【事例】遺産分割で争わないようにしたい
遺産分割でギクシャク
Aさん(50代女性)は3人兄弟の長女。弟と妹がいます。3人とも実家を出て独立し、地方の実家は両親が二人暮らしをしてきました。
二人暮らしのうちはとくに問題はなく、Aさんもたまに様子を見に行く程度でしが、母親のほうが年上の父親よりも先に亡くなってしまったのです。そして母親は脳出血で倒れてから、しばらく入院をしていましたが、家に帰ることはできずに、そのまま病院で亡くなりました。
母親が亡くなったことで、それから父親の一人暮らしが始まりましたが、それまで家事一切は母親がしていましたので、慣れるまでが大変でした。
Aさんは幸い、地元の人と結婚して、実家の隣町に家を買って住んでいて、車で30分ほどで行けるため、毎日のように父親の様子を見に行き、サポートしてきました。その数年後に、やはり父親も心筋梗塞の発作を起こし、倒れて亡くなってしまったのです。
母親が入院した時も、父親の一人暮らしや倒れた時も、弟、妹は遠方にいることを理由に来ることもなく、Aさんの労をねぎらうような言葉もありません。葬儀が終わって遺産分割の話になると、きょうだい間の温度差の違いでギクシャクし始めました。
父親の財産は約300万円の自宅と7000万円の預金です。会社員だった父親は、お給料や退職金を大事に貯めていたようで、不動産よりも預金のほうが多く残っていました。相続税の改正前に亡くなっているので、相続税の申告は不要です。
弟、妹は、すべてを3等分でと主張しますが、いままで何もしてこなかった二人と毎日のように父親の面倒を看てきた自分が同等だと言われることが許せません。さらに、実家の不動産は約300万円という評価だとしても、市道を入った奥にあり、簡単に売れる地域ではないといえます。
なるべく分割争いは避ける
弟も妹も家はいらないと言っており、立場上も近くに住むAさんが家を相続し、お墓なども継承していくのが現実的です。
しかし、それを含めて3等分するということは、わずらわしくない現金だけを相続したほうが得策だとなります。Aさんからすれば、自分のいままでの寄与分も考慮してくれず、家を含めて3等分だと言われて、感情的になってしまい、話し合いができなくなりました。
困った弟、妹の二人が当社に相談に来られましたので、何度かAさんの本音を聞くようにしました。Aさんは弟、妹が困らせてやりたい気持ちにもなり、弁護士に依頼して徹底的に争うことを考えていた時期でしたが、何度か気持ちをお聞きすることができ、弟、妹にも、歩み寄るようにお勧めしました。
双方から何度かの意見をお聞きし、できあがった分割案は、「家と寄与分を別枠にしてAさんに、残りは3等分」という内容でした。Aさんも二人から寄与を認めてもらうことが目的でしたので、その内容で合意するとなり、弟妹も異論なく、方向性が見えたのでした。
徹底的に争う一歩手前で踏みとどまってもらったことは幸いだったと感じます。遺産分割で争って、相手に勝っても、一生悔いが残るものです。負けたふりして、ちょっと譲ってまとまることが価値あり、なのです。
裁判に持ち込む前に
家督相続の制度が廃止されたのは昭和23年のことで、それからずいぶんと年月が経っていますが、いまだに家督相続を踏襲されるご家庭はあります。家を継ぐ相続人の考えにも左右されることはあるでしょうが、跡継ぎでない人や嫁いだ人には財産を分ける必要はない、教える必要もないということさえあります。
そうしたご家庭は、先代や先々代のあり方を見て育っていますので、自分の法定割合の財産を欲しいということではなく、家や家業の継承のためであれば、譲歩してもいいというのが多くの方の本音です。
けれども、相続人の間でそうした話をする前から、一方的な進め方をされたり、財産の内容を教えてもらえないことで、疑心暗鬼が生まれて、もめていくのです。
多くの方から聞くことは、「最初から、家や家業の状況や事情や財産の内容を明らかにして、遺産分割の案を提示してくれるなら、譲ってもいいと思っていたのに、教えてくれない。財産を隠されたと感じたために、そちらがそういう態度ならこちらにも考えがある」と意地になってしまうようです。
相続では、公平な立場で手続きを進めることが必要なのですが、一方的な進め方をしてしまうとこじれる原因になります。家を継ぐ人の立場では、財産の詳細を教えることは不利だということかも知れません。けれども、財産は隠さず、全部をオープンにすることで、信頼関係が保てるのです。
遺産分割の話し合いでは、寄与や特別受益も考慮した上で、互いに譲歩することで合意が得ることが望ましいため、「一歩も譲らず」ではまとまりません。
そして、感情的な話や過去のことは持ち出さないほうが無難です。必要以上に責め合う場にしないような配慮があってこそ、話し合いができるというものです。
ところが、兄弟姉妹の場合は、気心がしれているだけに本音をぶつけてしまい、一言が一生許せなくなるようです。そして、そんなことなら、きょうだいの縁を切ってもよいという心情にまで発展するのです。
相続人では分割協議がまとまらなくなり、感情的にもこじれてしまうと、次なる解決方法としては、第三者を入れて話し合うことになりますが、この場合の第三者は、弁護士や家庭裁判所となります。
弁護士や家庭裁判所では、双方の言い分を調停、裁判などにより、主張し合い、最終的な遺産分割を決めるわけですが、その過程で相続人の間でのコミュニケーションは一切できなくなるのが現状です。
財産の分け方が決まる代わりに身内の縁は切れてしまいます。裁判しても相続人には悔いが残る結果となるのです。
よって、弁護士、家庭裁判所に駆け込む前に互いが譲り合って分割協議をするほうが傷が少ないのです。
「もめない相続」をするためのコツ
1普段からコミュニケーションを取っておく →いざとなっては円満にいかない2財産や生前贈与はオープンにしておく →疑心暗鬼のたねを作らない 3寄与や介護の役割分担の情報共有をする 4遺産分割でもめないよう遺言書を用意する 5弁護士、裁判所に持ち込んでも悔いが残る |
【事例】前妻の子供との遺産分割はタイヘン
初めて知った兄弟
Tさん(50代・女性)は、先月、母親が亡くなり、妹と2人で相続手続きをすることになりました。
父親は10年前に亡くなっており、そのときは母親が全部を相続しています。そのときは、母親とTさんの2人で当社に相談に来られましたので、相続手続きのサポートをしています。
父親のときは基礎控除が8000万円あり、自宅と田舎の土地、預貯金でしたので、その範囲内となり、相続税の申告は不要でした。
Tさんは同じ県内、妹は他県に、それぞれ配偶者と子供と一緒に住んでいますので、母親は10年間、一人暮らしをしてきました。80歳を過ぎてからは病気がみつかり、入院、手術するなど、家族のサポートが必要になり、Tさんが仕事を辞めて、病院に通って手助けをしてきました。今年になって他の病気も見つかり、なかなか家に帰れないうちに亡くなってしまいました。
病院に入院中とはいえ、波親は、要介護1のレベルで、認知的なこともなく、とてもしっかりしていましたので、本人は死期が近いとは思っていなかったはずとTさんは話されました。
母親は、普段から「自分の財産は姉妹2人で仲良く分けて」と言っていました。姉妹も仲がよく、その言葉は聞いていても、遺言書にはしませんでした。
ところが、相続手続きをしようと母親の戸籍謄本を取って見ると、母親は再婚で前夫との間に娘が1人いることがわかったのです。
現実は簡単にはいかない
Tさんも、妹も、そんなことは両親や親族から一度も聞いたことがなく、本当に驚いたのです。姉になる人はTさんより7歳年上ですので、60代半ばです。Tさんも妹も、この事実を受け入れがたく、とても、自分たちで連絡することはできないということになり、相談に来られたのです。
母親が離婚し、娘は夫が親権を持ち、引き取りましたので、Tさんが思い返しても会ったことはないと思えるのです。母親は80代で相続の知識もないため、夫が引き取った娘にも自分の相続権があるとは思わなかったのでしょう。
いつも、「財産はふたりで仲良く分けて」とTさんと妹に言っていました。母親は、それでよしと思っていたのか、遺言書はありません。母親の財産は自宅と預金で約2600万円です。相続税の申告は不要ですが、戸籍上の姉がいる以上は、その人の合意も得なければ手続きができません。
Tさんは妹とも相談し、とにかく、長引かずに円満に手続きを終えたいので、財産を要求されたら、法定分は分けるようにしたいということでした。
Tさんに委託を頂いて、司法書士がもう一人の相続人の住民票を取得するところから始めるようになります。その方がどんな育ち方をしたのか、生みの母親の存在を知っていたのか、父親がどのように聞かされていたのか、などにより、今後の展開は変わると言えます。
けれども、Tさんも妹さんも、財産を分けるつもりはあるということですので、連絡が取れさえすれば、円満に解決するはずです。
「亡くなってから前夫の娘がいることが発覚するなんて、ドラマの世界かと思っていたが、まさか、自分がそうした立場になるなんて!」とTさん。
ドラマの世界のように、姉妹がドママテッィクで涙の対面は、なかなか、現実的にはならないように思います。戸籍できょうだいだとなっても、気持ちの整理は難しいものです。いきなりではなく、最初は専門家に任せたほうが円満でしょう。
【事例】遺言書の無い相続
Tさんは父親が亡くなったため、母親と妹の3人で相続の手続きをすることに進めることになりました。
父親の財産は、自宅とそのまわりにある土地、約1000坪が主な財産です。祖父は多くの土地を所有する資産家でしたので、長男の父親のもとに嫁いだ母親も、祖父と養子縁組みをしていました。そして、祖父が亡くなったときに、父親と母親で、ほぼ、等分の不動産を相続しています。
長男家族が両親と同居することがよくあるパターンなのですが、Tさんは結婚を機に家を離れて、同じ市内に妻と娘、息子の4人で生活をしています。
今回の父親の遺産分割については、遺言書がないので、3人で話し合いをして決めるようになります。妹は未婚で、ずっと両親と同居をしており、現在は母親と2人暮らしです。母親も、そうした妹が将来も安心して住めるように、実家の土地、建物は、妹に相続させたいという意向です。
母親はすでに土地を所有していますので、今回は相続しない方が二次相続対策となり、父親の財産の85%は妹、Tさんは15%を相続する案が優勢です。
妹がこのまま独身であれば、いずれ甥姪であるTさんの子供たちが相続することになりますので、Tさんもその内容で了解したいところですが、それでも不安があります。
家族で遺産分割する場合の問題点
仮に妹が結婚して配偶者ができたり、遺言書も作らず子供たちへの遺贈が実現しないことも想定されます。
そこで、妹にTさんの息子と養子縁組をすることを条件として、母親と妹が出している案に合意をしようと思い、妹に話したところ、「いずれ、養子縁組か、遺言書は考えるが、今はまだ決断できない」とのことでした。
困って相談に来られたのですが、とにかく家族でもめないように、感情的な配慮をしながら進めたほうがいいというアドバイスをしています。
Tさんが自分の都合で説得しようとしても、妹さんの共感は得られません。母親や妹さんの気持ちや本音を話してもらえる機会を作り、2人の感情を尊重しながら、双方がいい方法を選択してもらうことが円満でしょう。
母親と妹さんにも相談に来てもらうことをお勧めし、なぜ、頑なになってるのか話してもらう機会を作ったほうがいいとTさんにお話しました。
それぞれの主張や権利がある場合、一方の意見で、「説得する」ということでは、理解が得られないかもしれません。それぞれの気持ちを尊重した選択肢を見つけることが糸口になるはずですが、ご家族の場合、「割り切れない」ことがネックにもなります。