銀行や証券会社が提案する「ウェルスマネジメント」とは?

銀行や証券会社の営業マンが「ウェルス・マネジメント」というサービスを売り込んできます。これは生命保険の「ライフ・プランニング」と違うものでしょうか?

【1】 一生涯のライフ・プランニング

どんな方でも生命保険の営業マンから商品の提案を受けたことがあるかと思います。病気や事故などでお金に困ってしまうことがないように、死亡したときの保障、医療・介護・老後のために保険商品が提案されます。その際、一生涯を通じて、お金に困るような事態に陥らず、人生の様々なゴールにたどりつけるような人生計画を立てるのです。これを「ライフ・プランニング」といいます。

人生のゴールが明確になると、その実現に必要なお金をどのように準備するのか、ライフ・プランニングの具体的な手段が問題となります。

資産運用で増やすことも有効ですが、財源となるのは、働いて稼ぐ所得でしょう。働いてライフプランを賄えないとすれば、生活費の削減が必要です。

そして、退職後のライフ・プランニングを考えることは、リタイアメントプランニングと呼ばれます。そこで重要な要素は、社会保険(国民健康保険、被用者保険、後期高齢者医療)と年金(国民年金、被用者年金、企業年金・個人年金)です。

ライフ・プランニングにおいて、最も重要なのは、緊急時の資金を準備しておくことです。死亡、災害、家族の病気など突発的に多額の支出が必要になることがありますから、それに備える資金を準備しなければいけません。

その次に重要なのが、人生三大資金を準備することです。すなわち、住宅資金、教育資金、老後資金の3つです。

これら長期にわたる計画を具体的に立案するためのツールとして、個人キャッシュ・フロー表があります。これは、結婚、出産、教育、住宅購入、退職など顧客の家計に関して将来的に発生するイベントおよび必要資金を時系列に表したものです。

収入については、給与収入、年金収入、金融投資からの運用収入、不動産投資からの収入、自社株式からの配当金などが考えられます。ただし、所得税・住民税及び社会保険料の支払いで目減りしてしまいます。

一方の支出については、生活費、住宅費、教育費、生命保険料、その他臨時的な支出があります。

収入から支出を差し引いた、キャッシュ・フローの収支差額(=収入合計-支出合計)が、貯蓄の増減となります。

キャッシュ・フローが一時的にマイナスになったとしても、その年だけ銀行借入れを行う等の手当が行われるのであれば問題はありません。しかし、キャッシュ・フローのマイナスが継続するような場合は、収入増加又は支出減少のための対策を立案しなければなりません。

特に、貯蓄残高がマイナスの場合(借入金のほうが資産よりも大きい場合)は、家計の破綻につながるおそれがあるため、どれだけ大きな規模の資産家であっても注意が必要となるでしょう。

【2】 二世代にわたるゴールベース・ウェルスマネジメント

生命保険の営業マンは、ライフ・プランニングに必要な情報を提供し、老後の資金が不足することがないよう、お金の貯蓄もアドバイスします。公的年金では不足すること、病気や介護にどれくらい費用がかかるか、豊かな老後とはどのようなものか一緒に考えることもあるでしょう。老後資金の問題です。

ただし、一生涯の人生でお金を使い切らないのであれば、子どもへの円滑な相続を考えることが必要となります。それらを考えるために検討すべき課題が相続対策です。これは、二世代間にわたる資産運用を考えるということです。これを「ウェルス・マネジメント」といいます。

「ウェルス・マネジメント」は、家族全体の目標を達成することに焦点をあて、短期と長期の両方の資産運用と言うことができます。ここでの資産運用は、金融資産だけではありません。不動産やそれ以外の資産、たとえば教育や健康など無形資産まで含まれます。子どもや孫までの世代を超えた長期にわたり、家族全体のゴールの実現に向けて、資産運用を考えることがウェルス・マネジメントです。

具体的には、金融資産への投資、不動産投資、生命保険などの金融サービスだけでなく、税引後の現金を最大化するために、所得税や法人税まで検討します。

企業経営者であれば、資金調達や投資などのファイナンスや事業承継です。そして、世代間の資産承継のために相続税対策も検討します。

これらに加えて、目に見える資産以外のもの、例えば、健康のための予防医療、子どもの教育や海外留学、後継者教育、投資機会の獲得、趣味のためのエンターテインメント、レジャー、スポーツ、旅行、食事、生きがいのための寄付や社会貢献など、目に見えない無形資産への投資や、幸福度を高めるお金の使い方まで考えるのです。

「ウェルス・マネジメント」の対象は広範囲に及びます。

【3】 「ウェルス・マネジメント」は誰に相談すべきか?

金融業界において、米国では、1970年代の個別銘柄選択の時代から、1980年代の投資信託の時代、1990年代のSMA、2000年代の投資一任ソリューションの時代を経て、2010年代のゴールベース・アプローチの時代へと資産運用の方法が進化してきました。

2020年代に入り、さらに進化して、ウェルス・マネジメントの時代を迎えようとしています。金融商品の販売から相続税対策など幅広いアドバイスの提供へとサービス内容が変化しているのです。

米国では、CPA(米国の公認会計士)がIFA(金融商品仲介業)やRIA(投資顧問業)を兼務するケースが多く見られます。

我が国でも、今後は「ウェルス・マネジメント」が普及すれば、銀行や証券会社ではなく、公認会計士や税理士が資産運用をアドバイスするケースが増えてくることでしょう。一度、顧問税理士に相談してみてはいかがでしょうか?

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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