相続税対策はこれで十分!暦年贈与の大きな効果

相続税対策の基本は、財産評価を引下げること、財産を減らすことです。今回は、様々な贈与の制度によって、生前に財産を減らしておく方法を説明いたします。

目次

相続税対策の基本は相続財産を減らしておくこと

相続税の計算方法は、相続財産額から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を、法定相続分で分割したと仮定したうえで、超過累進税率を乗じるものです。これで相続税の総額が算出されます。したがって、相続税は相続財産の大きさによって決まることになり、相続財産が大きければ、当然に税負担が重くなります。

とすれば、相続財産を生前に小さくしておけば、税負担が軽くなるということです。その意味では、本人が豪遊して浪費し、財産を消滅させておくことも相続税対策の一つになるかもしれません。しかし、大部分の資産家の方々は、自分で使うよりも子供に渡したいと考えるでしょう。

相続税対策のもう一つの方法は、相続財産の評価額を引下げておくことです。

例えば、所有する遊休土地に賃貸マンションを建築して、財産評価を引き下げる方法は、昔から有名な手法です。「土地の有効活用」と称して、ハウスメーカーが盛んに売り込んでくるでしょう。これは、相続税評価の高い現金を、相続税評価の小さい賃貸不動産に組み替えることによって、財産評価を小さくするものです。しかしながら、相続税評価を引き下げる効果には、一定の限界があります。

そこで、併用すべき相続税対策となるのが、もう一つの相続財産それ自体を減らしてしまう方法です。これは、親の生前に子供へ財産を贈与するということです。

贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思表示を行い、相手方がこれを受諾することによって成立します。贈与には様々な制度がありますが、基本は「暦年課税制度」です。暦年課税制度とは、「暦年贈与」とも呼ばれ、子供など受贈者1人当たり毎年110万円の基礎控除額まで非課税で、それを超えた部分に贈与税が課される制度です。毎年110万円までの贈与は無税となります。

相続税対策として暦年課税制度の贈与を行う場合、財産を少額に分け、何年も続けることができれば、節税効果が大きくなります。

基礎控除は、年間1人当たり110万円です。しかし、この非課税枠は毎年繰り返し利用でき、孫など法定相続人以外の人にも使うことができます。つまり、暦年贈与は、何人でも、何度でも繰り返し使うことできる制度です。贈与を受ける人とその回数を増やして、毎年少しずつ贈与を続けていけば、相続財産を大きく減らし、将来の税負担を軽くすることができます。

暦年贈与は110万円を超えても構わない

将来の相続財産は、いずれ相続税が課され、減ってしまう財産です。そうであれば、贈与税を支払ってでも、先に子供に渡してしまうほうがよいというケースがあります。

結果として税金が課されるのであれば、低い税率で済ませるほうがよいでしょう。つまり、将来の相続税率よりも、現在の贈与税率のほうが低いのであれば、暦年課税制度で贈与を行ってしまえば、税金が少なくて済むということです。

それゆえ、暦年贈与による相続税対策は、基礎控除110万円の枠内に縛られる必要はありません。基礎控除110万円を超えて贈与税を支払うことになったとしても、相続税率よりも低いのであれば、贈与したほうがよい場合があるということです。

例えば、8千万円の資産を持っている人が、3人の子供と1人の孫(合計4人)に、一人当たり年間110万円の贈与を10年間続けたとしましょう。

110万円×4人×10年=4,400万円

8,000万円-4,400万円=3,600万円

当初持っていた個人財産の8,000万円から、贈与した4,400万円を差し引くと、残りは3,600万円です。ここまで相続財産を減らせば、基礎控除(配偶者と子供3人で5,400万円)を下回るため、相続税はゼロとなります。コツコツと暦年贈与を継続すれば、相続税対策が完成するということです。

住宅資金、結婚・子育て資金、教育資金も非課税で贈与

相続税対策となる贈与の制度として、暦年課税制度のほかに、住宅取得資金贈与の非課税特例、結婚・子育て資金贈与の非課税特例、教育資金の一括贈与の非課税特例があります。

住宅取得資金贈与の非課税特例は、親から子や孫に住宅資金として現金を贈与する場合、一定の金額まで贈与税がかからない制度です。取得する住宅は、中古住宅の取得や増改築の工事であっても構いません。また、省エネ住宅および耐震住宅の場合には、非課税枠が通常の住宅の場合よりも拡大されます。

この制度は、令和2年3月31日までであれば、一般住宅で2,500万円、省エネ・耐震住宅で3,000万円まで、贈与税が非課税となります。

また、結婚・子育て資金贈与の非課税特例とは、令和3年3月31日までの間に、20歳以上50歳未満の受贈者が、結婚・子育て資金に充てるため、金融機関等との契約に基いて、直系尊属の贈与者(父母や祖父母など)から現金の贈与を受けた場合、1,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。契約期間中に贈与者が死亡した場合、非課税で拠出した金額から結婚・子育てに使った金額を差し引いて残額があれば、相続税が課されることとなります。また、受贈者が50歳に達しますと、残額には贈与税が課されることになります。

さらに、教育資金の一括贈与の非課税特例とは、子や孫に対する教育資金の一括贈与について、子・孫ごとに1,500万円まで、贈与税が非課税となる制度です。令和3年3月31日までに、祖父母(直系尊属、贈与者)が、子・孫(30歳未満の直系卑属、受贈者)名義の口座等を金融機関に開設し、教育資金を一括して拠出すると、それぞれ1,500万円までが非課税となります。ここでの教育費の範囲は、学校などへの入学金や授業料、学校以外の塾や習い事の月謝等です。この教育資金は、子・孫が30歳に達したときに使い残しがあれば、残額には贈与税が課されることになります。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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