遺産分割で土地を共有するとなぜ悲劇が始まるのか?

目次

よくある失敗事例

東京都の近郊、広大な庭のある豪邸に住む方の相続です。大きな土地が相続財産になります。納税資金は何とか用意できました。しかし、複数の相続人が遺産分割協議でもめてしまい、裁判になってしまいました。

弁護士に相談したところ、民法の遺留分の問題もあるため、相続人間で公平な遺産分割を行うようにとの指導を受けました。その結果、土地を共有することになりました。つまり、複数の相続人が、持分に応じて所有権を持つ状態となりました。

相続後の数年間は、共有者同士の仲が良く、そのままの状態で特に問題はないように見えました。

しかし、ある日、共有者である兄弟の一人が他界しました。その相続で土地の所有権が、子供たち3人に相続されました。すなわち、土地の共有者が2人増加したのです。

数年後、別の共有者も他界し、子供2人が相続しました。共有者がさらに1人増加したのです。結果として、いとこ同士で土地を共有する状況となりました。ただ、仲が良かった先代と比べて、いとこ同士の人間関係は薄く、10年以上顔も見たことがないような関係です。

その後、「現金が必要だから、俺の持分を買い取ってくれ」と、いとこの一人が言い出しました。しかし、他の共有者は誰も買い取ろうとしません。結局、共有する土地は、何もできない硬直した状況に陥ってしまいました。

共有された土地は、共有者全員の同意によって初めて売却することができます。建物の建替えなどの有効活用も同様です。

しかし、共有者間の人間関係が薄いため、売却や有効活用の話し合いが全く進みません。

また、共有者は連帯して維持コストを負担しているものの、誰が固定資産税を納付するか、誰が補修費用を負担するのかという問題で、争いが発生するようになりました。もはや全員で意思統一することが極めて難しい状態に陥ったのです。

土地の共有は避けたほうがよい

地主の方々にとっての相続の最大の課題は、円満な遺産分割です。この点、地主の方々の場合、特に気をつけたいのは土地の共有です。

特定の相続人一人に相続させようとしても、他の相続人との間で不公平さが生じ、遺産分割協議に合意することができません。民法上も遺留分という問題があります。そのため、一般的に土地の相続は、どうしても共有という方向へ流れてしまいがちです。

この点、土地を物理的に分けてしまう、分筆という方法があります。しかし、地主の土地を分筆してしまうと、資産価値そのものが低下する可能性があります。

ある程度大きな土地であれば、宅地分譲に適した複数の画地に切り分けることができ、分筆することも有効でしょう。

しかし、小さな規模の場合や大きな建物がある場合には、難しい問題となります。

それゆえ、共有することに伴うこれらのトラブルによって子供たちが苦しむことを避けるため、親の世代で共有を解消しておく必要があります。安易な共有は避けるべきです。

土地の共有の解消方法

相続が終わって数年が経つと、何も考えずに共有としたことを後悔する事態に陥ることがあります。遺産分割協議の際に、弁護士から共有すべきだと指導を受けた場合、親族内の問題を先伸ばしすることになります。

そこで、できるだけ早いうちに共有を解消し、1筆を単独所有にする必要があります。

その手段の一つとして、共有物分割という方法が使えます。これは、土地を分筆して、それぞれ単独所有にする方法です。この点、共有持分を共有者間で移転させると、譲渡所得が発生し、税負担が生じるのではないかと心配になります。

しかし、共有持分比と、分割後の土地の評価額の比率が、おおむね同一であれば、税務上、その分割による不動産の譲渡(交換)はなかったものとされます。つまり、譲渡所得は発生せず、所得税等は課されません(ただし、価値の変動に伴う贈与税は課されます)。

不整形地や角地の場合には、共有持分比と分割後の評価額の比率を同一に調整することが難しいため、専門の不動産鑑定士のアドバイスを受け、慎重に計算する必要があります。

また、他の手段として、共有持分の譲渡という方法があります。これは、共有持分を共有者の1人が買い集める方法です。ただし、譲渡した際に利益が生じると、譲渡をした者には所得税等がかかります。

そこで、譲渡価額を低く抑えようとしますが、譲渡価額が時価より著しく低い場合は、取得者に贈与税がかかる可能性があります。

さらに、共有物の交換という方法も検討すべきでしよう。これは、互いに共有している2つの不動産がある場合、自ら所有する共有持分と他者の共有持分を交換することにより、各々の土地を単独所有とする方法です。その場合、交換特例を適用することによって、税負担を軽減することができます。

相続時に、安易に土地を共有することは避けるべきです。共有してしまったのであれば、今すぐその解消に取り組むべきでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

目次