究極の民事信託!受益権分離型で元本と収益を分離できるか?

信託
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受益権分離型信託の活用方法とは?

「土地建物」の価値と「家賃収入」の価値に分ける?

受益権の分離とは、信託財産そのもの(元本)を受け取る権利(=元本受益権)と、そこから発生する利益を受け取る権利(=収益受益権)を分離することをいいます。

たとえば、信託財産が賃貸不動産であれば、土地と建物そのものを持つ権利が元本受益権、家賃収入から諸経費を差し引いた利益(不動産所得)を受け取る権利が収益受益権となります。

また、信託財産が金融商品の投資信託であれば、当初個別元本と普通分配金に分離することができます。

収益と元本の分離

分離された受益権の相続税評価

ここでの民事信託の面白いところは、同じ資産から発生する価値、すなわち、将来キャッシュ・フローを2つに分離し、複数の受取人を設定することができることです。また、分離された各受益権は、別々に譲渡・贈与又は相続することが可能です。

父親が受益権を贈与しようとする場合にも、安定的に現金収入が必要な長男には収益受益権を付与し、そうではない長女には元本受益権を付与することで、現金が必要なタイミングに応じて受益権を作ることができるのです。

もちろん、老後の生活費が必要であれば、収益受益権を父親が自ら持っておくこともできます(自益信託)。

受益権の分離と贈与

受益権の評価は、「信託財産の評価額=元本受益権+収益受益権」という計算式で表されます(財産評価基本通達202)。

たとえば、信託財産が賃貸不動産であれば、不動産の評価は土地と建物の相続税評価額(路線価等、固定資産税評価額)ですから、元本受益権と収益受益権の評価額の合計は、不動産の評価額に一致するということです。

一方、各受益権の評価ですが、収益受益権は、各年度の収益ごとに基準年利率(国税庁)による複利現価率を乗じた金額の合計額となります。また、元本受益権は、信託財産の評価額から収益受益権の評価額を控除した金額となります。つまり、収益受益権の評価額を計算すれば、引き算で元本受益権の評価額が出るということです。

収益受益権の評価は割引現在価値

例えば、毎年3%の収益を生む債券を信託財産とする10年の信託契約を締結した場合、収益受益権は「3%の利息を10回受け取る権利」となります。よって、各年度の利息を基準年利率による複利現価率を乗じた金額の合計額と評価されます。

時間が経過して利息を受取るごとに収益が実現していきますから、収益受益権の評価額は、毎年減少していき、契約満了時にはゼロとなります。

元本受益権の評価は差額計算

元本受益権の評価は小さい

受益権を分離した結果、元本受益権の評価がとても小さくなります。【元本受益権=信託財産-収益受益権】という引き算で評価されるからです。

これは財産を持つということは、その元本そのものを所有する権利に加えて、そこから生み出される収益も得る権利がセットになった状態を意味すると考えているからでしょう。

複利年金現価率

受益権の評価

元本受益権の計算例

受益権を分離しますと、元本受益権の評価を大きく引き下げ、贈与税の負担を軽減することが可能となります。

例えば、評価額3,000万円の賃貸不動産を信託し、毎年150万円(利回り5%)の利益が得られるものとしましょう。委託者は父親、収益受益者は父親、元本受益者は長男、信託期間は20年とします。

収益受益権は基準年利率によって割引現在価値を計算しますので、2,776万円と評価されます。一方、元本受益権の評価額は、3,000万円から収益受益権の評価額を差し引き223万円と評価されます。賃貸不動産の信託によって元本受益者が子供と設定された他益信託ですので、元本受益権223万円に対して贈与税が課されるのです。

受益権分離型信託

委託者 受託者 受益者
父親 信託会社 (収益)

父親

(元本)

長男

受益権分離型信託を活用した相続税対策

賃貸経営から得られる利益については父親が収益受益権を持っていますので自益信託であり、贈与税は課されません。これは、信託を設定したとしても長男に移転されず、父親の相続財産として蓄積されていくことになるため、信託を設定しない場合と同じ状態です。

しかし、信託を設定した場合には、元本部分の評価を大きく引下げ、税負担を軽減させる効果があります。

もし、父親が相続発生時まで賃貸不動産の所有を継続していた場合、路線価等の変動はあるかもしれませんが、基本的に賃貸不動産そのものの相続税評価額3,000万円に対して相続税が課されます。

これに対して、信託を設定した場合、元本から20年分の利益を反映させた収益受益権を差し引いて評価することができます。すなわち、賃貸不動産の評価額3,000万円から収益受益権2,776万円を差引き、223万円が課税対象となるため、父親から長男への財産承継に係る税負担を軽減することが可能となります。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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