自動車整備業界のM&Aと企業価値評価

  • 2021.02.17
  • M&A
自動車整備業界のM&Aと企業価値評価

近年、自動車整備業界のM&Aが増えている。ここでは、自動車整備業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、自動車整備業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみよう。

M&Aの多い自動車整備業界の現状

自動車整備業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&Aの買い手候補となる同業他社について説明する。

自動車整備業界の市場動向・経営環境

自動車整備業は、自動車の整備修理、車体・電装品・タイヤ等の部品の整備修理、自動車エンジンの再生、自動車の清掃などを行う事業者のことをいう。ここでは中小・零細な整備工場が地域密着型の営業スタイルをとっており、地域のユーザーの幅広いニーズに対応している。

1995年の道路運送車両法の改正によって、異業種からの市場参入が相次ぎ、自動車整備業界内での競争が激化してきた。その一方で、経営者の高齢化、整備士人材の減少、新技術対応など、自動車整備業界の経営環境は変化している。

自動車整備業界の市場規模は、日本自動車整備振興会連合会の「自動車整備白書」によると、2009年の5兆4千億円から2017年の5兆4千億円へと横ばいになっている。

自動車整備業界のビジネスモデル

自動車整備業のビジネスモデルは、損害保険会社または自動車ユーザーから依頼を受けて、車検整備、定期点検整備、事故整備、その他の整備を行い、作業工賃を受取るというものである。その他の整備には、カーナビゲーションやETC取り付け、軽補修や板金(小さなキズや凹みの修理)、ガラス・コーティング、車内脱臭、ワックス処理、バンパーに付着した虫取りなどがある。

近年は自動車の性能向上によって整備ニーズが減少していることから、自動車整備工場は、点検整備だけでなく、ドライブレコーダーなどの用品販売による売上を増やそうとしている。

事業の運営主体として、自動車ディーラー、専業の整備工場、兼業の整備工場(自動車販売、ガソリンスタンド、損害保険代理店)がある。

自動車整備業界M&Aで買い手候補となる企業

自動車整備業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような大企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。

イエローハット、ネクステージ、プレミアグループ、オートウェーブ、サンオータス、ファミリー、東葛ホールディングス、ジーライオン、オートテクニックジャパンである。

自動車整備業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで自動車整備業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、得意先である一般の自動車ユーザーは、地元において点検整備を継続して受けることができる。事故車両の整備依頼を受ける損害保険会社との取引関係も継続することができる。

また、小規模事業者が単独では難しかった新技術対応の設備投資によって、自動車整備業の高度化、効率化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、事業規模の拡大による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

自動車整備業界M&Aで買収する買い手の注意点

自動車整備業界で買収を行う際、デュー・ディリジェンスにて調査すべき経営資源や注意点を説明する。

自動車整備業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

自動車整備業は、労働集約的であり、設備投資が小さくても運営できるという特徴がある。大きな固定費は必要ない。しかし、自動車ディーラーとの兼業の場合、本業の不振が過剰在庫による資金繰りの悪化に直結するため、自動車整備業まで悪影響を受けるおそれがある。

自動車整備業の事業性を評価する場合の注意点として、人材の能力と経験がある。自動車技術の高度化によって人材に求められる整備技術が高度化していることから、スキャンツールの導入など故障診断のノウハウを有するかどうか、人材の教育が行われているかどうか確かめる必要がある。

なお、電気自動車など一部の新技術はディーラー工場でなければ整備できないものがあることから、専業の整備工場であれば、近隣のディーラー工場との連携体制が構築されているかどうか、確かめておく必要があるだろう。

自動車整備業の買収で承継すべき経営資源

自動車整備業では、工場とその立地条件に加えて従業員が基本となる経営資源である。無形資産とは、認証工場、指定工場(民間車検場)として地方運輸局長によって認められていることである。人材には、車体整備士資格が求められるため、資格保有者の承継が重要である。また、継続的に利用いただく顧客のリストも重要な経営資源となる。

無形資源と人的資源は、事業承継によって喪失されることが多いため、自動車整備業のM&Aを行う場合は、従業員の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要だろう。

自動車整備業を買収するときの企業価値評価(株価算定)

自動車整備業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる財務数値は、以下の通りとなっている。

自動車整備業の評価で使う資本コストとマルチプル

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、自動車整備業の収益性について、売上高成長率は約3.6%である。また、粗利率は31.2%、営業利益率は0.9%となっている。生産性について、1人当たり売上高は1,593万円、1人当たり人件費は416万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、自動車整備業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.6~1.0倍、PER倍率は10~15倍、EBITDA/企業価値倍率は5~10倍となっている。

さらに、筆者が推計する自動車整備業の株主資本コストは10%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが4~7%であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.6~0.9であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

自動車整備業の類似上場企業比較法で採用すべき企業の例

自動車整備業を評価する類似上場企業比較法で採用すべき上場企業を周辺業種まで広げてリストアップすると、オートウェーブ(2666)、東葛ホールディングス(2754)、ネクステージ(3186)、サンオータス(7623)、ファミリー(8298)が挙げられる。

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