伝統的な相続税対策「借金してアパート」の効果と注意点

アパート建築請負契約

銀行借入金でアパートを建てると相続税対策になる、土地の有効活用だとして、金融機関や不動産会社(ハウスメーカー)から提案営業を受けた富裕層の方は多いでしょう。

ここでは、そのようなそうした相続税対策がなぜ有効なのか、また注意すべき点は無いのか、ご説明します。

目次

不動産が相続税を減らすのはなぜか?

「借金してアパート」はハウスメーカーから提案される典型的な相続税対策の手法です。その目的は、自用地に賃貸アパートまたはマンションを建築して、財産評価を引下げることにあります。

相続税評価において、土地は路線価方式(または倍率方式)が適用されます。土地の用途が青空駐車場や更地の場合には、評価の軽減措置はありません。

しかし、土地に賃貸アパートまたはマンションを建てると、その敷地の評価は自用地評価から貸家建付地評価へと変わります。貸家建付地になると土地の評価は路線価の概ね8割まで下がり、相続税対策につながるという仕組みです。

たとえば、実勢価格1億円の青空駐車場に賃貸アパートを建てると、その土地の評価は、6,500万円(≒1億円×80%×80%)程度まで引下げられることになります。

一方、建物の相続税評価は、固定資産税評価額ですが、固定資産税評価額は実際の建築費用の概ね5割で評価され、加えて、賃貸したときに借家権30%が控除されるため、その評価は大きく引下げられます。

たとえば、1億円で建築した建物の評価は、3,500万円(=1億円×50%×70%)まで引下げられることになります。

建物の固定資産税評価額は、3年ごとに行われる評価換えによりその都度減少していくので、建築してから年数が経つほど評価減効果は大きくなります。

以上のように、賃貸アパートまたはマンションを建てることによって、土地と建物の両方の財産評価を引下げることができるのです。

建築のための資金が手元にない場合、借入金で資金調達を行っても同様の効果があります。借入金は債務控除として相続財産からマイナスされるからです。これが、いわゆる「借金してアパート」という伝統的な節税手法です。

借金してアパート建築が節税となるのはなぜか?

次に、借入金による資金調達でアパート建築の計算例を見てみましょう。

路線価ベースの相続税評価額が1億5千万円 (=300㎡×500千円)の青空駐車場に、銀行から1億円を借りて賃貸アパートを建築した地主に、相続が発生した場合はどうなるでしょう?

まず、土地の評価は、借地権割合70%および借家権割合30%を考慮して、118百万円まで引下げられます。

ここで、小規模宅地等の特例(貸付事業用)を適用するなら ば、200㎡ まで50%評価減となりますので、さらに40百万円(=118百万円÷300㎡×200㎡×50%)減額されます。したがって、土地の評価額は79百万円です。

一方、建物の固定資産税評価額は、建築費用の概ね50%、すなわち約50百万円となります。借家権割合30%の評価減を考慮すると、建物の評価額は35百万円です。

ここで忘れてはならないのは、銀行借りた1億円です。もちろん返済された分は減っていますが、マイナスの相続財産として評価されます。すなわち、債務控除として1億円が減額されます。

以上から、この計算例における賃貸アパートの評価は、14百万円(≒79百万円+35百万円-100百万円)となります。更地で保有していた場合には、1億5千万円の評価でしたが、それが一気に10分の1まで引下げられる結果となりました。

「借金してアパート」に関連して問題となるのは、土地に銀行の抵当権が設定されることです。

この場合、相続人は被相続人の債務者たる地位を承継しますので、債務も相続することになります。この債務は各相続人が遺産分割に応じて負担します。つまり、土地を承継した相続人だけでなく、土地を承継できなかった他の相続人も債務を負担しなければならないということです。

土地を相続した相続人のみが負担することにしたいのであれば、事前に銀行と協議しておく必要があるでしょう。

賃貸アパートは収益性低下のリスクを伴う

「借金してアパート」は、上述のように相続税対策として極めて効果的な手法です。しかし、これは、家賃収入によって借入金が返済できること、すなわち、収益性を落とさずにキャッシュ・フローを維持できることを前提としたものです。

この点、ここ数年では、相続税対策として無理に建築した賃貸アパート経営において、入居者が想定を下回るケースが問題となっています。想定よりも賃貸経営の収益性が低いものとなり、キャッシュ・フローが回らなくなるケースがあります。

賃貸アパートやマンションを建築することによって、残された配偶者や子供たちが賃貸経営を引き継ぎ、家賃収入が家計の足しになるのであれば問題ありません。

しかし、賃貸経営の維持が困難になったり、遠隔地にあるので管理が困難になったりすると、相続人はいっそのこと賃貸不動産を売却したいと思うでしょう。ところが、いざ売ろうとしても、収益性が低下していた場合は、簡単に売ることはできません。

最悪なのは、人居率が想定よりも下がってしまい空き部屋が埋まらないケースです。キヤツシユ・フローがマイナスとなってしまえば、売却しようとしても価格は二束三文になってしまい、借金だけが残ってしまいます。

相続税対策で賃貸アパートを建てるときには、収益性を維持できることが不可欠の条件となるのです。安易にハウスメーカーの提案を受け入れてはなりません。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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