わかりやすい相続税対策:相続税は重いのか?遺産分割のための生命保険活用法

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相続税は本当に重いのか?

日本の相続税に関して、「最高税率が50%を超え、相続すると財産が半分になってしまう」という声がよく聞かれます。しかし、実際にはこのような高い税率が適用されるケースはほとんどありません。私が税理士として経験してきた中で、多くの方の相続税は、大体10%から20%程度です。

具体的な例として、ご主人が2億円、奥様が財産ゼロのご家族を考えてみましょう。法定相続分の割合で分割した場合、ご主人の一次相続で約1,350万円、奥様の二次相続で770万円の相続税がかかります。これを受け継ぐ子供たちが手に入れる財産の合計は約1億7千万円になり、税負担は約11%です。2億円もの財産をお持ちの資産家であっても相続税の負担は1割なのです。

【表 財産規模と税負担率(要約)】 夫と妻・子供2人のケース

ご主人の財産相続税子供の正味財産税負担率
1億円395万円9,605万円4
2億円2,120万円1億7,880万円10
3億円4,700万円2億5,300万円16
5億円1億1,475万円3億8,525万円23
10億円3億3,020万円6億6,980万円33

財産の規模によって税負担率は変わりますが、最高税率などの高い税率が適用される心配はありません。これは、相続税には一定の非課税枠が設けられており、税率も適用される財産の額によって段階的に変わるためです。

それでは、どれくらいの財産があれば相続税対策を考えるべきでしょうか。個人の感じ方にもよりますが、税負担率が10%を超えるときは、相続税対策を真剣に考えるべきではないでしょうか。具体的には、相続財産として2億円を目安にするとよいでしょう。

個人財産2億円以下の相続税対策

個人財産が2億円を超えると、相続税対策を真剣に考えるべきだとよく言われます。しかし、2億円以下の方でも、税金の負担を軽減したいと思うのは自然です。2億円以下の資産を持つ方には、以下の3つの方法がオススメです。

  • 毎年の贈与を続けること
  • 自宅に小規模宅地等の特例を適用すること
  • 生命保険の非課税枠を活用すること

暦年課税による贈与

生前に財産を贈与する方法には、①暦年課税、②相続時精算課税の2つに大別されます。これ以外にも、住宅取得資金贈与、教育資金贈与、結婚子育て資金贈与、配偶者贈与などの制度があります。また、非上場株式の贈与については、経営承継円滑化法による贈与税の納税猶予制度があります。

暦年課税による贈与とは、毎年1人当たり110万円(基礎控除額)まで、贈与税が非課税となる制度です。この基礎控除を使うことで、個人財産の一部を、生前に子供や孫に移転させておくことができます。そして、何人に対しても、何年にも分けて何回でも適用することができます。

暦年贈与制度では、1人に1年間に贈与された財産が110万円以下であれば贈与税はかかりません。しかし、110万円を超えてしまうと超過累進課税による贈与税がかかるため、相続税よりも税負担が重くなることがあります。

暦年贈与制度を使う場合、財産を少額に分け、何年も続けることができれば、結果として節税効果が大きくなります。基礎控除は、年間1人当たり110万円と少額です。しかし、この非課税枠は毎年繰り返し利用でき、孫など法定相続人以外の人にも使うことができます。つまり、暦年贈与は、何人でも、何度でも使うことできる制度です。贈与を受ける人とその回数を増やして、毎年少しずつ贈与を続けるならば、個人財産を確実に減らし、相続税負担を軽減することができます。

贈与税の負担率が相続税の負担率を下回っているかぎり、暦年贈与制度を使うことで、全体の税負担が軽減されます。節税効果のほうが大きければ、贈与税を支払ってでも生前に財産を移転しておくほうがよいのです。お勧めは、310万円の贈与で、贈与税額は20万円です。

また、相続人とならない孫への贈与を行いますと、相続を一世代飛び越えることになり、相続税の課税を1回パスすることができます。

相続時精算課税による贈与とは

相続時精算課税による贈与とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、贈与財産のうち110万円を超える部分の累計額が2,500万円を超えたときに20%の贈与税を支払い、その後の相続時にそれら累計額を相続財産と合算して相続税を支払う制度です。

ただし、先に納付した贈与税は相続税から控除されます。また、相続財産の価額を合算する累計額は、その贈与資産の相続時の価額ではなく、贈与時の価額となります。

相続時精算課税制度は、選択制ですから、例えば、父からの贈与については選択するけれども、母からの贈与には選択しないことも可能です。ただし、一度選択したら中止することはできません。

相続時精算課税による贈与の対象となる財産として、代表的なものは賃貸している不動産のうち建物です。賃貸している建物のように家賃収入を稼ぐことができるものは、生前贈与することによって、その後の家賃収入を子どもや孫世代に移転することができます。これによって、相続税の納税資金を準備させることも可能です。それ以外に贈与の対象とすべき財産として、上場有価証券や非上場株式のように、将来的に価格が上昇する見込みのものがあります。

注意すべき点としては、暦年贈与は、その非課税枠が「受贈者」が贈与を受ける資産が1年間でトータル110万円という制約があるのに対して、相続時精算課税は、「贈与者」が贈与を行う資産がそれぞれ2,500万円までという制約となっている点です。したがって、父と母がそれぞれ2,500万円を相続時精算課税によって贈与する場合、一人の子供に合計5,000万円の資産が非課税で移転されることになります。

法人所有による認知症対策

高齢の親が、不動産を所有している場合、認知症になった後の財産管理・処分が問題となります。なぜなら、認知症になって判断能力が無くなってしまますと、法律行為(契約の締結など)ができなくなるからです。

賃貸不動産のオーナーが認知症になってしまうと、不動産の修繕や売却、建替えや買換え、贈与ができなくなります。もちろん、生前贈与も不可能です。持っている不動産に係る法律行為が何もできなくなってしまうのです。

そこで、認知症になる前に、不動産オーナーは、個人から法人での賃貸を行うこととし、建物だけを法人へ移しておく必要があるのです。建物を法人へ売却又は現物出資すると、賃貸経営の主体は法人へ移転します。

法人が賃貸している場合、建物をオーナー個人が直接所有しているわけではないため、認知症を心配する必要がありません。なぜなら、賃貸経営に係る意思決定を行うのは、法人の代表者(代表取締役、代表社員)であり、不動産オーナーではないからです。法人の代表者に子供が就任するとすれば、経営者は、オーナー個人から子供に移行し、オーナー個人が認知症になってしまった場合でも、問題は発生しません。

民事信託による認知症対策

父親が所有している賃貸不動産を、子どもに管理させる場合、民事信託という方法を取ることができます。この契約を結ぶことで、不動産の所有権が父親から長女に移転されます。この際、父親が委託者、長女が受託者となります。

民事信託の特徴的な点は、財産を管理する受託者が、その財産から得た利益を自分のものとして享受しない点にあります。子どもの名義となった不動産からの家賃収入は、契約に基づき父親のものとなります。この権利を「受益権」といいます。

認知症のリスクを前もって回避するためには、子供を受託者とする信託契約を締結し、不動産の名義を子供に変更しておくのが一つの方法です。受益者として父親を設定することで、贈与税の問題も回避できます。

この点、認知症に関する対策として、「成年後見人」という選択肢も存在します。これは、判断能力が低下した方の利益を守るために設けられた制度です。ただし、成年後見人は一定の制約が伴います。例えば、急な資金の援助や生前贈与はできなくなります。そのため、柔軟な資産管理や遺産対策を行いたい場合、民事信託が適しているといえます。

遺産分割のための生命保険の活用

生命保険は相続のために活用することができます。遺産分割対策としては、死亡保険金を受取人の指定することができます。 不動産に比べて、生命保険は分割しやすい財産です。受取人が指定できますから、保険金は受取人固有の財産となり、遺産分割協議の対象外とすることができます。死亡保険金は、保険契約上で指定した受取人の固有の資産となります。相続放棄した場合であっても、死亡保険金を受け取ることができます。つまり、遺産分割を行わなくても確実に相続人のものになる強力なものなのです。

例えば、相続財産として、長男と次男いる家庭で、長男が同居していた自宅の土地1億円がある場合、次男にも平等に土地を分けようとしても、不動産を均等に分割することはできません。持分を共有することは可能ですが、いったん共有してしまいますと、将来的にその処分が難しくなります。しかし、自宅を売却して現金化しようとしても、自宅に長男が住んでいれば、難しい話となります。いずれにしても遺産分割はうまくいきません。

そこで、生命保険を活用するのです。長男が自宅の土地1億円を相続しても、長男を死亡保険金の受取人に指定し、長男が次男へ現金を支払う代償分割を予定することが効果的です。これによって、遺産分割の争いを回避することができるのです。

納税資金準備のための生命保険の活用

また、納税資金対策として、生命保険は、相続発生時にすぐに現金化できます。相続が起こると、必要になるお金は相続税だけでなく、葬式費用や相続人の生活費、借金の返済など、多岐に渡ります。しかし、相続が開始すると、被相続人の口座の解約手続きに手間と時間を取られてしまいます。そこで、容易に現金を支払ってもらえる生命保険が役に立つのです。

さらに、相続税対策として、生命保険の非課税枠を活用して相続税負担を軽減することができます。死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象とされますが、そのうち「法定相続人の数×500万円」の非課税枠を与えてもらえます。銀行預金を持ったまま相続を迎えるくらいならば、今すぐに一時払いで終身保険に加入したほうがよいでしょう。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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