高齢者が知っておくべき相続税対策:課税される相続財産と不動産評価

目次

相続税がかかる財産

お金に替えられるのには、すべて相続税がかかります。預貯金、有価証券、不動産はわかりやすいのですが、預金から引出した現金、美術品にも相続税がかかります。これらの財産のことを「相続財産」と言います。

ただし、例外があります。死亡保険金は、民法上の相続財産ではないのですが、「みなし相続財産」として相続税がかかります。「みなし相続財産」は被相続人が生前に所有していた財産ではありませんが、「相続財産とみなす」ことになっています。

死亡保険金以外にも「みなし相続財産」があります。死亡退職金、生命保険契約に関する権利などです。ただし、生命保険金には非課税枠があるので、全額に相続税がかかるわけではありません。非課税枠を越えた分だけに相続税がかかるのです。

生前に贈与があった場合には注意が必要です。相続開始前3年以内に贈与された財産についても相続税がかかるからです。令和6年から「相続開始前7年以内の贈与」に延長されました。つまり、過去3年以内(改正後は7年以内)に贈与された財産には相続税がかかるのです。この際、贈与されたときに支払った贈与税は、相続税から差し引くことができます。たとえば、被相続人が死亡した日の2年前に100万円の現金を贈与していた場合、その100万円も相続財産になります。

ただし、この制度は相続または遺贈によって財産を取得した人だけに適用されるルールなので、相続人ではないお孫様などが贈与を受けていても関係ありません。

マイナスの財産

反対に、借金(債務)も相続財産になります。つまり、現預金や不動産などのプラスの財産もあれば、借金などのマイナスの財産があるということです。最終的には、プラスからマイナスを引いた正味の財産に対して相続税がかかるのです。たとえば、プラスの財産が3億円あっても借金を1億円抱えていれば、相続税の対象は正味の財産2億円になります。

相続税がかからない財産

墓地や仏壇・仏具には相続税がかかりません。受け取った弔慰金も一定の金額まで非課税です。

また、相続財産ではありませんが、葬式費用や火葬費用は、相続財産から控除することができます。

生命保険の非課税枠

生命保険には、非課税枠があります。500万円に法定相続人の数をかけた金額です。つまり、法定相続人の数が多いほど、相続税が軽くなるということです。

相続対策として、生命保険に入ることを勧められることも多いと思います。相続税を軽減させる効果もあり、納税資金の確保にも使えます。また、まとまった現金を残すことができるので遺産分割が容易になり、相続争いも防げると考えられるからです。

この際、加入すべき生命保険は、「終身保険」になります。終身保険とは保証期間が決まっておらず、いつ死亡しても保険金が払われる保険です。相続税対策のために生命保険を考えるなら、非課税枠に相当する生命保険に入っておくのも一つの手です。

代償分割

代償分割とは、相続財産をもらう代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う遺産分割の方法です。このために、代償金を支払う人を受取人とした生命保険契約に加入することがあります。受け取った死亡保険金は、遺産分割の対象には含まれませんが、税務上の「みなし相続財産」とされ、相続税の対象になります。

代償分割で受け取ったお金には、相続税がかかります。被相続人の財産を受け取ったとみなされるからです。相続税申告では、代償金を支払った人は「相続財産-代償金」の金額を申告し、代償金を受け取った人は「相続財産+代償金」の金額を申告します。代償金の支払いは、相続人の1人からマイナスされ、別の相続人にプラスされるので、総合するとゼロとなります。

公平な遺産分割を目的とするのであれば、手間を省くために、相続財産をもらわない人を保険金の受取人によいのではないかと質問されるケースがありますが、これは間違いです。受け取った死亡保険金は、相続財産として遺産分割の対象とならないからです。相続人が受け取った代償金が、相続財産に含められるのです。

ここで代償金を支払う際の注意点があります。それは、代償金が相続で受け取った財産を超えないことです。超えてしまうと、超えた分が贈与税の対象になります。

葬儀費用の支払い準備

亡くなる直前や直後に、被相続人の預金口座からお金を引き出してしまうことが多いと思います。相続が発生すると、葬儀費用を支払わなければいけないからです。

亡くなった直後にも口座が凍結されていなければ、キャッシュカードを使って預金を引出すことは可能でしょう。これについて問題となることはありません。相続税申告において問題となるのは、亡くなる直前の引き出しです。

亡くなる直前に引き出した預金は、亡くなるまでに使ってしまうこともあれば、亡くなった時点で手元に残っていることもあるでしょう。生活費などで使ってしまった場合は仕方ありません。手元に残っている場合には、相続財産ということになります。すなわち、「手許現金」として相続財産に含めなければいけません。

相続発生直前に銀行から引き出した手許現金の計算

手許現金は、亡くなる前数ヶ月間に引出した預金の金額から、死亡までに使った金額を差し引いた金額となります。

相続財産に含める金額 = 引出した預金 - 亡くなるまでに使った金額

「引出した預金」は、預金通帳を見れば一目瞭然です。引き出した金額をすべて集計しましょう。「死亡までに使った金額」とは、死亡時までに本人や家族のために使った生活費、医療費、介護費、税金、保険料等の費用になります。亡くなった後の葬式費用や医療費等は含まれません。

亡くなる直前に引き出した預金について、いつ頃まで遡って確認する必要があるのかが問題となりますが、特に決まりはありません。実際に手元に残される現金が引出されたのは、亡くなる前の数カ月間であることが多いです。

手許預金の申告漏れは、税務調査において指摘される事項のナンバーワンです。相続人の代表者が知らない間に、他の相続人が勝手に引出しているようなケースもあります。注意しましょう。

土地の評価額

土地の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2通りあります。これは国税庁が公表する路線価図を見るとわかります。ほとんどの土地は路線価方式で評価するものと考えていいでしょう。

路線価方式によれば、「路線価×土地の面積」で計算します。

小規模宅地の特例とは

居住用又は事業用の土地について、一定の要件を満たす場合には、80%の評価を引き下げることができます。不動産貸付用の宅地は50%です。

一定の要件を満たした居住用の土地には、小規模宅地の特例が適用され、評価額が80%割引になります。1億円の評価額の土地であれば、2千万円まで下がるので、税負担が軽くなります。

被相続人が居住用として使っていた土地は、お金に替えることはできますが、生活の基盤となるものです。簡単に売ることはできません。こうした土地にまで高い税金がかけられると、相続人の住む場所が無くなってしまうおそれがあります。そこで、小規模宅地の特例によって、大幅に減額されるのです。

居住用の土地を80%減額できる要件

被相続人が居住していた土地の評価は、次のいずれかの要件を満たした場合に、限度面積330㎡まで80%減額されます。

配偶者が相続人となる場合、配偶者には無条件に適用されて80%減額となります。配偶者がすでに他界していた場合、一定の要件を満たす同居親族または「家なき子」と呼ばれる別居親族に、適用されることとなります。

被相続人相続人
身分居住要件所有要件
住んでいた配偶者住んでいなくてもいいいつでも売っていい
住んでいた同居の親族相続前から同居申告期限まで所有し続ける
住んでいた (配偶者・同居親族なし)別居の親族 (家なき子)相続開始前3年以内に、自分、配偶者、3親等内の親族の所有する家屋に住んでいない ・相続開始時に住んでいた家屋を過去に所有していたことがない申告期限まで所有し続ける
自分は住んでいない (親族に住ませている)生計同一だが別居している親族相続前から住んでいる申告期限まで所有し続ける

相続税の申告期限と納税期限

相続税の申告期限は、「相続開始を知った日の翌日から10カ月以内」です。

相続税の申告書の提出先は、被相続人が死亡したときの住所地を所轄する税務署になります。相続人の住所地は関係ありません。たとえば、相続人が沖縄や北海道に住んでいたとしても、被相続人の住所地が東京にあった場合は相続人全員が東京の税務署で申告しなければいけません。

納税期限は、申告期限と同じです。銀行窓口にて現金一括支払いすることになります。

相続税ゼロの場合

財産が基礎控除額を下回る場合には、相続税申告は必要ありません。ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の結果、相続税がゼロ円になった場合には、納税は必要ありませんが、申告書の提出は必要です。これらの特例は、申告することそのものが適用できる条件となっているからです。

遺産分割できなかった場合

遺産分割には、法律上いつまでに分けるという期限がありません。それゆえ、合意できなければ、相続人同士で納得がいくまで時間をかけて話し合いを続けることが可能です。しかし、相続税申告の期限を延長してもらうことはできません。

このような場合、とりあえず法定相続分どおり相続したものとして各相続人が相続税を払います。また、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を提出しておきます。

その後、遺産分割がまとまった後に、修正申告または更正の請求を行ないます。税金を追加で納める場合もあれば、返してもらう場合もあるということです。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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