事業承継は企業の存続と発展に直結する重要な課題です。この記事では、事業承継における株式承継に焦点を当て、持株会社設立や「株特外し」などについて解説します。
持株会社設立のメリット
事業承継には、先代経営者から後継者への株式の承継が伴います。贈与であれ相続であれ、承継される時点における株式評価額に対して税金が課されます。そこで、株式の評価引下げによる節税スキームを検討することになりますが、ウェルスマネジメント部門やプライベートバンキング部門を持つ銀行や証券会社の営業担当者が、富裕層のお客様に対して積極的に提案する節税スキームが、持株会社設立と「株特外し」です。
経営者は、自分の経営する事業会社の株式を所有していますが、業績好調で事業規模が拡大するにつれて、その株式の相続税評価額が高くなっていきます。その際、事業会社の株式を持つ持株会社を新たに作ることが効果的です。
これによって、含み益に対する法人税等相当額(37%)の控除を行い、評価額の上昇を抑えることができるからです。
ただし、持株会社の総資産のうち、半分以上が株式(ここでは事業会社の発行する株式=子会社株式)となってしまうと、その株式の相続税評価額が下がらず、結果的に持株会社の株式の評価額が下がらなくなるという特別なルールがあります。このような状態の持株会社のことを、株式保有特定会社、略して「カブトク」といいます。
そこで、持株会社は、株式以外の資産を新たに取得することで、株式保有特定会社に該当しない状態を作ろうとします。これが「カブトク」を外すという意味で、「株特外し」と呼ばれる節税スキームです。
ここで取得すべき資産には複数の選択肢がありますが、不動産が一般的でしょう。区分所有マンションでもいいですし、商業ビル1棟でもいいでしょう。
また、数十億円規模の資産が必要であれば、船舶や航空機などがよいでしょう。航空機は1機丸ごと取得してもいいですし、匿名組合出資の持分を取得してもいいでしょう。
事業会社が安定的に利益を稼いでいることを前提に、銀行が「株特外し」のための不動産や航空機の購入資金を融資してくれます。
また、投資信託や債券などの金融資産であっても、類似業種比準価額を適用できるのであれば「株特外し」の効果があります。これらの金融商品は、販売する金融機関に手数料収益をもたらします。銀行や証券会社の営業担当者が好んでお客様に提案しているようです。
事業会社が安定的に利益を稼いでいることを前提に、銀行が「株特外し」のための投資信託や債券の購入資金を融資してくれることもあります。有価証券担保ローンとなるため、メガバンクでは、子会社の証券会社を活用した特別なスキームが組まれます。
さらに、終身保険などの生命保険であっても、類似業種比準価額を適用できるのであれば「株特外し」の効果があります。終身保険であれば、支払った保険料の全額が保険積立金という資産として積み上がっていきます。金融資産と同じような効果が得られるのです。これも販売する金融機関に手数料収益をもたらします。
ただし、「株特外し」の実行には税務リスクを伴います。節税だけを目的とし、合理的な理由がなく「株特外し」を行った場合、「株特外し」による評価引下げの効果が認められないことがあるからです。特に、贈与や相続の直前に、「株特外し」を行うと危ないでしょう。株式以外の資産を取得しようとするときは、資産運用やリスク管理など、その資産を取得する合理的な理由、経済的なメリットを考えておく必要があります。
相続時精算課税の贈与
自社株式のような収益性の高い財産の場合、相続時精算課税によって生前に贈与することにより、賃料を受贈者(子や孫)に移転しておくべきでしょう。相続時精算課税というのは、贈与した時点の課税を、将来相続が発生するときまで先延ばしにする制度です。贈与した時点での課税を、将来相続が発生する時点まで先延ばしにすることができます。
贈与者(親や祖父母)は自社株式を手放すことになり、配当金を得られなくなりますが、これによって将来の相続財産の増加を抑えることができます。受け取る配当金が子や孫に直接入るようにすることで、相続税負担を軽減させることができます。
2024年に相続税法が改正され、相続時精算課税制度が使いやすくなりました。非課税枠として年110万円の基礎控除が新設されたことが、大きな節税効果を生みます。贈与財産が毎年110万円の非課税枠を超えた部分については、従来どおり、累計2500万円まで税金は課されず、それを超えた部分について20%の税金を前払いします。
持株会社を設立し、株特外しを行ったのであれば、事業会社から退職金を支払ったタイミングにおいて株式の評価額が大きく引下げられます。そのタイミングを狙って、一気に贈与するのです。これによって将来の相続税負担を軽減できる可能性があります。
2023年以前は、暦年課税の基礎控除のような110万円の非課税枠が相続時精算課税に無かったことから、暦年課税のほうが有利になるケースがありました。しかし、2024年からは、相続時精算課税でも110万円の非課税枠を使えるようになったことから、どちらを選択しても節税効果は同じです。今後は、相続時精算課税のほうが有利になるケースが増えてくるでしょう。
税務リスクと合理的な事業戦略
「株特外し」を実行する際には、税務リスクを適切に評価し、管理する必要があります。税務当局は、節税を唯一の目的とする取引を厳しくチェックしており、不適切な「株特外し」は課税の対象となる可能性があります。そのため、持株会社による事業承継は、資産運用や新事業展開などの経営戦略に基づく手段として実施する必要があります。