安全資産とリスク資産を区別する
現預金・国内債券を「安全資産」、株式・不動産・外国投資など安全資産以外の資産を「リスク性資産」と定義します。
安全資産とリスク性資産の違いは、円ベースで発行体による元本保証があるかないかという点です。
リスク性資産を保有する目的は、あくまで資産価値の保全のために「長期的にインフレをヘッジすること」なので、個別銘柄の倒産リスクがないこと、そして運用コストが安いことを重視すべきと考えます。
【安全資産】個人向け国債 10年変動金利型
変動金利型であるため、仮にインフレとなって金利が上昇した場合でも、金利上昇に連動して受取利息が増えるインフレ対応型安全資産です。
デフレが長期化した場合でも、元本割れすることはないので、いずれのシナリオでも価値を保全することができます。
類似の個人向け国債で、「3年固定」「5年固定」がありますが、現在のような超低金利下では、固定型を選ばないようにしましょう。
「10年変動」は最低金利保証が0.05%で、一般の銀行の定期預金より高い水準となっているのは超低金利下ならではの魅力です。
留意点としては、当初1年間は中途換金できず、換金する場合は直前2回分の利子の約8割分が引かれる(元本割れはしない)ということです。
【安全資産】MRF
証券会社の決済口座にあたる「マネー・リザーブ・ファンド(略称MRF)」は、公社債や短期金融商品などで運用される投資信託です。
MRFは投資信託という商品の性格上、元本が保証されているものではありませんが、マイナス金利政策の適用除外となって元本割れしないように例外的な措置がとられました。
1円以上1円単位で購入可能で、購入後いつでも手数料なしで換金できるため、銀行の普通預金に近い感覚でお金を置いておけます。
国債と比較すると利回りは劣りますが、換金性に優れていることから、「ひょっとすると1年以内に使うかもしれないお金」の置きどころとして、有力な選択肢となります。
【安全資産】為替ヘッジ付き外国債券
米国、英国などの高格付けの国債を、為替変動リスクをヘッジ(回避)して購入することで、今なら円建てで2%程度の利回りが期待できます。
歴史的に、米国や英国の長期金利は、日本の長期金利と比較して2%程度高い状態が続いています。
やや専門的になりますが、この投資手法のポイントは、ヘッジコストである「内外の短期金利差」が、現状のようにほぼ無視できるような水準である限り、「内外の長期金利差」が投資リターンになるということです。
円債利回りが軒並みマイナス水準に低下する中、機関投資家の中では為替ヘッジ付き外債の割合を高めるところが増えています。
資産運用世界最大手の米国ブラックロックが、為替ヘッジ付き外債ETF(上場投資信託)を東証に上場することを検討しているようで、今後注目されるものと思います。
債券・投資信託などの有価証券については、投資家と金融機関の資産を分別管理する制度があるため、取り扱う銀行や証券会社が万一破綻した場合でも、投資家の資産は保護されます。
これに対して「銀行預金」は、万一金融機関が破綻した場合は、預金者1人当たり、1金融機関ごとに、元本1000万円までしか保護されないことになっています。
金融機関が破綻するような状況は今のところ考えにくいものの、まとまった安全資金は、置きどころを間違えないようにしておかなければなりません。
【リスク資産】ETF(Exchange Traded Funds, 上場投資信託)
銘柄選択によって市場を上回るリターンを追求することを「アクティブ運用」といい、市場に追随するリターンを目指すことを「インデックス(パッシブ)運用」といいます。
日本の個人投資家に普及しているのは「アクティブ」の方ですが、実は株式投資信託のアクティブファンドで市場平均を上回っている割合は3~4割程度しかなく、運用コストや途中で消滅するファンドの数も考慮すると、成功しているファンドは非常に少ない割合となります。
結論としては、株式投信のアクティブ運用ではコストに見合うリターンを獲得できる確率が低く、相対的にインデックス運用の方が成果を上げられる確率が高いということです。
インデックス運用のメリット
インデックス運用の投資手段となるのは、「ETF」や「インデックス投信」です。
ETFは、証券取引所に上場し、株価指数などに代表される指標への連動を目指す投資信託です。
米国や欧州では、ETFが資産運用の中心として位置づけられつつあり、世界のETF残高は350兆円を超える規模まで拡大しています。日本でも残高が16兆円規模まで拡大し、上場銘柄数も200銘柄に迫っています。
ETFが連動を目指す株価指数は、指数提供者(例えば東京証券取引所や日本経済新聞社)によって、市場を代表する指標となるように定期的に構成銘柄の入替が行われます。
実はこのシステマティックな銘柄入替が、ETF投資家にとって、倒産リスクを気にする必要がなく、運用効率を高める最大のポイントになっています。
例えば、構成銘柄の中で継続性に疑義のある銘柄が出てきた場合は、倒産リスクが生じる前に指数提供者によって入れ替えられます。
また、万が一突然倒産する企業が出てきたとしても、全体に与える影響が極めて軽微であることから、個別銘柄の倒産リスクはほぼ無視できる水準になっています。
東京電力やシャープが現在のような状況になるとは、20年前には誰にも想像できませんでした。大企業といえども長い間に何が起こるかわかりません。
個別銘柄の固有リスクを抱えておっかなびっくり投資しているくらいなら、ETFで指数に投資している方がよほど安心です。
特に個人投資家の場合、保有資産の価格が下がった時に回復する信念が持てないことがあるのですが、ETFであればいつかは期待リターン程度までは回復するという信念が持てます。
運用コストの負担を忘れないこと!
長期投資を前提とすると、運用コストは収益性に大きな影響を与えます。
ETFは売買手数料が株式と同じで、保有期間が長くなるほど1年当たりの売買手数料を小さくすることができます。
また信託報酬は、海外のETFを含めて年率0.4%が平均的な水準ですが、日経平均連動型のようなシンプルなものであれば0.1%よりも低くなっており、株式の価格変動性からするとほぼ無視できる水準となっています。
価格の透明性や、流動性においても抜群です。TOPIX(東証株価指数)や日経平均株価連動型のものであれば、新聞やテレビやネットでリアルタイムの株価を確認することができます。
流動性は株式と同じく、市場の取引時間であればいつでも売買が可能で、最近では公的資金や機関投資家も頻繁に売買していることから、数億円単位の売買でも値段が大きくぶれる心配がありません。
「インデックス投信」は、毎日1つの基準価格で購入・換金される仕組みとなっているため、流動性という点ではETFよりやや劣ります。
しかし最近では、ETF並みの低水準の信託報酬のものも出てきており、通常1万円から1円単位で購入できるため、ドルコスト平均法で等金額投資していくような長期積立スタイルに適しています。
【リスク資産】スマートベータ型ETF
最近「スマートベータ型ETF」という新しい選択肢が存在感を増しています。
スマートベータとは、企業の配当や売上高、ROE(自己資本利益率)、株価変動率などに着目して銘柄を組み入れた指数のことで、分かりやすく表現すると、インデックス運用とアクティブ運用の中間にある運用手法といったところです。
2014年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、国内株式運用において初めてスマートベータ型アクティブ運用を採用したことをきっかけに、認知度が大きく上がりました。
米国では、ETF資産残高の約2割をスマートベータ型ETFが占めており、欧州ではここ5年で市場規模が4倍に拡大しています。
アクティブ運用で市場を上回るリターンを狙いたい人にとっては、低コストでアクティブ的なパフォーマンスが期待できるため、有力な選択肢になると考えます。
保有する金融資産は今すぐ分析しなさい!
財を成した方、遺産を相続された方など、まとまった資産をお持ちの方が、何も手をつけずに放置している例は少なくありません。株式や土地を相続したものの、それらの資産の評価額を把握されていないケースもあります。
もったいないのは、相続した株式をそのまま長い間放置していたため、産業構造の変化などによって時代遅れとなり、後で調べてみると株式市場の平均リターンを大きく下回っているようなケースです。
どうせ長い間放っておくなら、個別銘柄の倒産リスクを最小限にして、市場平均並みのリターンは確保しておきたいところです。
ライフステージや経済情勢は常に変化しています。何を目的として有価証券を保有しているのか、その目的と保有資産の性質が合致しているのか、定期的にチェックするか、チェックの仕組みを作っておく必要があります。公認会計士などの専門家に依頼するのも方法のひとつです。
金融商品は収益性・安全性・流動性の3つの側面から検討する
金融商品には、様々な種類のものがありますが、全ての金融商品は次の3つの側面から比較検討するのが原則です。
収益性
「いくら収益が上がるのか」という側面で、比較のために、過去3年間の年率、過去5年間の年率、などと年率で表します。例えば投資信託の収益性は、運用会社のホームページや、投信情報の提供会社モーニングスターのホームページなどで簡単に確認できます。
将来の収益性を予測する場合は、国内株式、外国債券など、各資産クラスが持つ歴史的な収益性をもとに、将来の期待収益率を合理的に推測する、というのが基本パターンです。個別の資産については、市場に対する個別価格の感応度を測定し、将来の収益性(リターン)を推測するというプロセスが一般的です。
安全性
安全性は大きく「価格変動リスク」と「信用リスク」に分類できます。
「価格変動リスク」は、「価格がどれだけ変動する可能性があるか」という側面で、通常「標準偏差」で表されます。標準偏差というと難しそうですが、「期待リターンからの価格の振れ具合」を数値で表したもの、と捉えておけば十分です。途中で換金しようと思った時に、最大いくらの損失を覚悟しなければならないかを示す指標ともいえます。
「信用リスク」は、債務を履行してもらえなくなるリスクのことで、通常AAA、BBBといった「格付け」で表されます。普通預金や国債などは元本保証とされていますが、元本保証をしているのは金融機関や国であって、それぞれの債務履行能力には違いがあることを認識しておかなければなりません。「格付け」は株式会社格付投資情報センターなどの格付け会社のホームページで確認できます。
流動性
簡単に言うと「換金性」のことであり、保有している金融商品を売却して現金にしたいと思った時に、すぐに売却できるのか1年待たなければならないのか、といった換金の自由度のことです。当分使わない、もしかすると必要になる、1年後には必要、といったお金の制約条件を考慮して商品を選ぶ必要があります。
分配のない商品で複利効果を狙いたい
以上の3つの側面を考慮して、保有資産のリスクとリターン・保有コスト・換金性などについて確認しておきましょう。
投資信託の場合は、「運用報告書」「投資家用交付目論見書」などに記載があります。株式や債券の場合は、ネット証券のウェブサイトなどから価格データをダウンロードして自分で計算を行う必要があります。取引のある金融機関の担当者に依頼しても、資料として出すのは認められていない会社がほとんどです。
商品選択にあたってもう1つ考慮すべきポイントは「複利効果」です。特に長期の資産運用においては、「複利効果」で収益性が大きく変わります。
例えば、投信はファンドごとに配当金の分配方針があり、同じような投資対象の商品でも、分配金が少ない方が複利効果は大きくなります。株式の場合、毎年の税引き後利益のうち、配当として株主に分配する割合を配当性向といい、株主にとってはこの配当性向が複利効果を推し測る目安となります。
たとえば、マイクロソフトは、1975年の創業以来2003年まで「配当しない会社」として有名でしたが、1986年の上場時に同社株式を購入した投資家は、約30年で300倍以上もの価値を得ています。
一般にIT企業で多く見られるように、毎期の利益を配当として外部流出させるよりも、事業に再投資した方がより高いリターンが見込まれ、株主利益に資すると考える会社ほど、配当性向が低くなります。
逆に重厚長大産業に多く見られるように、配当性向が高いほど、投資家にとっては複利効果が小さくなります。
分配金が大きいから、あるいは配当利回りが高いからという理由で銘柄を選ぶ場合は、高配当の代償として生じる「マイナス複利効果」について留意する必要があります。