外貨建生命保険には加入すべきか

近年、アメリカの金融市場での利上げが進んでいるため、外貨建変額年金の人気が高まってきています。今回は、為替リスクと市場リスクについて説明します。

目次

外貨を買うということはどういうこと?

金融商品の中でも購入や売却を外貨で行うのが、外貨建金融商品です。この商品を売買するには、米ドルなどの外貨と円を交換しなければいけません。その際に為替手数料がかかります。

たとえば、利率2%の日本国債を1億円で購入し、1年後に償還されるとします。利息200万円を受け取りますので、回収額は1億200万円です。

これに対して、利率5%の米国債を1億円で購入するとしましょう。同様に1年後に償還されるとしましょう。

円で米国債は買えませんので、円を米ドルに転換します。為替レートが1ドル100円と仮定し、手数料を無視しますと、銀行は1億円を100万ドルに交換してくれます。これで100万ドルの米国債を購入しますと、利息5万ドルを受け取りますので、回収額は105万ドルとなります。

ただし、受け取った米ドルは日本で使えませんので、米ドルを再び円に転換しなければいけません。為替レードが1ドル100円で変わっていなければ、最終的な回収額は1億500万円となり、日本国債の回収額である1億200万円よりも有利になりました。

しかし、米国債が償還されるまでの1年間に、為替レートが変動しているかもしれません。もし円高が進んで1ドル90円となれば、回収額は9,450万円となり、元本割れしてしまいます。反対に円安が進んで1ドル110円となれば、回収額は1億1,550万円となり、大儲けです。

つまり、米国債に対する投資のリターンは、利息収入に加えて為替の変動に伴う損益を計算しなければいけないのです。

外貨建生命保険とは何か

外貨建生命保険とは、契約者が払い込んだ保険料の運用を米ドルなどの外貨建で行う生命保険です。日本国債の利回りよりも米国債の利回りのほうが高いため、外貨建生命保険は、円建ての生命保険よりも予定利率が高く設定されていることから、近年、販売額が飛躍的に伸びています。

外貨建生命保険の代表例は、定額終身保険、変額終身保険、定額養老保険、変額養老保険、定額個人年金、変額個人年金です。いずれも、保険料の支払いは、いずれも契約時に一括して支払う一時払いと、毎年または毎月支払い続ける平準払いがあります。

外貨建定額終身保険とは、保障が一生涯続く商品です。契約時に定めた保険金額は、保険期間中に変動しません。

外貨建変額終身保険とは、保障が一生涯続く商品です。ただし、運用実績に応じて保険金額が変動します。

外貨建定額養老保険とは、生存して満期を迎えた場合に満期保険金が支払われる商品です。死亡保険金と満期保険金は同額のものが一般的です。

外貨建変額養老保険とは、生存して満期を迎えた場合に満期保険金が支払われる商品です。ただし、運用実績に応じて保険金額が変動します。

死亡保険金は契約時に保証されていますが、満期保険金は保証されていません。

外貨建定額個人年金とは、契約時に定めた予定利率にもとづいて、一定年齢から年金が支払われる商品です。

外貨建変額個人年金とは、運用実績に応じて年金原資が増減し、一定年齢から年金が支払われる商品です。ただし、年金原資に対して最低保証金額があります。

外貨建生命保険に伴うリスクと手数料

外貨建生命保険は、円建ての生命保険と異なるリスクが伴います。その一つが為替リスクです。円高が進めば、保険金や解約返戻金に為替による損失が発生します。

また、契約後の早い段階で解約すると、保険会社にかかった費用分を控除されてしまいます。これを「解約控除」といいます。

さらに、変額保険であれば、保険金、年金や解約返戻金が、金利の変動によって増減するリスクが伴います。これを「市場リスク」といいます。一般的に、契約時に比べて解約時に金利が上昇した場合には解約返戻金が減少し、金利が低下した場合には解約返戻金が増加します。これを「市場価格調整」といいます。

以上のように、外貨建生命保険には、為替リスクと市場リスクの2つのリスクが伴うことから、元本割れするリスクが大きく、理解することがとても難しい商品なのです。それでも、これらのリスクは契約者や受取人が負担しなければいけません。これを「自己責任の原則」といいます。元本割れしても文句を言うことはできません。

一方で、外貨建生命保険は、円建ての生命保険よりも大きな手数料が取られます。

一つは為替手数料です。これは、円をドルに交換するとき、ドルを円に交換するときに取られます。1ドルに対する手数料が、インターネットバンキングで25銭、窓口で1円程度かかりますので、円からドル、ドルから円に往復させると、トータルで0.5%から2%程度の費用が発生すると考えなければいけません。

もう一つは、円建て生命保険にも共通する話ではありますが、生命保険に加入しますと、当然ですが、保険会社から大きな手数料を取られます。これは、保険会社の事業運営のために費用、代理店の販売手数料です。これらの手数料率は、開示されていないものの、最も信託報酬の高い投資信託が設定する3%を大きく上回る水準だと言われています。つまり、契約者や受取人が儲からない、割高な商品なのです。

加入するときの注意点

保険会社の営業マンは、高齢のお客様にも外貨建生命保険を販売しようとすることあります。しかし、老化による理解力の低下がお客様に現れる可能性があることから、営業マンとの面談にご家族が同席し、商品内容の説明を聞いたほうがいいでしょう。為替リスクと市場リスクを理解し、納得しないまま契約を締結してしまうと、後からトラブルが発生するおそれがあります。

商品内容の説明は一度だけ聞くのではなく、理解できるまで何度も聞いたほうがよく、また、一人の営業マンだけでなく、別の営業マンからも説明を聞いたほうがよいでしょう。

それでも、契約の申込みを行った後に、加入を止めたくなるときがあるでしょう。そんなときは、8日間にかぎり猶予が与えられます。すなわち、外貨建生命保険は、クーリング・オフ制度の対象となるのです。契約の申込日または注意喚起情報を受け取った日のいずれか遅い日から、その日を含めて8日以内であれば、書面による申し出によって、契約を無しにすることができます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

目次