親の相続財産に不動産や自社株式が多く含まれていると、将来の相続時にその分け方が問題となります。遺産を分けやすくするにはどうすればよいでしょうか。
分けづらい不動産と自社株式は争いを招く
相続対策を考える際、最初に検討すべきことは「遺産分割」です。相続税の節税という目的も重要ですが、先に分け方を考えましょう。資産には個性があり、誰が所有して、どのように使用するかによって価値の大きさは変わってきます。相続税の問題よりも、資産の分け方のほうが重要なのです。
民法に従った相続において、相続人が複数いる場合、不動産や自社株式に係る遺産分割協議の結果、不動産が共有されたり、自社株式が分散して相続されたりすることがあります。
遺産分割協議では、分け方に関するルールはなく、自分のほうがたくさん欲しいと主張する相続人たちによって、相続財産をめぐる争いが発生することになります。
しかし、不動産を共有したり、会社を複数の株主で支配したりする状態では、各相続人が不動産や会社を自由に経営することができません。
遺産分割に合意できなければ子供たちが裁判で争うことも
相続発生後に遺産分割がまとまらなければ、相続税の納税額が確定しません。相続税の納付は、相続開始日から10ヶ月後が期限で、現金一括払いです。遺産分割協議書が完成しなければ、銀行の窓口で預金を引き出す手続きもできません(民法改正によって、一部の支払いは可能となりました。法定相続分の3分の1または150万円のいずれか小さな金額が限度額です)。
そのため、大急ぎで納税しようとする場合、相続人が自分の財布から現金を用意することになります。子供にとって納税が極めて困難な手続きとなるでしょう。期限内に一括納付できなければ、利息を支払って分割納付する「延納」を選択することになるかもしれません。
また、遺産分割協議書が完成しななければ、有価証券や不動産を売却することができません。銀行預金の手続きだけでなく、証券口座や不動産登記も変更することができません。様々な資産を自由に処分することができないのです。極端な話、相続人の中に1人でも遺産分割協議書に押印しない人がいれば、相続財産は分割できなくなってしまうのです。
実務上、相続税の納税資金を、相続した不動産の売却代金で賄おうとするケースがよく見られますが、遺産分割がまとまらない場合には、不動産の売却ができなくなります。
そして、銀行預金からお金を引き出すことができなければ、相続人の生活費が枯渇してしまうおそれがあります。親の収入に頼っていた相続人は、生活に行き詰まってしまうかもしれません。
いずれにせよ、遺産分割がまとまらないと大問題です。何よりも重要な問題は、相続人間の争いが裁判所に持ち込まれて、調停から審判になるリスクです。
訴訟に発展すると、多額の弁護士費用が必要となることに加えて、数年間にわたり、預金の引出しや不動産の売却ができなくなります。また、争いの長期化によって人間関係が悪化してしまうことは間違いありません。訴訟は全ての親族に大きな精神的ストレスをもたらします。
遺産分割協議がまとまらないと税負担が増える?
遺産分割がまとまらない場合、相続税申告が不利になるリスクがあります。相続税の申告期限(相続開始後10ヶ月)までに遺産分割がまとまらないと、「配偶者の税額軽減(配偶者が取得する相続財産が法定相続分相当額または1億6,000万円まで課税されないとする制度)」や「小規模宅地等の特例(被相続人の生活基盤になっていた居住用・事業用の宅地には、▲80%または▲50%の評価が引き下げられる制度)」などを適用することができません。
これらの特例が適用できないとなると、相続税額が想定以上に膨らんでしまうこととなるでしょう。
例えば、小規模宅地等の特例を適用するケースで、遺産分割に際して配偶者が居住用の土地(330平方メートルまで)を相続することを確定させようとしますと、土地の80%評価減が使えるためにため、1億円の土地(330平方メートル未満)の場合、課税価格に算入すべき金額は、2千万円となります。未確定のままの場合は、小規模宅地等の特例を適用しない場合に比べて、財産評価の差額は8千万円となり、相続税額は数百万から数千万円も変わってきます。
また、不動産の分け方でもめた場合、いっそのこと売却して現金で分けよう事態になるかもしれません。しかし、相続財産が未分割の状態では、不動産や株式を売却する際の「相続税の取得費加算の特例」を利用することができません。これは、相続発生後3年10ヶ月以内に、相続した不動産や株式を売却した場合、その譲渡所得に係る税負担を軽減してくれる制度です。
いずれの場合も、遺産分割協議がまとまらなければ、相続人の税負担が大きなものとなるのです。
不動産や自社株式でもめたら代償分割も活用したい
遺産分割をまとめるための手法として、「代償分割」があります。これは、相続人のうち1人が分けづらい大きな財産(不動産や自社株式など)を取得し、それを取得した相続人が、他の相続人に対してお金(代償金)を支払う方法です。他の相続人は、代償として現金をもらうことになります(現金以外の資産も可能です)。
代償分割を活用すれば、不動産を分割せずに遺産分割をまとめることが可能になります。換金しづらい不動産や非上場株式など、分割せずに特定の承継人に全て相続させたい場合などにおいて、代償分割は効果的な方法です。
ただし、不動産や自社株式を取得した相続人は、他の相続人に対して支払う現金を自ら用意しなければいけません。被相続人が契約する生命保険の死亡保険金の受取人となっておくなど、代償金の資金確保のための相続対策が必要となります。