昔からの地主様(不動産オーナー)には、一等地の土地がたくさんあり、現金がほとんど無い方々が多く見られます。地主様の納税資金の作り方を考えてましょう。
不動産オーナーの相続では現金が足りないことが多い
親が地主や企業経営者であれば、その相続のとき、賃貸不動産や自社株式など換金性の低いものばかり相続することになり、相続税の納税資金が不足する事態が発生します。現金預金や上場有価証券が少ないのです。
不動産オーナーの方々は、土地の収益性が低く、現金が貯まりづらいため、どうしても換金しづらい不動産ばかり持つことになります。代償分割を行うとしても、代償金として支払うためのお金が無いことに苦労します。
相続税の納税は、相続発生日から10ヶ月以内に現金一括払いです。つまり、相続にはすぐに使えるお金が必要になるのです。
それゆえ、納税のために、すでに相続人が現金を持っているか、相続財産として現金を受け取るか、いずれかの方法で相続人が現金を用意しなければいけません。
事前に相続人が現金を蓄えておくのであれば、早めに子供たちへ現金や金融商品を贈与することが必要です。親が資産管理会社を所有するのであれば、法人から子供たちへ給料を払って、現金を蓄えさせることも相続対策となるでしょう。
また、親を被保険者、子供を受取人とする生命保険契約も、一つの選択肢となります。相続時に子供が死亡保険金を受け取れば、それを納税資金とすることができます。この際、親が契約者になると、死亡保険金はみなし相続財産になりますが、子供が契約者になると(子供が保険料を支払います)、死亡保険金は、子供の一時所得として所得税等の課税対象となります(相続税の課税対象にはなりません)。子供を契約者として、その保険料の支払いのために必要な現金を、親から子供に暦年贈与するという方法も、効果的な相続対策となるでしょう。
生命保険があれば納税資金をすぐに用意できる
一方、子供が相続時に現金を受け取るのであれば、生命保険を活用することができます。終身保険に加入して受取人を特定の相続人にしておけば、その相続人は契約で決められた金額のお金を迅速かつ確実に受け取ることができます。つまり、生命保険は、遺産分割対策だけでなく、納税資金対策として有効に機能するのです。
生命保険は、遺産分割協議を必要とせず、すぐに相続人が現金を受け取ることができるというメリットがあります。遺産分割協議の話し合いが難航して、銀行預金を引き出すことができなくなっても、死亡保険金を受け取ることは可能ですので、相続人が現金を手にすることができます。死亡保険金は受取人の固有の財産ですから、遺産分割の対象とする必要はないからです。
保険会社へ必要書類を提出すれば、数日間でまとまった現金が支給され、葬儀費用や病院への支払いに充てることができます。
また、死亡保険金は、遺留分減殺請求の対象になりません。遺留分の侵害にかかわらず、受取人である相続人が現金を取得することができます。
さらに、借金を拒否するために相続放棄した相続人も、死亡保険金を受け取ることができます。
以上のように、生命保険契約は、親が加入しても、子供が加入しても、いずれも納税資金対策として有効な手段となります。親の相続でいくらの相続税がかかるのか試算しておき、そのための納税資金がいくら必要となるのか、事前に計算しておくことが必要でしょう。
生命保険でも足らなければ不動産を売却する
死亡保険金が納税資金として十分にあれば問題はありません。それでも納税資金が足らない場合はどうすればよいでしょうか。これは、昔からの地主様によくあるお悩みです。
その場合、「物納」という手段もありますが、物納は容易ではありません。そこで、基本的に相続財産の一部を売却して、現金化することを考えることになります。
売却対象として考えられる資産の代表例は、親が他界して空き家となった実家、利用する予定がない土地でしょう。このような不動産は、保有していても価値を生み出しませんから、遅かれ早かれ売却することになるものです。
不動産を売却すれば、所得税等が課されます。その計算方法は、以下の通りです。
譲渡所得=(譲渡収入-取得費-経費)×20.315% |
すなわち、売却価格から取得時の購入金額、譲渡のための諸経費を引き、20.315%の税率を乗じて所得税等を計算します。
この点、取得時の購入金額といわれても、先祖代々から相続してきた土地の場合、昔いくらで購入したのか全く分からないという場合がほとんどです。
そのような場合には、譲渡収入の5%を取得費とみなすという規定があります(概算取得費)。例えば、売却価格が1億円であった場合は、500万円で取得したものとみなします。そうすると、所得税等は約1,900万円となります。
1億円-500万円(=1億円×5%)-諸経費=9,500万円
9,500万円×約20%=約1,900万円 |
この点、相続が発生した直後に、不動産を売却せざるを得ない状況となったとき、所得税等の負担を軽減してくれる特例があります。取得費加算の特例です。この特例によれば、不動産の譲渡が相続発生日から3年10ヶ月以内であれば、その不動産に係る相続税の一部を取得費に加算することができます。すなわち、譲渡所得が小さくなりますから、所得税等の負担が軽くなるのです。
不動産オーナーの納税資金対策を考えるとき、生前から現金の準備に迫られる必要はありません。都心にある実家など、売却可能な不動産を持っているならば、相続発生直後に不動産を売却することによって納税資金を用意すればよいでしょう。