定期同額給与と事前確定届出給与とされる役員給与とは?

「定期同額給与」、「事前確定届出給与」とは、法人税法上、損金算入が認められる役員給与のことです。役員に対して支給する給与(退職金は除きます。)のうち、「定期同額給与」および「事前確定届出給与」の要件を満たす金額は、経費に算入することができます。ここでは、「定期同額給与」および「事前確定届出給与」それぞれの要件、認められるかどうか悩ましいケースについて説明いたします。

目次

「定期同額給与」の要件

定期同額給与の要件は、支給時期が1ヵ月以下の期間ごととなっていること、事業年度の各支給時期における支給額(から源泉税等の額を控除した金額)が同額であることです。

つまり、毎月1回支払われる、一定期間を通じて同額が支払われる給与だということです。

給与改定が認められるケース

給与改定が認められますとして、改定前の各支給時期における支給額と改定後の各支給時期における支給額が、それぞれ同額の場合があります。これについて、定時改訂、臨時改訂および業績悪化改訂が認められています。

定時改定とは、事業年度開始日から3ヶ月を経過する日までに行われた給与の改定をいいます。3ヶ月経過とされているのは、役員給与の金額を決めるのが、一般的に定時株主総会だからです。増額改訂と減額改訂があります。

また、臨時改訂とは、事業年度において、役員の職制上の地位の変更、役員の職務の内容の重大な変更などやむを得ない事情によって行われた給与の額の改定をいいます。

事業年度開始日から改定前まで、改定後から事業年度終了日までがそれぞれ同額給与であることが必要です。

さらに、業績悪化改訂とは、事業年度において、法人の経営状況が著しく悪化したことなどの理由によって行われた給与の減額改定をいいます(減額改定に限定されています。)。

役員給与を期首にさかのぼって増額改訂してもよいか

そもそも定期同額給与とされる役員給与は、改定前の毎月の金額と改定後の毎月の金額が同額であることが要件とされています。

この点、2月の株主総会で、期首の1月にさかのぼって役員給与を増額支給する決議があったことによって、3月の給与支給時期に1月分と2月分の役員給与の増額分を上乗せして一括支給したとすると、3月の金額だけが増加し、改定後に毎月支給すべき金額を上回ってしまいます。このような場合、定期同額給与の要件を満たさなくなり、1月分および2月分の増額支給分を加算した部分が損金不算入となります。

それゆえ、期首の1月にさかのぼって役員給与を増額支給する決議があった場合、さかのぼって支給することになった金額を、その事業年度の残存期間に毎月均等に上乗せして支払う方法を採るしかありません。これによって、定期同額給与の要件を満たし、改定後の役員給与が損金算入されます。

事業年度の途中で任意に役員給与を「増額」した場合どうなるか

定期同額給与の要件を満たさない場合、原則として、その事業年度における定期給与の支給額の全額が損金不算入となります。

期中の増額したケースでは、改定前の支給額に改定後の増額分を上乗せしたと考えることができます。すなわち、改定前の役員給与は改定後も引き続き同額が支給されているものと見るのです。

その場合、増額改定後の役員給与のうち、増額改定前から上乗せした部分の全額(残存期間分)が損金不算入となります。

事業年度の途中で任意に役員給与を「減額」した場合どうなるか

定期同額給与の要件を満たさない場合、原則として、その事業年度における定期給与の支給額の全額が損金不算入となります。

期中の減額したケースでは、改定前の支給額役員給与の上乗せ部分があり、その上乗せ部分が改訂によって消えた考えることができます。すなわち、改定後の役員給与が、事業年度を通じて同額支給されているものと見るのです。

その場合、減額改定前の役員給与のうち、減額された部分(上乗せされていた部分)の全額が損金不算入となります。

「事前確定届出給与」の要件

事前確定給与とは、役員の職務について所定の時期に確定額を支払う規定に基づいて支給する給与(退職金は除きます)で、一定期限までに税務署に届出たものをいいます。事前確定給与は、損金算入することができます。

しかし、事前確定届出給与の届出を行った給与額と実際に支給する給与額が異なっている場合は、事前確定届出給与に該当せず、原則として、支給額の全額が損金不算入となります。

事前確定届出給与の届出

事前確定届出給与に関する届出書を税務署へ出す届出期限は次の通りとなっています。

第一に、株主総会決議で支給が決まった場合、決議の日から1ヶ月以内または会計期間開始日から4ヶ月経過日のいずれか早い日が届出期限となります。

第二に、新設法人の場合、設立日から2ヶ月経過日が届出期限となります。

第三に、臨時改訂事由が生じた場合、株主総会決議による届出期限または臨時改訂事由が生じた日から1ヶ月経過日のいずれか遅い日が届出期限となります。

なお、すでに届出済みの事前確定給与の届出の内容を変更したい場合には、臨時改訂事由の変更の場合は、臨時改訂事由が生じた日から1ヶ月経過日が届出期限となります。業績悪化改訂事由の場合は、業績悪化改訂事由によってその定めの内容の変更に関する株主総会決議をした日から1ヶ月経過日が届け絵期限となります。

事前確定届出給与額と実際支給額が異なる場合

支給額が届出額と異なる場合は、事前確定届出給与として損金算入することができません。したがって、支給額が届出額よりも多い場合、逆に支給額が届出額よりも少ない場合のいずれも、すべて全額が損金不算入となります。たとえ届出額と同額を費用計上したとしても、未払いである場合も同様に損金不算入となります。

半期ごとの「事前確定届出給与」で支給額が減額された場合どうなるか?

支給額が届出額と異なる場合は、原則として、事前確定届出給与として損金算入することができません。年2回以上の支給がある場合、役員給与は定時株主総会から次の定時株主総会までが職務執行期間であることから、職務執行期間を一つの判定単位として支給額が判定されることになります。

しかし、職務執行期間が事業年度と不一致であり、決算日をまたいでしまうことから、決算前と決算後に支給された場合に異なる取扱いが行われます。

決算前(事業年度内)の1回目に支給額が届出額から減額された場合

職務執行期間を一つの判定単位としてみますと、支給額が届出額を下回っていますので、1回目の支給分と2回目の支給分のいずれも損金不算入となります。

決算後(翌事業年度)の2回目に支給額が届出額から減額された場合

職務執行期間を一つの判定単位としてみることが原則ですが、この場合、決算日をまたいでおり、1回目の支給分について決算と申告がすでに行われていることから、翌事業年度の2回目の支給分のみが損益不算入となります。これは、1回目の支給分まで損金不算入としてしまうと、課税所得の計算と申告・納税をやり直す事態が発生してしまうからです。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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