相続問題は親の生前から考えておきたい

親の個人財産の相続は、資産家にとって重要な関心事です。相続発生後のトラブルを回避するには、どの専門家にアドバイスを求めるべきでしょうか。

目次

相続問題の解決は後手に回りがち

相続にはトラブルが伴います。遺産分割争いや多額の納税など、相続をめぐるトラブルは様々です。自分の相続では、自分はすでに死んでいるため、相続問題に直面することはありません。しかし、親からの相続では、自分が当事者となるため、大きな問題に直面することとなります。兄弟間で遺産をどのように分割するか、多額の納税資金をどのように用意するか、様々な問題を自ら解決しなければいけません。

現実に発生した相続トラブルの事例を見ると、生前には予測できない様々な問題が後から現れるケースが多いようです。

お客様が所有する財産のほとんどが、容易に分割できない資産であった場合、遺産分割の問題が発生します。例えば、大きな自宅、賃貸用オフィスビル、賃貸用マンションを所有するケースです。また、企業経営者の方が非上場株式を所有しているケースも同様であり、相続人の遺産分割に加えて、会社の支配権争いの問題が生じます。

仮に、相続人の誰か1人に集中して相続させるようとすれば、遺留分侵害という問題が発生します。しかし、公平さを優先して、均等に分割させるとすれば、不動産や非上場株式が共有となります。財産の共有によって相続問題を先送りすることはできますが、次世代の相続が到来すれば、大問題になって顕在化することは明らかです。

また、不動産や非上場株式をたくさん持っていても、現金預金が少なければ、相続税を納税することができなくなります。その結果、相続財産の現金化が必要となり、不動産を安値で叩き売らされることになります。

相続問題は生前に解決しておきたい

これら相続問題に対して、相続税申告を担当する税理士がアドバイスを提供しています。それゆえ、相続人の方々が税理士にアドバイスを求めるケースが多くなります。つまり、相続の発生後から、相続人が問題解決に着手することになり、対策が後手に回ってしまうのです。

この点、相続生前の段階では、相続人が問題解決に動くケースはほとんどありません。なぜなら、将来の相続財産を把握しているのは、将来の相続人ではなく、将来の被相続人(=財産を所有する本人)だからです。

将来の被相続人にとって自分の財産だと言っても、自分が死ぬことを前提とする話です。彼らが自分の相続のために税理士にアドバイスを求めるケースは多くありません。つまり、相続の発生前から、被相続人が先手を打って問題解決にあたることがないのです。

現実は、資産家のお客様は相続生前対策を何もしないため、相続の発生とともに問題が顕在化するケースがほとんどです。しかし、先手を打って問題解決にあたれば、解決できる可能性が高くなります。

相続対策を提供する様々な専門家

これまでは、相続生前対策といえば、不動産土地の有効活用による節税や、生命保険による代償分割の準備など、各専門家の扱う商品・サービスを売り込むための手段としてアドバイスされてきました。

銀行や不動産会社の営業マンは、融資によるアパート建設を売り込むために土地の有効活用を積極的に提案しています。生命保険会社のファイナンシャル・プランナーは、生命保険を売り込むために、確実な遺産分割のやり方を提案します。

しかし、これらのような偏った分野のアドバイスだけでは、資産家の方々が抱える多様な問題を解決し、全体最適を実現するような相続生前対策を行うことはできません。

資産家の方々の相続生前対策を適切に考えるには、お客様のお悩みやニーズがどこにあるのか、客観的かつ中立的な立場からのアドバイスが必要となるでしょう。そういう意味では、個別商品・サービスの単品だけを販売するような専門家のアドバイスは、適切なものではありません。手段が単品に偏っているため、全体最適が実現しないからです。

相続生前対策の立案は、不動産活用、企業経営、金融資産運用、生命保険、信託など、幅広い手段を活用するアドバイスと、将来発生する遺産分割と相続税の計算が、有機的に組み合わせたものでなければいけません。

そのために専門家は、商品・サービス販売だけでなく、遺産分割や相続税の計算に習熟しておかなければいけません。とすれば、税理士が最適な専門家と言えそうです。

もちろん、税理士がすべての相続問題を解決できるわけではありません。必要となる様々な手段を活用するために、各分野の専門家との連携が必要となります。ハウスメーカーや不動産の仲介業者、証券会社や銀行の営業担当者、法律問題に係る司法書士や弁護士との連携です。

相続生前対策の3つの柱とは?

相続生前対策における税理士の強みは、相続税の計算に長けている点はもちろん、個人財産の持ち方(運用、売却)から、分け方(分割)まで理解している点にあります。税理士であれば、これらの問題をまとめてアドバイスすることが可能となるのです。

相続生前対策がカバーすべき範囲は広いですが、3つの柱があります。①円満な遺産分割、②納税資金の確保、③相続税負担の軽減です。

個人財産には個性があり、所有者によって資産の活用方法が異なるため、「誰に何を渡すか」が重要な問題となります。どれだけ相続税が課されても、資産の必要性が変わることはありません。節税よりも財産の分け方を優先して考える必要があります。

一方、相続税対策は、納税額を減らす方法を考えることであり、相続税額と納税資金の問題は密接にリンクしています。相続税の節税を行えば、納税額が減ります。つまり、相続税対策は、納税資金の対策となるのです。これらは同時に決定すべきものとなります。

相続生前対策は、まず財産の分け方を考え、その後から節税と納税資金を考えます。この順序で親の相続問題が解決できないか、じっくりと考えてみましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

目次