【相続税対策】相続時に自社株式の評価額はいくらになるか?類似業種比準価額、純資産価額とは?

非上場であっても会社の株式は相続税がかかります。今回は、相続時に自社株式の評価額がいくらになるか、その計算方法わかりやすくご説明しましょう。

目次

非上場の株式の評価額を計算する目的

非上場であっても会社の株式には相続税がかかります。それゆえ、相続税を計算するために、株式の評価額を計算しなければいけません。

その際の評価額は、純資産価額方式や類似業種比準価額方式といった方法によって計算されます。選択できる評価方法の判定も、計算方法そのものも複雑であるため、通常は税理士に計算を依頼することになりますが、その計算過程は、「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」に記載されます。これが、国税庁の財産評価基本通達に定められている評価方法であり、これを見ると、選択可能な方式がわかり、その計算過程を理解することができます。

注意すべきは、相続税の評価方法と、株式の経済的な価値の評価方法は全く異なるということです。M&Aなど第三者間の株式の譲渡において、その価格を計算するためには、DCF法やマルチプル法などファイナンス理論に基づく企業価値評価の方法が採用されます。これは、相続税を計算するためでなく、売買の価格の目安となる企業価値を評価するための評価方法であるため、全く異なるものです。一般的に企業価値のほうが相続税の評価額よりも高くなる傾向にあります。

ただし、同族会社における親族間など、ごく限られた特殊関係者間で株式が売買される場合は、経済的価値を無視した低い金額で、恣意的に売買されることが多いため、その評価方法は、計算過程の一部に相続税評価額の計算を用いた税法上の規定(所得税法、法人税法)に従うことになります。

自社株式評価における評価方式の区分

非上場会社は、その規模によって、大会社、中会社、小会社に区分され、さらに中会社は大、中、小に細分化され、区分ごとに採用できる評価方式が異なります。

自社株式の評価方式には、純資産価額方式と類似業種比準価額方式があります。いずれの区分の会社であっても、純資産価額方式を選択することが可能です。これが前提となります。

どの方式が適用されるかは、取引相場のない株式(出資)の評価明細書の「第1表の2」で確認することができます。

従業員数が70人以上の会社は大会社として区分します。大会社の場合、類似業種比準価額方式を選択することができます。

これに対して、従業員が70人未満の会社は、中会社または小会社になりますが、どの区分に入るかの判定には、総資産価額による方式、従業員数による方式、取引金額による方式を使うため、判断が非常に複雑です。

中会社または小会社は、類似業種比準価額方式と純資産価額方式を併用する方式を選択できます。併用とは、会社の規模に応じて、類似業種批准方式で評価できる割合と純資産価額方式で評価できる割合が決められており、それらで加重平均するという意味です。

中会社の大であれば、「類似業種比準価額×0.9+純資産価額×0.1」、中会社の中であれば、「類似業種比準価額×0.75+純資産価額×0.25」、中会社の小であれば、「類似業種比準価額×0.6+純資産価額×0.4」です。また、小会社であれば、「類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5」で加重平均します。

一般的に、純資産価額方式よりも類似業種比準価額のほうが小さくなる傾向にあります。それゆえ、類似業種比準価額の割合が大きなほうが、評価額が小さくなる、つまり、税負担が軽く有利になる可能性があります。

類似業種比準価額と純資産価額

類似業種比準価額方式は、評価会社の一定の経営指標と同業種の複数の上場会社の一定の経営指標を比較し、その割合を上場会社の株価に乗じて計算する方式です。

類似業種比準価額方式では、評価会社の配当・利益および純資産の実績(1株あたりの配当金額、利益金額、純資産価額)を上場会社の平均値と比較することによって比準割合を計算します。これを類似業種の株価に乗じることによって、非上場の株式を評価するわけです。この3つの要素の中でも、評価額へ与える影響が最も大きくなるように規定されているのが利益金額です。

相続税対策において類似業種比準価額を引下げようとする場合、計算式の中にある各要素を下げればよいということになります。この際、1株あたりの配当金額や純資産価額を引下げることよりも、評価額へ与える影響が最も大きく、また、操作がしやすい「利益金額」を引き下げる方法が採用されることになります。

これに対して、純資産価額方式は、課税時期における各資産および負債を「相続税評価額」によって評価し、それを発行済株式数で除して評価額を計算する方法です。具体的には、資産の相続税評価額の合計から、負債の相続税評価額の合計および資産の含み益に対する法人税額等相当額を差し引いて評価額を求めます。

この計算式における「法人税額等相当額」とは、課税時期に発行会社が清算したと仮定した場合に課せられる法人税等に相当する金額です。具体的には、相続税評価額による純資産価額と帳簿価額による純資産価額の差額に37%(令和5年時点)の税率を乗じて計算した金額です。

この際、オフバランスになっている生命保険金、借地権や営業権等については、会計上の帳簿価額がゼロであっても、それを資産として認識します。また、繰延資産、前払費用や繰延税金資産については、資産性がないため帳簿価額をゼロとします。

一方、引当金(貸倒引当金、賞与引当金等)は、確定した債務ではないのでゼロとします。さらに、オフバランスになっている未納租税公課(固定資産税)、確定した死亡退職金については負債として認識します。

なお、評価会社が他社の非上場株式を所有している場合(例えば、子会社株式など)、純資産価額の計算のなかで、所有する資産の一つとして非上場株式の計算が行われます。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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