【相続の事例紹介】相続生前対策を正しく実行した事例

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【事例】暦年贈与による財産の移転

7年で贈与税の時効?

Мさん(70代・男性)は、60代の妻と40代の娘2人が相続人です。Мさんは30代で会社の社長となり、70歳で退くまで30年以上も代表を務め
ずっと会社のトップとして第一線で仕事をしてこられました。現在も、書籍を出版したり、講演活動をしたりで、充実した日々を過ごしておられます。

そうしたことから、自分の相続のことはきちんとは対策をしてこなかったということで、いよいよきちんとしておこうと、相談にこられました。

Мさんの財産は、自宅と別荘と、預金で、約1億5000万円となり、相続税は約1400万円と試算されました。自宅に同居するのは妻と独身の長女ですので、小規模宅地等の特例が適用でき、配偶者の特例も適用すると1次相続での納税を減らす選択肢はあります。

Мさんが気かがりなことは、嫁いだ次女と孫娘の生活や将来のことでした。
孫はまだ幼稚園児ですが、学校に入れば教育資金がかかるため、それに充てるように自分で娘名義の預金口座を作り、2000万円を定期預金として、娘に渡してあるということです。

自分の手元を離れたものの、娘は贈与税の申告をしておらず、使わずに持っているということなので、どうしておくのがいいか、アドバイスをもらいたいとのこと。

Мさんは有名人が親から財産の贈与を受けた際、贈与税の時効にかかり、課税されなかったという報道を知り、贈与税に時効があるということを知ったということで、自分の場合はどうかも知りたいということでした。

租税回避行為は止めなさい

娘に渡した預金は渡した時点で贈与なので、本来は贈与税585万円を申告、納税するべきところですが、そのまま贈与税を払うには額が少なくありません。

そこで、Мさんが娘に貸し付けたものとして、これから、契約書を作り、債権を暦年贈与していくようにする方法を提案しました。

また、今後、Мさんの収入は無くなる時期がくるため、現在の預金の一部で不動産を購入して賃貸する方法も提案しました。そうすることで、相続税の節税になり、預金が目減りする不安感は減らせるのです。

Мさんは、贈与が時効になるまで長生きすれぱいいのかと言われましたが、グレーゾーンに押しやるよりは、贈与契約書を作り、非課税枠を活用しながら正式に贈与していくことをお勧めしました。

契約書という証拠を残しながら、合法的に贈与をすることで不安はなくなるでしょう。

法的には時効が成立するとしても、税逃れとなりますので、それはお勧めできないのが結論。合法的に贈与が成立する方法をお勧めします。

【事例】生前に親の財産が子供に移されていた

伝え方の難しさ

Aさん(60代・女性・次女)の母親は90代で、父親は20年前に亡くなりました。

母親が1人暮らしになり、その後、Aさんも離婚をしたことから、母親とAさんが同居することになり、2人でお金を出し合っていまの家を購入しました。

所有する割合は、母親5分の2、Aさんが5分の3です。母親はそれまで住んでいた家が古くなったていたので、売却して、その代金を出し、Aさんは貯金とローンの組み合わせとしました。

いままでは母親も元気でしたので、Aさんも定年まで仕事を続けてきましたが、母親も動きにくくなってきました。

幸い、Aさんは定年退職の時期になり、時間的な余裕が生まれましたのでそろそろ相続のことも用意しておきたいと相談に来られました。

Aさんの兄弟は兄、姉(長女)、妹(三女)で、それぞれ、近くに住んでいます。母親の年齢であれば、長男が親と同居して、面倒を見ることが一般的でしたが、兄は実家から一時間程度の距離に住んでいるにもかかわらず、同居はせず、実家にもどるつもりはないということを皆に言っています。

姉も妹も、自宅はあり、実家をもらうつもりはないため、兄の勧めもあって母親は「自宅はAに相続させる」という自筆の遺言書を書いてくれました。

兄は母親の面倒を見る事はできないので、財産はいらないから、3人で分けて良いと言っています。すると、現金は3人で3等分となります。

しかし、相談に来られた理由の1つとして、姉と妹はしっかりした性格で、以前から、母親から現金をもらおうと、それぞれが画策している様子が見受けられるからです。

現在、母親名義の預金は4000万円程度ありますが、父親から相続した財産は、その倍くらいあったはず。しかし、その預金が、すでに半分ほどに減っているのです。いまから思えば、母親は、満期になった定期預金を引き出して、姉と妹に渡していたようなのです。

銀行の封筒を、母親から妹が受け取っているのを見たことがありますし、定期預金の満期後に妹の住宅ローンの抵当が外れていることもわかりました。

感情論を避けて相続まで動かない

このままでは、姉妹間で相続争いが起こる要素をはらんでいます。長男は姉妹間の話には入りたくないため、財産はいらないと言うことですが、相続になるとまとめ役が必要です。

そこで、長男がリードし、母親が遺言書を書ける状態が確認すること、医師の判断が必要であれば診断書をもらっておくこと、過去の贈与は母親に確認して、書類にしておくこと、などが必要だとアドバイスをしました。

過去の贈与については、姉妹間で確認、合意をするのが望ましいのですが、今からそれを指摘し合うことは避けた方がいいかもしれません。

生前贈与を見つけたと直接言ってしまうと、それだけで、逆ギレされ、感情論に発展しかねません。正しいことでも、家族間で正論を突きつけると、逆ギレされて絶縁になりかねません。

相続発生後に、専門家から事務的に確認した方が、無難でしょう。

【事例】認知症の母の相続対策

Aさん(50代女性)の父親(80代)はガンと告知され、現在、入院して闘病中です。母親は大腿骨を骨折して入院生活が長引いたことから、車いすとなり、認知証も発症し、自宅に戻って生活する事ができなくなり、昨年、施設に入所しました。

Aさんも、姉も、嫁いで、両親は2人暮らしをしてきましたので、母親が施設に入ってから、父親は1人暮らしとなりました。

そのため、Aさんと姉は、交代で実家に通って父親のために家事をサポートし、母親の様子も見に行くなど協力しており、円満な関係です。そうするうちにも、今度は、父親が体調を崩し、病院で検査をしてもらうと、末期のガンだと診断され、手術はできず、あまり長くないかとしれないと
宣告されたのです。

父親とAさん、姉の心配事は、認知症の母親のことで、とても相続の手続きが進められる状態ではないため、どうすればいいか、相談に来られました。また、相続税がどれくらいかかるかも知りたいということでした。

父親の財産は、自宅と貸家2棟、別荘地、預金で約1億円程度あります。基礎控除を超えていますので、相続税の申告も必要になります。相続税を計算すると約600万円となりました。

相続税は、父親の預金で払える見込みが立ちますので、安心されたのですが、やはり、課題は認知症の母親のことです。

遺産分割協議の課題

このまま父親が亡くなってしまうと、認知症の母親は、意思能力か低下しているため、遺産分割協議ができません。

そのために、父親の相続手続きの際、母親には成年後見人を選任し、後見人になった人が遺産分割協議のための代理人を申請し、家庭裁判所で選任してもらわなければ、遺産分割協議ができません。

また、母親の法定相続分は所得しなければならず、その後は、成年後見人が母親の財産を管理することになれますので、相続対策となる贈与や不動産対策ができなくなります。

こうしたことを避けるには、父親に遺言書を作成してもらい、遺産分割を指定してもらうことが解決の方法だとアドバイスしました。

父親の状態を聞いてみると、末期ガンとはいえ、意思は明確だということです。財産の分け方についても、父親と娘2人には合意できているということです。

Aさんが父親に報告したところ、遺言書を作成したいという意思が固まり、早急に必要書類を揃え、分割案も整理できました。

相談に来られてから10日後には、公証人と証人ふたりが父親の入院している病院に出向いて、公正証書遺言の作成が終えられたのでした。

認知症の母親には不動産の維持管理はできないため、娘2人がそれを引き受けて母親のサポートをしていくことが父娘の気持ちでした。それが遺言書により実現でき、相続のときも家庭裁判所への手続きが不要になります。

父親の決断も早く、意思が明確なうちに間に合ってよかったと安堵されました。ガンの告知はつらいことですが、決断するきっかけになったことは幸いだと言えます。

父親の財産の大半が不動産で、将来、売却や建て替えなどが想定されます。その際、認知症の母親の名義があると前向きな対策ができないのです。母親の生活を支えるためにも、必要な遺言書だったと言えます。

【事例】娘婿に財産は渡したくない

Aさんは70代のご夫婦。本や新聞記事を見て、2人で相談に来られました。Aさん夫婦はともに教職に就いて、仕事をしてきましたので、財産を残したのも夫婦で協力したからこそできたことです。

そのため、自宅と2つのアパートは、すべて夫婦の共有名義で購入しています。

夫婦の財産を確認すると、自宅と6世帯のアパート、10世帯のアパート、預貯金、有価証券などを合わせると、Aさんも、妻も、ほぼ1億円の財産となり、合わせると2億円の財産となりました。

今年から相続税が変わったため、本を読んだり、セミナーに出たりして、いよいよ、対策をしておきたいと、2人で相談に来られました。

共有の自宅、アパート2棟、預金などで、夫婦合わせると2億円の財産。相続税も気になるところで、一次相続、二次相続での相続税を比較し、分割案を検討しておくことが必要だとアドバイスしました。

それぞれに財産があるため、これから節税対策をして、評価を減らすことも含めた節税案の検討が必要です。

しかし、Aさん夫婦のいちばんの不安は別のところにありました。Aさん夫婦は、3人の娘に恵まれ、それぞれ嫁いで、孫もひとりづつ。

同居はしていませんが、幸い、3人とも近いところで生活をしているので、普段から互いに行き来して、とても円満です。

Aさん夫婦と娘、孫が一緒に旅行に行く事もあり、とても仲がいいのです。しかし、Aさん夫婦の財産が3人の娘に相続されたあと、仮に、娘婿よりも娘のほうが先に亡くなることもなきにしもあらずです。

そうなると、Aさん夫婦の残した自宅やアパートが娘婿にも相続されるため、孫には相続されずに、娘婿が勝手に売ってしまうのではないか、と。

そうした不安を解消しながら、相続対策を進めたいというお気持ちでした。

次世代に任せる割り切りも

これらの問題以外に、2棟のアパートは古くなってきて、修繕費がかかり、空室もあるので今後、いままでどおりに維持することが難しくなります。

これから20年、30年を見据えた不動産の維持の仕方を検討しなければならない時期にきています。

Aさん夫婦は、長女が代表で不動産を管理し、家賃を3人で分けていくのが理想だということで、民事信託も検討していきたいというお話もありました。

選択肢がいくつもありますが、賃貸事業は20年、30年と長丁場でもあり状況により、管理、修繕だけでなく、建て替え、買換の大決断も必要です。

関係者は家族だけが望ましいこともあり、夫婦ともに遺言書を作成して3人の娘と孫に相続、遺贈していけば、最初の不安はなくなります。そうしたこともアドバイスをしました。

選択肢を整理するため、相続プランの作成をお勧めし、娘さん達とも検討してもらうことになりました。財産もずっと同じでは維持できないため、先を見越した決断が必要です。

娘と孫には財産を渡したいが、娘婿には渡したくない、という気持ちはわかりますが、いつまでも同じ形の家族とはいかないのが現実です。次世代に任せていく割り切りも必要だと感じます。

【事例】介護のからむ相続

Aさんの母親は長男家族と同居してきましたが、父親が亡くなったあと、嫁姑の関係が悪くなり、長男夫婦から家を出るように言われました。

父親が亡くなったとき、二次相続のことも考えて、母親の名義ではなく、同居する長男の名義にしたのです。

母親は預金を相続し、Aさんは遠慮して何ももらいませんでした。同居して、母親の面倒を見るからこそ、自宅は長男の名義にしたわけですが、手続きが終わってしまえば、そんなことは忘れたようで、長男は母親の面倒など見るつもりはないとも言うのです。

やむなくAさんが引き取り、10年以上も同居、介護をしてきました。その間、母親にかかった介護費用は、病院の治療費、デイサービスの費用などが必要で、父親の遺族年金などから支払ってきました。さらには、日常の食事、衣類、消耗品をはじめとする生活費や病院の送り迎えなど介護にかかる労力はAさんや家族が担当してきました。

母親は一昨年、80代で亡くなり、残った預金はAさんが受け取りましたが、長男から、母親の介護に使った現金を返せと損害賠償請求をされたのです。母親を家から追い出し、面倒を見る事もなかった長男からの提訴されるとは想像もしていなかっただけに、Aさんはあきれてしまいました。

裁判は誰も得しない

長男は弁護士を代理人に立てて、本格的に取り組んでいて、結果、Aさんには勝ち目がなく、家庭裁判所では和解としながらも、母親の面倒を見てきたAさんが長男に400万円を支払わなければならない結果となりました。

こんなことでは、親の介護をした人が報われない、多くの人にもこの事実を伝えて自分の二の舞になり、苦労する人が増えないようにと、手紙が届きました。

「裁判所の決定では介護する人などいなくなる」とAさんの気持ちは収まりません。長男の言い分もあるのかも知れませんが、Aさんの説明では親の介護をした人が苦労した上に損をするという結果で、とても理不尽に思えます。

裁判所では、証拠をもとに主張を判断していくため、事実とは違う判断もあるかもしれません。だからこそ、感情の行き違いに発展するのでしょう。

家庭裁判所に持ち込まずに、自分たちで解決されることをお勧めする次第です。

介護してきた人はご本人や家族から感謝されるのが望ましいところです。行き違いの原因の多くはコミュニケーション不足ですので、「何事もオープンにして、感情の行き違いにならない配慮が必要です。

【事例】遺留分侵害請求で調停になった

家庭裁判所での調停

Aさん(60代・男性)は、一昨年に母親が亡くなり、遺言書で財産を相続しました。しかし、その後、姉妹3人から遺留分の請求の調停を起こされ、家庭裁判所で4回の調停をしてきました。

姉妹は弁護士を依頼しており、先方の弁護士より遺留分の額を提示され、次回に回答をしなくてはならないのですが、その価格が妥当かどうか、アドバイスを受けたいと来られました。

父が亡くなったときは、自筆の遺言書があり、母親と共有名義の自宅は長男であるAさんが相続しました。

Aさん家族が同居し、母親の面倒も見てきましたので、姉と妹が積極的に手伝ってくれたことはありません。そうした状況から、母親も遺言書を書いてくれて、母親の財産もAさんが相続したのです。

父親のときは、まだ母親がいたからなのか、財産の大部分の自宅をAさんが相続しても、姉妹から遺留分の請求はありませんでした。

ところが、今回の母親の相続で最後だからか、弁護士を入れて遺留分の請求がされたのです。

母親の財産は自宅の土地建物の半分1000万円と預金1000万円で、弁護士からは1人250万円の遺留分と提示されています。Aさんの気持ちとすれば、ほとんど面倒を看なかった姉妹に払う額はもっと少なくしたいという心情だというのです。

調停は長引くとダメージも大きい

しかし調停に持ち込めば不動産は「路線価」ではなく、「時価」が一般的です。不動産を「路線価」評価していることは価格を抑えていることになり、良心的だといえます。

よって、Aさんにアドバイスしたことは、多少のことであれば譲歩して、遺留分を払って、早く終わらせたほうが得策、だということです。ただし、払えるお金がない場合は、分割払いの条件を出すことも可能でしょう。

Aさんの気持ちは、遺留分を請求されたときから許しがたい気持ちになっていて少しでも減らしたいということばかりだったようです。

遺言書がなければ、自宅の名義を簡単にAさんにすることはできなかったと言えますので、母親に感謝し、姉妹にも気持ちよく遺留分を払うことで決着することをお勧めしました。

いつまでも拘っていると多少は減額できたとしても、相手を攻撃する感情が自分にも向かってきますので、相当なストレスを抱えることは間違いありません。

こうしたアドバイスを聞いて、Aさんは「ほんとうにすっきりした。早めに和解するようにします」と言って笑顔で帰られました。姉妹側の請求が良心的なこともわかり、納得されたようでした。

調停に関わるストレスは相当なもので、長引くほど体にダメージを受けます。争い事から早く離れることが大事です。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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