【自社株対策】中小企業経営者の相続対策と事業承継の基本

自社株式は、会社の「経営権」を表すものであると同時に、企業経営者の「個人財産」です。現預金や不動産のように、子どもたちへ均等に分ければよいというものではありません。今回は、自社株式の相続について考えてみましょう。

目次

自社株式の遺産分割は難しい

子どもを後継者として会社を承継させる場合、後継者となる子どもに経営権を集約させる必要があります。発行済議決権株式100%とは言わないまでも、経営権を確保するために十分な株式を承継させることが求められます。一般的には、過半数である50%超が必要とされています。

一方で、経営者の個人財産の相続も考慮しなければなりません。自社株式の相続を考えた場合、自社株式が個人財産全体の大部分を占めることが一般的です。このような状況では、自社株式を後継者である子どもに承継し、それ以外の財産を他の子どもに承継することになります。

ここで重要なのは、自社株式以外の財産の大きさです。現金預金、不動産、上場有価証券を多く持っている場合、後継者でない子どもにも十分な財産を承継できます。しかし、そうでない場合、自社株式が個人財産の大部分を占めているため、遺産分割に大きな偏りが生じ、将来の相続において争いが生じる可能性があります。

遺産分割における生命保険の活用

このような場合、後継者ではない子どもに相続させる財産を生前に増やすことが必要です。そうすれば、後継者ではない子どもが取得する相続財産が増加し、遺産分割の偏りが解消されます。たとえば、投資信託による資産運用や生命保険の加入が考えられます。

後継者ではない子どもにまとまった財産を取得させることができれば、遺産分割のバランスを悪さが解消されるでしょう。生前から計画的な資産形成を考えておきましょう。

たとえば、経営者を被保険者・契約者とする終身保険は相続税対策に効果的です。死亡保険金であれば、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があり、相続税の税負担を軽減させることができます。死亡保険金の受取人を誰にするかについては、代償分割の活用がからんできますので、税理士などの専門家に相談してください。

遺言書を書いておきたい

遺産分割を円滑に行うには、「遺言書」を作成することが重要です。遺言書がないと、相続時に相続人同士の話し合いが必要になります。こうした争いを防ぐために、遺言書を用意しておくのです。遺言書があれば、原則としてその内容に基づいて遺産が分割されます。これを指定分割といいます。

例えば、長男に自社株式の全部を取得させたい場合、「自社株式の全部を長男に取得させる」と遺言書に記載します。

ただし、遺言書を書いた場合でも遺留分の問題があります。遺留分は法定相続人に最低限保障される遺産取得分のことで、侵害された相続人が請求できる権利です。不公平な分割があれば問題が生じます。

自社株式を早めに後継者へ渡してしまおう

現経営者が若いうちに事業承継を行う場合、後継者へ株式を贈与することになりますが、事業承継をしない場合は、株式を相続することになります。いずれにせよ、優良な企業であればあるほど自社株式の評価額が高くなり、その結果、税負担も重くなります。

好調な業績が続き、利益が蓄積されると、自社株式の評価額はどんどん上昇していきます。経営者にとって、相続税対策は非常に重要な問題です。

相続税対策として検討すべき手段は二つあります。一つは、自社株式を後継者に渡すタイミングを早めることです。もう一つは、自社株式の評価額を引き下げることです。

自社株式を相続よりも早いタイミングで後継者に渡す方法として、「贈与」があります。この場合、相続税ではなく贈与税が課されます。

贈与税を支払う方法には、暦年課税制度と相続時精算課税制度があります。どちらの制度を選ぶかは、将来の見通しを踏まえ、税理士と相談して決めると良いでしょう。

自社株式の評価引下げを考えよう

早いタイミングで自社株式を後継者に渡そうとしても、すでに評価額が高くなってしまった場合、評価を引き下げる対策が求められます。主な方法として、類似業種比準価額を引き下げる方法、純資産価額を引き下げる方法、持株会社を設立する方法の3つがあります。

類似業種比準価額とは、自社と事業内容が類似する上場企業の株価を参考にして自社株式を評価する方法です。純資産価額とは、資産と負債の差額である純資産に基づいて評価する方法です。

類似業種比準価額を引き下げるには、評価直前期に利益を減らし、可能であれば赤字にすることが効果的です。現経営者の退職金の支払いを経費として計上するのが一つの方法です。

純資産価額を引き下げるには、贈与または相続の3年以上前に不動産を取得することが有効です。本社ビルや賃貸不動産の取得が考えられるでしょう。不動産は税負担の軽い財産だからです。

持株会社の設立は、現経営者が事業会社の株式を直接持つのではなく、その間に会社を一つ入れて間接的に持つ方法です。これは評価額の上昇を抑制するもので、早めに行うことが重要となります。持株会社を設立する方法には、「株式移転」と「会社分割」の2つがありますが、どちらを選ぶかは、顧問税理士に相談しましょう。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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