近年、中古建設機械取扱業界のM&Aが増えている。ここでは、中古建設機械取扱業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、中古建設機械取扱業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみよう。
M&Aの多い中古建設機械取扱業界の現状
中古建設機械取扱業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&Aの買い手候補となる同業他社について説明する。
中古建設機械取扱業界の市場動向・経営環境
中古建設機械取扱業は、建設工事に仕様する中古の建設機械器具をリース・レンタルまたは販売する事業者のことをいう。
近年は、建設業の経営合理化のため、機械器具を購入するのではなくリース・レンタルする企業が増えてきた。建設機械器具のレンタル需要は増加が続いている。わが国で使用されている建設機械の半分以上はリース・レンタルによるものである。
国土交通省「建設機械器具リース業等の動態調査」によれば、建設機械器具リース業の国内市場の規模は、2013年の4,911億円から2017年の5,493億円へと増加している。
一方で、業界内での競争が激化しており、リース料やレンタル料の値引き競争が行われていることから、寡占化に向かう業界再編が進んでいる。
中古建設機械取扱業界のビジネスモデル
中古建設機械取扱業のビジネスモデルは、中古の建設機械器具を仕入れ、それを顧客へ販売するというものである。取り扱う機械として、油圧ショベル、掘削機械、整地機械、ロードローラ、ランマ、アスファルト舗装機械、建設用クレーンなどの中古機械である。
金融取引である長期のリース、短期利用サービス提供のレンタルの両方がある。
中古建設機械取扱業界M&Aで買い手候補となる企業
中古建設機械取扱業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような大企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。
カナモト、西尾レントオール、ワキタ、アルインコ、前田製作所、ナガワ、サコス、ニッパンレンタル、サンセイ、ユーピーアール、中道リース、九州リースサービスである。
中古建設機械取扱業界M&Aで売却する売り手のメリット
安定している大手企業にM&Aで中古建設機械取扱業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、得意先である土木建設業者は、機械器具を継続して利用することもできることに加え、建設機械メーカーなどの仕入先との関係を継続することができる。
また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、中古建設機械取扱業の経営効率化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。
さらに、買い手企業が大企業であれば、営業拠点数の拡大による生産性向上、大量仕入れによる取得価額の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。
以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。
中古建設機械取扱業界M&Aで買収する買い手の注意点
中古建設機械取扱業界で買収を行う際、デュー・ディリジェンスにて調査すべき経営資源や注意点を説明する。
中古建設機械取扱業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点
中古建設機械取扱業は、多額の建設機械を所有しなければいけないという特徴がある。日本建設機械工業会の中古車査定制度などを活用して、所有する中古機械の適正な評価を実施しなければいけない。
また、長期のリース取引であれば、営業債権の回収可能性を適性に評価しなければいけない。顧客である土木建築業者は景気に左右されやすい業種であり、貸し倒れが発生しやすいからである。
中古建設機械取扱業の事業性を評価する場合の注意点として、借入金の金利水準がある。多額の借入れに依存する事業であり、金利上昇が業績の悪化をもたらすからである。
中古建設機械取扱業の買収で承継すべき経営資源
中古建設機械取扱業では、顧客との長期リース契約、所有する機械器具が基本となる経営資源である。また、機械器具のメンテナンスを行う必要があるため、技術系人材の承継も重要である。
一方で、建設機械を取得するための銀行借入金も引受けなければいけない。資産と負債のほとんどは、金融取引に基づく債権債務であるので、契約関係の承継は丁寧に行う必要がある。
また、顧客関係の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要だろう。
中古建設機械取扱業を買収するときの企業価値評価(株価算定)
中古建設機械取扱業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる財務数値は、以下の通りとなっている。
中古建設機械取扱業の評価で使う資本コストとマルチプル
まず、TKC経営指標(2015年度)によれば、中古建設機械取扱業の収益性について、売上高成長率は約17.5%である。また、粗利率は37.3%、営業利益率は5.8%となっている。生産性について、1人当たり売上高は2,676万円、1人当たり人件費は542万円となっている。
次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、中古建設機械取扱業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.8~1.4倍、PER倍率は10~20倍、EBITDA/企業価値倍率は5~7倍となっている。
さらに、筆者が推計する中古建設機械取扱業の株主資本コストは、安定した老舗企業であれば8%、急成長の新興企業であれば12%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが5~7%であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.8~0.9であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。
中古建設機械取扱業の類似上場企業比較法で採用すべき企業の例
中古建設機械取扱業を評価する類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、カナモト(9678)、西尾レントオール(9699)、ワキタ(8125)、前田製作所(6281)、ナガワ(9663)、サコス(9641)、ニッパンレンタル(4669)、サンセイ(6307)、ユーピーアール(7065)、九州リースサービス(8596)が挙げられる。