日本人が大好きな銀行預金は相続税が重い!
相続財産の評価は、相続開始時の「時価」で評価をすることになっています。この点、銀行預金(や郵便貯金)は、相続発生日に金融機関に預けてある残高がそのまま財産評価となります。
普通預金は、相続発生日の残高がそのまま評価額になりますが、定期預金や定期郵便貯金など貯蓄性の高いものは、預入額に既経過利子を加えて評価します。
この際、銀行預金は、金融機関の残高証明書で確認をします。そこで証明された残高が、そのまま相続税評価額となりますので、不動産のように評価引下げの余地は1円もありません。
相続税が課される財産の評価額はどのように決めるか?
日本では、相続税や贈与税の申告で用いる財産の評価方法は「財産評価基本通達」で定められています。
たとえば、不動産の場合、土地については路線価、建物については固定資産税評価額という、一般的に考えられる取引価格よりも低い価格で評価を行うこととされています。
こうした評価額と取引価額(時価)と評価額の差を利用することによって、相続税額を軽減することができます。これが、「評価額引き下げ」対策の基本的な考え方です。
たとえば、2億円の現金を保有して相続を迎えると、評価額は2億円のままです。
ところが、2億円の現金で、1億円の土地と1億円の建物を購入し、現金を不動産に替えて相続を迎えると、土地は約8割、建物は約半分などとなり、合わせて1億3千万円の評価に下がるといった具合です。
ポイントは、時価と評価額の乖離が大きい資産ほど相続税の減少額が大きくなることです。不動産の場合、土地よりも建物の方が評価額引下げの割合が大きくなるため、建物割合が大きい不動産の方が節税効果が高まります。
乖離が最も大きな不動産の代表例は、東京都心部のタワーマンションで、一等地であれば、評価減の割合が8割という物件も珍しくありません。不動産でこれほど時価と税務上の評価額に差があるのは、日本特有の制度といえるでしょう。
不動産を賃貸に出せば相続税は軽くなる!
自宅や貸し駐車場、子供に無償で貸している(使用貸借)土地などは、自用地として100%評価です。土地を貸している「貸宅地」の場合は、借地権を減額して計算します。すなわち、土地は自分のものでも、建物は借地人が建てており、すぐに明け渡してもらうというわけにはいきませんので、借地人の持っている借地権を自用地評価額から減額して評価します。
借地権割合は、地域により定められていますが、60%~70%の地域が多いようです。
自分の土地に、自分名義で、賃貸アパートやマンションを建てている場合、その土地は「貸家建付地」となり、借地権割合に借家権割合を乗じた割合を減額します。
これによって、土地の評価を自用地よりも約2割引下げられます。建物も「貸家」となることで、自宅よりも3割引き下げられます。
財産総額2億円以下であれば相続税対策が簡単!
仮に配偶者がなく子供2人の家庭で2億円の財産を残して相続が発生したとすると、どのくらいの相続税が課されるでしょうか?
答えは、なんと3,340万円です(=1,670万円×2人)。
同じケースで子供1人だと4,860万円になります。親が何の対策も取らないでいると、子供は多額の税金を黙って国に納めることになります。
実は、財産総額2億円程度までならば、生前の暦年贈与、生命保険の加入、不動産に係る特例制度の適用など、比較的シンプルな方法だけで、相続税をほぼゼロにすることができます。
継続は力なり!暦年贈与は意外と効果大!
たとえば、子供や孫のほか、子供の配偶者を含めて10人の受贈者がいるとしましょう。一人につき110万円ずつ合計10人に贈与すると、年間1,100万円を基礎控除の非課税枠内で贈与することができます。
この暦年贈与をコツコツ20年間続けていくと、合計で2億円の財産を非課税で次世代に移転できることになります。
これに加えて、死亡保険金の非課税枠(=500万円×法定相続人数)をフル活用し、小規模宅地等の特例など不動産に係る特例制度をフル適用することができれば、相続税を心配することはありません。相続対策によって、相続財産を基礎控除額以下として、相続税をゼロにすることができるのです。
ここでのポイントは、財産総額が2億円に近い人の場合は、できるだけ早くから贈与を始めること、そして、できるだけ贈与人数を増やすことが、相続税をゼロにするために必要となることです。
4千万円の相続税を国に納めるのか、相続税をゼロにして子供に残してあげるのか、相続税は合法的に「払う」か「払わない」を選択することができる税金なのです。
基礎控除以下まで贈与で減らせば相続税ゼロ
相続税というのは、相続時(死亡時)に財産を保有していた場合に、その財産に対して課せられる税金です。ただし、財産全てに対して課せられるというわけではなく、ある一定の金額までは課税されません。それが基礎控除額です。
つまり、相続時に財産が基礎控除額以下であれば、相続税はかからないということです。
生前に暦年贈与などで相続人に財産を移転しておけば、相続時に手元に残された財産が基礎控除額以下にすることができます。生前の相続税対策によって、相続税はゼロにできるということです。
暦年贈与できる期間が無い場合
将来の相続発生まで長期間の贈与ができない、あるいは受贈者数を増やせないという場合は、必ずしも110万円の基礎控除額にこだわる必要はありません。多少贈与税を払っても贈与額を増やした方が有利となることがあります。
たとえば、贈与額310万円の場合の贈与税は20万円となりますが、税負担率は、わずか6.5%です。これよりも相続税の税率が高いのであれば、税金を支払っても贈与しておいたほうが有利ということになります。
実はこの考え方から、相続税と贈与税の合計額を最も少なくする「最適贈与額」を計算することができます。相続税を減らすには毎年の贈与額を増やせばいいわけですが、贈与額を増やしすぎると今度は贈与税が大きくなりすぎてしまいます。トレードオフの関係にあるのです。
110万円を超える暦年贈与は「最適贈与額」で!
一般的に110万円の非課税枠の範囲内で贈与しようとされます。しかし、110万円の基礎控除の枠内に縛られる必要はありません。
贈与税率が相続税率を下回っている限り、贈与税を支払ってでも生前に財産を子供に移してしまうほうが、相続税と贈与税を合わせたトータルの税負担が軽くなるのです。
ただし、贈与税は超過累進税率が適用されるため、短期間の集中的な贈与を行うとすれば、高い税率が適用されることになるのです。
そのため、贈与税だけを軽減させたいのであれば、受贈者1人1回当たりの金額を下げて税率を低く抑え、複数の受贈者、複数の年度に分散させて、1年間の贈与額を小さくするほうがよいということになります。
しかしながら、毎年の贈与額を小さくして、将来の相続時に相続財産がたくさん残ってしまえば、その分相続税が多く課されることになってしまいます。
それでは、暦年贈与で1年間にどれだけ贈与すべきなのでしょうか。相続財産が減るにしたがって相続税率が下がります。
相続財産を減らすために、毎年の贈与財産を増やせば贈与税率が上がります。これらは相反する関係なのです。
この点、緻密に計算してゆけば、ある一定水準で税負担が最小化する最適な贈与額(年間)が判明します。これが「最適贈与額」なのです。
最適贈与によって生前対策を行えば、相続税と贈与税の合計額を最小化し、相続税を節税することが可能となります。
相続税対策の暦年贈与における注意点はこれだ!
暦年贈与の注意点ですが、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産については、相続税の課税財産に加算されることです。
この規定があるため、余命宣告を受けてから慌てて贈与しようとしても、時すでに遅しということになってしまいます。それゆえ、贈与者ができるだけ若く健康なうちから暦年贈与を始めておくことが必要です。
なお、この3年以内贈与の規定は、相続人以外への贈与については適用されませんので、いざという時は子供ではなく孫や子供の配偶者などに贈与することが効果的な直前対策となります。
また、暦年贈与で覚えておきたいもう1つのポイントは、値上がりしそうな財産から優先的に贈与することです。
生前に親の資産の価値が高まると、それに伴って相続税額も増えることになります。それゆえ、非上場株式や上場有価証券など、将来値上がりしそうな資産は、早めに子供や孫に移転して、子供や孫の資産価値が高まるようにしておくことが得策です。
なお、暦年贈与と混同されやすいものに「都度贈与」があります。扶養義務者から生活費や教育費について贈与があっても、通常必要なものは贈与税の対象にはなりません。
留意点は、必要な都度必要な金額だけ贈与すること、贈与を受けた資金を預金しないこと、そして自動車や不動産などの贈与は対象外となることです。
名義預金に気をつける
よくあるケースは、親が子供名義の銀行口座にせっせと預金していて子供がその事実を知らない、あるいは知っていても自由に使える状態でないようなケースです。
このような場合、「名義預金」つまり「名義は子供でも実質は親の財産」とみなされ、贈与が認められない可能性があります。
名義預金とみなされないようにするには、次の点に留意して贈与の証拠を残しておくことが大切です。
① 贈与契約書を作成することです。贈与は贈与者、受贈者両方の意思があって初めて成立します。そこで両者の意思を証拠として残しておくために、贈与契約書を作成します。
② 現金で渡すのではなく金融機関の口座へ送金・移管することです。財産が移動した記録を残しておくことです。金融機関で振替・移管すれば記録として残せます。現金で渡したのでは贈与の証拠が残りません。
③ 通帳や印鑑は受け取る側が保管することです。贈与の事実は、受贈者側がいつでも使える状況であるかどうかが重要な判断材料となります。税務調査では、通帳や印鑑を誰が管理していたか確認されるようです。
④ 基礎控除110万円を超えるなら申告することです。基礎控除額の110万円を少しだけ超える金額を贈与して、あえて税務署に申告するという方法もあります。例えば111万円を贈与して千円の贈与税を納税しておけば、後々否認されるリスクが小さくなります。