事業承継のために自社株式の評価を下げる方法【類似業種比準価額と純資産価額】

事業承継のために自社株式の評価を下げる方法【類似業種比準価額と純資産価額】

事業承継において、自社株式の承継に伴う税負担が大きな問題となります。贈与のときは贈与税、相続のときは相続税が課されるのです。相続対策を考えるとき、自社株式の評価額の引下げは重要な論点となります。今回は、類似業種比準価額方式と純資産価額それぞれの評価額を引き下げる基本的な方法を解説いたします。

事業承継において自社株式評価額を引下げる手法とは?

会計士
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そもそも自社株式の評価方法がわからない場合、こちらの記事を読んでみよう。
自社株式の相続税評価額の計算方法を解説しよう!【類似業種比準価額と純資産価額】

親族内承継で大きな問題となるのは、株式承継に伴う相続税負担の大きさです。それゆえ、相続税負担の軽減が課題となりますが、その基本的手段は、株式の評価額を引下げることです。株式評価は決算数値を使って行われますので、引下げを検討する際には、決算書と申告書を用意しましょう。

純資産価額による株式評価

株式評価の方法の一つである純資産価額は、会社の時価ベースの純資産の大きさによって評価されます。

会社が含み益の大きな土地を保有している場合、借入金が少ない場合、数十年間の留保利益が巨額に積み上がっている場合(純資産の部の「繰越利益剰余金」の金額が大きい場合)、純資産価額は高い評価となります。そのような場合、不動産の売却によって含み損を実現し、純資産価額を低下させることができるか確認しましょう。

類似業種比準価額による株式評価

もう一つの方法である類似業種比準価額は、配当金、利益、純資産によって評価されます。

3年度以上の期間を通じて好業績を継続している場合に高い評価となります。それゆえ、贈与または相続のタイミング、その一瞬を狙って赤字決算を計上し、利益を減少させることができるか確認しましょう。

類似業種比準価額の加重平均割合を高めるテクニック

同族株主が保有する自社株式について、原則的評価方式が採られます。原則的評価方式は、類似業種比準価額と純資産価額の加重平均です。一般的に類似業種比準価額のほうが純資産価額よりも低くなるため、類似業種比準価額の加重平均割合を高めることで、加重平均である株式評価額が低くなります。

会社規模を上位ランクにする

一般的に、非上場株式の評価において、類似業種比準価額のほうが純資産価額よりも低い評価になるケースが多いようです。類似業種比準価額と純資産価額で10倍くらい評価に差が出るケースも少なくありません。

そのようなケースでは、評価が比較的低い類似業種比準価額の加重平均割合を高めることが相続税評価額の引下げにつながります。そのために、株式評価を引下げるには、評価方式を決める判定基準である会社規模を上位ランクに持っていくことが必要です。

たとえば、中会社の大であれば、類似業種比準価額の加重平均割合は90%ですから、一段のランクアップを図って、加重平均割合100%となる大会社を目指すことが相続税対策の基本です。

会社規模のランクアップを図る方法は、以下の3つです。

  1. 従業員数を増やすこと
  2. 総資産を増やすこと
  3. 売上高を増やすこと

借入金によって設備投資を行い、総資産額を増やすことも効果があるでしょう。しかし、総資産だけ増えても、従業員数や売上高が増えなければ区分変更が認められない仕組みとなっています。

即効性のある方法は、M&Aによる事業譲受や合併による規模拡大でしょう。これによって従業員数や売上高を増やすことができれば、会社規模のランクアップを行うことができます。

外部の会社とのM&Aでも構いませんが、グループ内の兄弟会社や子会社との合併を行うことによっても会社規模を引き上げることは可能です。複数の会社を経営しているならば、グループ会社同士の合併を検討すべきでしょう。これによって従業員数と売上高を増やすことができればよいでしょう。

特に、合併する片方の会社が赤字かつ債務超過ならば、もう片方の黒字を相殺できることに加えて、純資産も減少させることもできますので、類似業種比準価額と純資産価額の両方を引下げる効果が期待できます。

会社規模区分がランクアップすれば、通常は純資産価額よりも低い評価となる類似業種比準価額の適用割合が高くなるため有利です。中会社の大であれば、大会社を目指すべきでしょう。

その方法は、(1)従業員数を増やすこと、(2)売上高を増やすこと、(3)総資産を増やすことによります。

ただし、総資産だけ増えても、従業員数や売上高が増えなければ区分変更は認められない仕組みとなっており、例えば、借入金と普通預金を両建て計上して総資産を増やしてもランクアップさせることはできません。

特定会社を外す

自社株式の評価において特定会社(株式保有特定会社、土地保有特定会社)に該当すれば、純資産価額方式を100%適用することになるため、これに該当しない状態とし、一般の評価会社へ変更することで、類似業種比準価額を適用することができます。

会計士
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類似業種比準価額を引下げるテクニック

自社株式の評価額を引き下げるには、類似業種比準価額を引き下げるか、純資産価額を引き下げるか、2つの手段がありますが、ここでは類似業種比準価額を引き下げるテクニックを見ていきましょう。

類似業種比準価額の3つの比準要素の配分比率は、配当1:利益1:純資産1となっています。この中で恣意的に引き下げることが最も容易な要素は「利益金額」です。それゆえ、類似業種比準価額を引き下げるためには、利益(課税所得金額)を引き下げることが効果的です。

株価を下げたタイミングで相続時精算課税を適用すれば、贈与税を大幅に軽減(ゼロも可能)した状態で後継者へ株式を引継ぐことが可能となります。

利益を減らすために役員退職金を支払う

利益を減らす決算対策の伝統的な手法は、役員退職金の支払いです。オーナー経営者の退職と同時に株式承継するのであれば、この手法が最適です。役員退職金の支払によって大きな損金が計上されますと、利益が減少することによって株式評価額が下がります。

すべての役職を退く場合はもちろん、常勤から非常勤などになる場合でも役員退職金の支給対象になります(この場合でも実態をともなっていることが必要です。たとえば退職後も引続き会社に出社して経営指揮をとって意思決定をしていたら、退職の事実はみとめられないでしょう。)。

役員退職金の支給があると、多額の損金が計上されますから利益を圧縮するとともに、多額の現金支出によって純資産も圧縮しますから、自社株の評価額は下がります。

この点、税法では次のように計算式による金額を役員退職金の限度額として認めています。

役員退職金 = 最終報酬月額 × 勤務年数 × 功績倍率

よくある論点は、経営者がすべての役職から退く場合は全く問題ありませんが、常勤から非常勤などになる場合の取り扱いです。役員退職金を支給するのであれば、退職するという実態を伴っていることが必要であるため、退職後も引き続き会社に出社して経営指揮をとって意思決定をしているとすれば、退職金の損金算入は認められません。また、役員報酬は半減させなければいけません。

しかしながら、オーナー個人に退職金を支払いますと、所得税が課されてしまうだけでなく、相続財産としての手元現金が増えてしまうことになります。退職後には、現金という個人財産に係る相続税対策が必要となることに留意する必要があります。これを忘れやすいため注意する必要があるでしょう。退職金を支払うだけで相続税対策が完了するわけではないのです。

利益を減らすために含み損のある資産を売却する

特に、土地や有価証券に含み損があれば、思いきってそれを実現させることは、株式評価額の引下げだけでなく、財務の健全化の観点からも効果的な方法です。会計上の簿価を適正な価額に修正することができるからです。

例えば、遊休不動産などで多額の含み損がある場合には、売却して損失を顕在化させることが有効は手法となるでしょう。

3要素のうち利益金額には、不動産売却益等の臨時的な特別利益を加算する必要はありませんが、臨時的な損失は当然に差し引くことができます。

もっとも、「グループ法人税制」の適用があるため、関連会社に飛ばして損失を吐き出すような手法は使うことができません。すなわち、グループ法人間で帳簿価額1千万円以上の資産等を譲渡する場合、譲渡損益を計上することはできません。

損失を減らすために高収益部門を分離する

複数の事業を営む会社であれば、高収益部門を会社分割により別会社として独立させる手法が効果的です。これによって、既存会社には低収益部門が残るために利益を減少させることができます。

また、高収益部門が使用する固定資産(不動産)を賃貸すれば、純資産価額を下げることができます。すなわち、純資産価額の評価において、建物を貸家評価(概ね30%減少)、土地を貸家建付地評価(概ね20%減少)とすることができます。

さらに、分社型新設分割によって高収益部門を既存会社の子会社とすれば、将来的に株価が上昇しても、その上昇分に対する法人税等相当額37%を控除することが可能となり、既存会社の株価上昇を抑えることができます。

純資産価額を引下げる方法

自社株式の評価額を引き下げるには、類似業種比準価額を引き下げるか、純資産価額を引き下げるか、2つの手段がありますが、ここでは純資産価額を引き下げるテクニックを見ていきましょう。

純資産を減らすために役員退職金を支払う

オーナー経営者の退職時と併せて、後継者に株式を生前贈与するのであれば、役員退職金の支払いによって純資産を減少させておくとよいでしょう。

役員退職金の支給があると、多額の損失が発生し、多額の現金が流出しますから、純資産が減少して、純資産価額は下がります。

純資産を減らすために不動産を取得する

純資産価額を引下げるための方法として、最も効果的なものは、投資用不動産の取得です。

たとえば、銀行借入れによって賃貸マンション、賃貸オフィス、商業ビルなどの収益物件を取得します。いつでも売却できるような優良な収益物件を取得し、再び現金化できるようにしておきたいものです。

賃貸物件を取得した場合、土地は「貸家建付地」による評価、建物は「貸家」による評価となります。すなわち、建物と土地の相続税評価額は、概ね取得価額の3割~4割の大きさとなります。相続税評価額が時価を下回った分だけ純資産価額を引下げることができます。

そこで、企業オーナーが自社株式を後継者に贈与又は譲渡する際に、投資用不動産を取得して株価引下げを実行するのです。純資産価額を引下げたタイミングで後継者に贈与を実行すれば相続税対策は完了です。その後、投資用不動産を売却すれば、また投資に充てた現金が戻ってきます。

ただし、株式評価において、課税時期から3年以内に取得した不動産は、通常の取引価額(取得価額ベース)で評価しなければなりません。それゆえ、投資用不動産を活用した株価引下げ対策を実行する場合には、贈与を行う3年前以前の早い時期に、投資用不動産を取得しておく必要があるのです。

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