土地の売却!譲渡所得を節税する方法を教えます!

損益通算

複数の不動産を売却するなら、同じ年度中に売却するようにしましょう。利益が出る物件もあれば、損失が出る物件もあるでしょう。不動産の譲渡所得は、利益を損失で相殺することが可能です。同じ年に売却するだけで数百万円も節税できることもありますので、損益通算の効果を無視することはできません。

目次

節税の鉄則!譲渡益は譲渡損と相殺すべき

譲渡所得の金額とは、売却金額(譲渡収入)から取得費などの必要経費を差し引いた金額をいいます。

譲渡所得 = 譲渡収入 - (取得費 + 譲渡費用)

購入した当時の金額よりも、売却する時の金額が高ければ、売却益が発生する計算です。逆に売却した金額が、購入時よりも下がっていた場合には、赤字で譲渡損が発生します。

譲渡所得に課される税金は、譲渡所得に対して税率を乗じるので、譲渡所得の金額が赤字であれば、どれだけマイナスが大きくとも、計算結果の税額はゼロとなります。逆に、譲渡所得の金額が大きくなれば、金額に応じて税額が大きくなります。

そこで、マイナスの切り捨てを有効に活用することを考えます。それが、売却損と売却益を損益通算することによる譲渡所得の圧縮です。

譲渡所得は、1月1日から12月31日までに売却した不動産を合計して金額を算出します。たとえば、1年間に3つの物件売却した場合、3物件それぞれの売却損益を合計して年間の譲渡所得の金額を算出します。

譲渡益の物件と譲渡損の物件が混在していれば、譲渡益が相殺されるので、譲渡所得を抑えること、節税が可能となります。

相続した実家を売却するときは多額の売却益が出る

不動産の譲渡所得は、不動産であれば損益通算が可能です。不動産と株式の譲渡所得を損益通算することはできません。

不動産の損益通算を利用すべき場面として、相続により取得した不動産を売却する場合があります。相続財産の不動産を売却する際の取得費は、親の購入金額をそのまま引き継ぎます。

親がバブル期に高値で不動産を購入しているような場合は、売却益が発生することはないはずです。ほとんどのケースは売却損でしょう。

しかし、先祖代々受け継いできた土地に関しては、購入金額が不明であることがほとんどです。その場合、購入金額が不明な場合の概算取得費5%を使用することになりますから、売却金額から取得費を差し引いた95%が譲渡益となります。長期譲渡所得の税率は20.315%を乗じて、多額の所得税等を支払わなければいけません。

そこで、少しでも支払う税金を少なくしたいと考え、売却損が出る不動産の売却を同時期に行って、損益を相殺するのです。

仮に不動産売却の利益が1,000万円発生しても、もう一方の不動産売却で損失金額が900万円していれば、相殺後の所得金額は100万円です。損益通算をすることで、182万円(=900万円×20.315%)の節税効果があることがわかります。

損益通算ができない?譲渡所得は不動産のみで合算する

損益通算で注意すべき点は、所得の種類によって損益通算できる範囲が限定されていることです。

事業所得や不動産賃貸の収入(不動産所得)に関しては、給与所得などと損益通算をすることが可能です。しかし、譲渡所得の場合、譲渡所得の種類によって損益通算の範囲が変わります。

総合譲渡所得に該当する譲渡(地金や特許権)は、他の所得と損益通算が可能です。しかし、不動産売却の譲渡所得に関しては、不動産だけしか損益通算をすることができません。

また、損益通算が可能なのは、同じ年度(1月1日から12月31日)に売却した物件のみです。売却益と売却損が発生した不動産があっても、売却した年度が異なれば、損益通算できないのです。

たとえば、2物件の不動産をそれぞれ12月と翌年1月に売却した場合には、年度が異なりますので、損益通算をすることができません。

裏ワザ!年度をまたぐ譲渡でも損益通算が可能になる方法

不動産を売却した場合の申告対象となる日は、原則として、物件の引渡日と最終代金の受取日のいずれか早い日となっています。不動産の引渡日とは、所有権移転登記をした日です。ただし、所有権移転登記より先に売買代金を支払うことがありますので、売買代金を受け取った日が売却をした日になります。

しかし、納税者が選択すれば、最終代金の受取日ではなく、不動産売買契約の締結日に基づいた申告も可能です。それゆえ、年度をまたがった売買契約を締結した場合には、申告する年度を選択することもできます。

先に利益が発生する不動産を売却していた際には、同じ年度に売却損が出る不動産の譲渡契約を締結していれば、損益通算することが可能となります。

たとえば、売買契約日が令和元年12月20日で、代金受取日が令和2年1月10日だとします。原則は、代金受取日の令和2年分の譲渡所得となりますが、売買契約書の締結日ベースを適用すれば、令和元年分の譲渡所得として申告をすることが可能です。

 

所得税法第36条《収入金額》関係

(山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期)

36-12 山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとするただし、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める

所得税基本通達とは、法律を執行する上で必要な法律解釈を示したものです。国税庁が国税局や税務署に対しての指示文書なので、通達は法律ではありませんが、税務署は国税庁の指示には必ず従います。つまり、申告に際して、通達に基づく判断をすれば、税務署から指摘を受けることはありません。

譲渡損で損益通算するときは確定申告を必ず行う!

譲渡所得の確定申告は、譲渡益に対する是金を支払うために行います。それゆえ、譲渡損であれば支払う税金が発生しませんので、譲渡所得の確定申告を行う必要はありません。

しかし、売買契約書の締結日ベースでの損益通算をする場合、話は別です。必ず期限内申告で、確定申告をしなければなりません。

売買契約書の締結日ベースでの譲渡所得の申告は、通達に規定された「例外」の適用であるため、申告期限内に「例外」を選択する意思を表示しないと、その適用は認められません。

つまり、申告が期限後申告になった場合には、売買契約書の締結日ベースを選択する意思表示がなかったと判断され、原則通りの「物件の引き渡し日」で計算をすることなります。この場合は、期限後申告の場合でも、同年中であれば損益通算は可能です。

譲渡損失の損益通算と繰越控除ができるマイホーム特例とは?

不動産の譲渡所得は同じ年度の不動産でなければ損益通算できません。不動産の売却損のみの物件を売却した場合には、どれだけマイナスが大きくても譲渡所得ゼロとなってしまい、他の所得から控除されることはありません。

しかし、不動産の譲渡所得でも、他の所得と損益通算をすることが可能となる特例が2種類だけ存在しています。それは、売却した不動産が居住用財産、つまり、自分が住んでいたマイホームであった場合です。

「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」
(租税特別措置法第41条の5)

「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」
(租税特別措置法第41条の5の2)

居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

こちらの特例は、不動産売却損を他の所得と損益通算をすることが可能となる制度です。他の所得と損益通算しても損失金額が残っている場合には、最大3年間繰り越すことが可能です。

<特例適用の要件>

・売却した物件の所在地が日本

・住んでいた自宅を売却

・売却物件は売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えている

・売却物件の買主は第三者

・住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却している

・売却前年から売却翌年までの間に新たな自宅を購入している

・売却した翌年の年末までに購入物件に住む

・購入物件の床面積が50㎡以上

・10年以上のローンを組んで新たな自宅を購入

・前年、前々年に譲渡所得の特例を適用していない

特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

先ほどの特例は、新たに物件を購入することが要件でしたが、こちらの特例の場合には、新たに物件を購入する必要がありません。

ただし、売却物件にローンが残っていることが条件となります。すなわち、売却金額よりもローン残高が大きい場合の差額が、損益通算の対象となる金額です。

たとえば、3,000万円のローンが残っている物件を2,500万円で売却した場合には、500万円のローンが残りますので、その500万円が損益通算の対象となる金額となります。損益通算できなかった金額については、最大3年間繰り越すことが可能です。

<特例適用の要件>

・売却した物件の所在地が日本

・住んでいた自宅を売却

・売却物件は売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えている

・売却物件には10年以上のローンが残っている

・売却金額よりもローン残額が多い

・売却物件の買主は第三者

・住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却している

・前年、前々年に譲渡所得の特例を適用していない

これら2つの特例は、いずれも自宅(マイホーム)の売却が前提となります。相続した実家に移住する場合や転居を検討している場合には、適用する余地があります。

譲渡所得を抑えるためには、売却益と売却損の相殺を考えなければいけません。譲渡のタイミングが重要であるため、計画的な不動産売買が必要です。

この点、宅建業者は仲介手数料が欲しいと考えて、不動産の売却を急かすこともあります。急かされても焦ってはいけません。

また、譲渡所得は、所得税の確定申告の中でも、かなり特殊な計算を必要とするものです。自力で確定申告しようとせず、資産税に強い税理士に依頼したほうがよいでしょう。効果的な節税手段のアドバイスを受けることが期待できます。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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