相続対策に生命保険を活用していますか?

規模の大きな不動産は、相続のときに容易に分割できるものではありません。今回は、生命保険を活用して上手に遺産分割する方法を考えてみましょう。

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分割・納税・節税の3つに効果がある生命保険

相続生前対策には3つの柱があります。①円満な遺産分割、②納税資金の確保、③相続税負担の軽減です。相続対策は、この順序で検討しなければなりません。

しかし、実務の現場では、相続生前対策を何も行わずに、相続発生を迎えてしまっているケースがほとんどのようです。

相続には様々な問題が発生しますが、相続発生後では問題解決が手遅れになるケースがあります。発生可能性のある問題点を生前に把握してしておくことができれば、トラブルを回避することができたはずです。

「そうは言っても、相続対策など何から始めたらよいか、わからない。」という方々に、手っ取り早く実行できる相続対策をお教えしたいと思います。

実は、ここで示した相続生前対策の3つの柱すべてに効果が出る手段があります。それが生命保険です。

第一に、生命保険は遺産分割対策に有効です。生命保険には、死亡保険金の受取人を指定することができる機能があります。受取人が指定されると、死亡保険金は受取人固有の財産となり、遺産分割協議の対象から外すことができます。

例えば、不動産は長男が相続するかわり、次男にはしっかり現金を残してあげたいという場合に有効です。死亡保険金の受取人を長男に指定し、長男から次男へ代償金を支払うことで、確実に次男へ現金を渡すことができます。

また、不動産や事業用資産に比べて、生命保険は分割しやすい資産です。受取人を複数指定したり、途中で受取人を変更したりすることも可能です。

第二に、生命保険は納税資金対策に有効です。生命保険には、相続発生時にすぐ現金化できるメリットがあります。相続が起こると、必要になるお金は相続税だけでなく、葬式費用や不動産の名義変更のための費用など、多岐に渡ります。しかし、相続が開始すると、被相続人名義の銀行口座は凍結されますので、必要な資金をどこから持ってくるかが問題となります。この点、現金を即座に手に入することができる生命保険が役に立つのです。

また、終身保険であれば、生命保険は一種の金融商品です。金融商品への投資として見れば、生命保険は、契約した瞬間に満期の金額が確定されるという特徴があります。現金預金や他の金融商品であればコツコツと貯めなければいけません。

第三に、生命保険は相続税対策に有効です。生命保険には、死亡保険金の非課税枠を活用して相続財産を圧縮できるメリットがあります。死亡保険金は、民法上の相続財産に含まれませんが、相続税の課税対象となります。この点、死亡保険金には、「相続人の数×500万円」を非課税枠として相続財産から控除することが認められています。この非課税枠を活用しない手はありません。

生命保険の選び方は税理士に相談を

以上が、相続生前対策の3本柱から見た生命保険のメリットです。生命保険は「契約」ですから、保険金額をいくらに設定するのか、保険料をどのように払っていくのか、また死亡保険金の受取人は誰にするのか等、キャッシュ・フローを自在に設計することができます。

現在、法人の決算対策のために活用できる保険商品の販売が一斉に中止となりました。しかし、個人の相続対策のために活用できる保険商品は、変わらず販売されています。相続対策に有効な商品を選ぶのであれば、終身保険が最適なものとなるでしょう。

資産管理会社をお持ちの資産家の方は、個人ではなく法人で生命保険に加入し、死亡保険金を退職金として受け取るようにしても構いません。法人の損金性に期待しなければ、長期平準定期保険も活用できるかもしれません。

多くの税理士は、生命保険の販売代理を行っています。生命保険を活用した相続対策について、一度、顧問税理士とご相談してみてはいかがでしょうか。

分割しづらい財産があれば代償分割を活用したい

死亡保険金は、保険契約上で指定した受取人の固有の資産となります。そのため、相続人が相続放棄した場合であっても、受取人であれば死亡保険金を受け取ることができます。つまり、遺産分割を行わなくても、死亡保険金は確実に相続人のものになるのです。非常に強力な遺産分割と言えるでしょう。

例えば、現金1億円が相続財産として遺され、長男、次男、三男の3人で遺産分割を行う場合を考えてみましょう。

この1億円をどのように分けるか、遺産分割協議によって決めなければなりません。ここでは3人それぞれが欲しい金額をそれぞれ主張することになり、分け方は決めることは容易ではありません。

しかし、同じ1億円であっても生命保険契約であれば、あらかじめ受取人を指定しておくことができます。つまり、相続人たちが自ら遺産分割協議を行わなくても、受取人を確定することができるのです。

一方、現金ではなく、不動産が相続財産になった場合は、遺産分割が難しい問題となります。相続財産として長男が同居していた自宅の土地1億円がある場合、次男と三男に平等に分けようとしても、自宅の土地を物理的に3つに切り分けることはできません。自宅を売却して現金にすれば分けやすいと考えるかもしれませんが、自宅には住んでいる長男には生活がありますから猛反対されるでしょう。結果として遺産分割はうまくいきません。

そこで、生命保険を活用し、長男が自宅の土地1億円を相続しても、死亡保険金を受け取るようにしておき、次男と三男にはそれぞれ生命保険1億円を財源とした代償金が支払われるようにしておきます(代償分割)。

こうしますと、3人とも1億円ずつ平等に資産を受け取ることができ、遺産分割の争いを回避することができるでしょう。

「うちは兄弟の仲が悪いから」「後継者である子供はいいけど、後継者ではない子供のことが心配だ」とおっしゃる方、遺産分割で争いが起きそうなご家族の方々は、ぜひ生命保険契約を見直してみてください。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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