

加給年金

65歳になったご主人は年金の受給を開始できます。しかし、63歳の奥様がいた場合、奥様はまだ年金を受給することができません。この場合、ご主人は加給年金を受給できます。

これは、厚生年金に20年以上加入している人で、扶養する家族がいる場合に適用される制度です。この加給年金は、65歳で老齢厚生年金を受け取り始める際に、65歳未満の配偶者や、未成年の子どもがいる場合に、受け取る老齢厚生年金に上乗せされます。、厚生年金の被保険者の老後生活を支える扶養家族がいる場合の生活費の補填として機能する家族手当のような制度です。

また、加給年金の対象である配偶者が65歳になると、その配偶者自身が受け取る老齢基礎年金に「振替加算」が適用され、年金額が増額されます。これにより、厚生年金加入者は自身だけでなく、家族も年金の恩恵を受けることができます。

加給年金額は、配偶者がいる場合、年額約22万円〜39万円、未成年の子供の場合は1人目と2人目が年額約22万円、3人目以降は年額約7万5千円です。

振替加算

加給年金が終了した後、1966年4月1日以前生まれの配偶者の年金には「振替加算」が適用されます。この振替加算は配偶者が一生受け取ることができ、離婚後も継続されます。振替加算の金額は生年月日に基づき、年間1万5千円から22万円の範囲で決まりますが、加給年金ほどの金額はありません。1966年4月2日以後に生まれた人は、振替加算の対象外です。

年金の繰り下げ受給開始には注意

老齢厚生年金の受給を繰り下げた場合、加給年金の支給も繰り下げられます。ただし、加給年金は配偶者が65歳になると終了するため、繰り下げ期間中に配偶者が65歳を迎えると、加給年金の受け取りができなくなります。

また、配偶者が65歳に達した後に受け取る振替加算も、繰り下げを行うとその時点から受給を開始することになります。

加給年金と振替加算は繰り下げとなっても、増額されることはありません。

受給を開始する手続き

年金の支給開始年齢に近づくと、受給資格期間が10年以上ある人は、日本年金機構などから「年金請求書」が3カ月前に送付されます。

この請求書には住所、氏名、基礎年金番号、年金加入記録が記載されており、これらの情報に誤りがないかを確認する必要があります。誤りがある場合は、管轄の年金事務所に問い合わせて訂正を依頼します。

年金請求書に必要事項を記入し、必要な書類を添付して年金事務所に提出することで年金を受け取る手続きが完了します。

手続きは誕生日の前日以降から可能ですが、受給権が発生してから5年を過ぎるとその前の年金を受け取ることができなくなるため、時効に注意し早めの手続きが推奨されます。

年金にかかる税金

税金がかかる退職後の所得は?

退職後に受け取る収入には、税金がかかるものとかからないものがあります。

例えば、障害年金、遺族年金、失業給付、高年齢雇用継続給付などには所得税等が課されません。

しかし、老齢年金、企業年金には所得税等が課されます。また、民間の個人年金や生命保険の満期金などで年20万円を超える収入がある場合は、確定申告が必要となります。

所得税の確定申告が必要なケース

公的年金受給者の所得税に関しては、知っておきましょう。年金収入が400万円以下で、公的年金以外の所得が20万円以下であれば、原則として確定申告は不要です。ただし、医療費控除や雑損控除など特定の控除を受けるためには、年金収入が400万円以下でも、確定申告を行う必要があります。

老齢年金は雑所得となります。65歳未満で108万円、65歳以上は158万円以上の年金を受給していれば、所得税等が源泉徴収されます。扶養親族等申告書を提出していれば約5.1%、提出していなければ約7.6%です。

確定申告の期限

確定申告を行う場合、その年の翌年の2月16日から3月15日までの期間に、自分の住所地を管轄する税務署へ確定申告書を提出する必要があります。

生命保険料控除や地震保険料控除など、会社員時代に年末調整で処理されていた控除項目については、退職後には確定申告が必要になります。

年金の繰り下げ受給と税金や社会保険

年金の繰り下げ受給の最大の利点は、月々の年金額が増額されることです。70歳まで5年間繰り下げた場合、年金額は約42%増額されます。

年金額が増加すると、所得税の負担も増え、多くの税金を納めることになります。これは、所得税が累進課税方式を採用しているため、所得が高くなるほど税率も高くなるからです。また、健康保険料や介護保険料も増加するため、毎月支払う費用が増えることになります。

また、繰り下げ受給によって年金額が増額となると、医療制度における自己負担割合が高まることがあります。例えば、75歳以上の後期高齢者医療制度では、所得が145万円以上の場合、医療費の自己負担割合が30%に上がります。

さらに、健康保険には、毎月の医療費の自己負担額に上限を設ける「高額療養費」という制度がありますが、年金額が増えて所得145万円以上になると、高額療養費の上限額が1.4倍程度まで上げられてしまいます。注意しましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

目次