不動産オーナーの節税はガンガン経費を計上すればいいのか?

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不動産オーナーにとって関心が高い「節税」

筆者は会計事務所を経営しており、自ら担当するのは、財産2億円以上の大きな相続税申告、相続生前対策コンサルティングです。つまり、通常の税務顧問業務は、部下の職員が担当しているため、私が確定申告や決算申告の実務を行うことはありません。

しかし、不動産オーナーのお客様からは、「決算対策として節税するにはどうしたらいいのでしょうか?」と、頻繁に質問を受けます。そこで、今回は不動産オーナーの方々の節税手法についてまとめました。

節税とは何だろう?

さて、そもそも節税とは何でしょうか?

これは、税法の枠内で、税金を払い過ぎないようにすることです。支払う必要のない税金を支払わないようにすることで、税金の支払いを減少させ、手取り現金を最大化させることができます。これが節税です。

具体的に節税を行うための方法として、以下の2つが挙げられます。

① 各種の税法上の特典(特例、所得控除など)を活用すること
② 経費を最大限計上すること

これらによって、課税所得を減少させることができれば、税負担を軽減させることができます。

私は、お客様は節税を積極的に行うべきと考えます。なぜなら、利益を増やす努力に比べて、税負担を軽くする努力のほうが小さな努力で済むからです。もちろん、節税手段を習得するために、専門の税理士を雇うこととなり、費用の負担が発生するかもしれません。しかし、税理士報酬など安いものです。それによって大きな税負担が軽減されるとすれば、結果として手取り現金は大きくなるのです。

法人税や所得税の節税だけでなく、自分が死んだ後に発生する相続税も忘れてはいけません。世代間を通じた財産価値を最大化させるためには、これらの税金をトータルで節税する必要があります。

所得税の節税のために法人税を支払うのか?

私は、不動産オーナーのお客様には、「法人化」すなわち、法人で不動産を所有して賃貸経営することを勧めています。

なぜなら、ある一定の大きさの賃貸経営を行うようになると、所得税の節税手段として法人化が機能するからです。実際のところ、お客様の不動産オーナーの約8割が法人化されています。

法人経営では経費を増やせば節税になるのか?

法人経営を前提としますと、法人税の課税所得は、法人の当期純利益を基礎として計算されます。それゆえ、利益が大きくなれば法人税は増えますし、利益が小さくなれば法人税は減ります。

そうであれば、必要経費をガンガン計上して、利益を出さないようにすることが節税になると思われるかもしれません。必要経費は経営者が自由に増減させることができますから、利益を調整することは容易なことでしょう。

しかし、法人税法上、必要経費になるのは事業に関連する費用に限られます。儲かったからと言って、ROLEXの腕時計を買っても経費には入りません。

では、営業マンに使わせようとして高額なERPシステムを導入するというのはどうでしょうか。これは経費に入ります。しかし、使いこなせないシステムを導入しても、会社の収益獲得には何ら貢献しません。まったく意味がないことです。

正しく節税しようとするのであれば、必要経費として認められて、かつ、会社の収益獲得に貢献するものをうまく計上することが必要となります。

一番人気のある節税手段は、「決算賞与」でしょう。決算の直前になって、今期は利益が出そうだと判明した場合、その利益を従業員のボーナスとして支払ってしまうのです。そうすれば利益は大幅に減少し、法人税は減少します。

「一度、多額のボーナスを支払ってしまうと、翌期に減らせなくなってしまい困るんだよ。」とおっしゃるかもしれません。その場合は、社員の皆様に、「うちは業績連動型のボーナスだから、来年は無いと思ってね。」と伝えるようにしてください。

個人経営でも経費を増やせば節税になるのか?

一方、個人経営を前提としますと、不動産所得から差し引かれる必要経費を正しく計上することが節税をもたらすことになります。一般的に、「経費が使える」ということです。

不動産管理会社に支払う管理費用、建物の減価償却費、借入金の支払利息は、必要経費として明確なものです。疑いの余地はありません。

しかし、必要経費になるか否か悩ましい費用があります。なぜなら、個人経営を行う不動産オーナーは、不動産経営のための支出と、日常生活のための支出を同じ財布を行っているからです。当然ながら、日常生活のための支出は必要経費とすることはできません。

そこで、不動産オーナーが行った支出のどこまでが必要経費に入るか、ここで知っておきましょう。

セミナー受講料は必要経費に入るのか?

筆者も講師を承ることが多い「大家さん向けセミナー」「不動産経営セミナー」の受講料は、必要経費となります。

また、セミナー終了後に開催される懇親会への参加費も、必要経費(交際費)となります。

さらに、セミナーを受講するために必要な交通費や宿泊費も必要経費(旅費交通費)となります。そして、不動産投資に係る専門書籍を購入したときは、それも必要経費となります。

しかし、不動産だといっても宅地建物取引しの資格取得のための受験講座の受講料は、不動産経営に関係するものではありませんから、必要経費とすることはできません。

なお、単なる自己満足だけで役に立たないセミナーを受講しても、将来の収益獲得に貢献しないため、意味のない無駄な経費となります。

キャバクラで遊んでも必要経費に入るのか?

食事代は、必要経費に入るかどうか悩ましい費用です。

購入しようか悩んでいる物件を見に行ったときに外食した食事代については、誰と一緒に食べたかによって必要経費になるか否かが決まります。自分1人で食べたり、家族や友人と一緒に食べたりしたときは必要経費とすることはできません。

しかし、不動産管理会社の営業担当者と一緒に食べたときには、居酒屋で飲んでも、キャバクラで遊んでも必要経費(交際費)となります。

それゆえ、飲食費の領収書には誰と一緒に食べたのか記録しておかなければいけません。

クルマで遠出したときのガソリン代は必要経費に入るのか?

自分が所有する物件を見に行ったり、購入しようか迷っている物件を見に行ったりするときの交通費や宿泊費は、必要経費とすることができます。

交通費は、電車賃、バス代、タクシー代だけでなく、ガソリン代、駐車場代、高速利用料も含みます。

ただし、遠出するような場合、遊びに行ったのかのか明確に区別できないケースが多いため、当日に視察した物件の写真を撮影しておくなど、不動産経営のための経費である証拠を残しておく必要があります。

不動産経営のために自己所有の自動車を使用する場合、ガソリン代、駐車場代、高速利用料は当然のこと、洗車代、自動車税、自動車保険料、修理代、車検費用まで幅広く必要経費とすることができます。

ただし、自動車をプライベートで使用することもあるでしょうから、不動産経営のために使用した費用とプライベートで使用した費用は、合理的な基準で按分しなければなりません。

自宅を事務所にしていると家賃も必要経費か?

自宅を不動産経営のための事務所として使用している場合、プライベートな居住部分と事務所部分に分けて費用を計上することになります。

たとえば、(賃借している場合の)家賃、水道光熱費、電話代、インターネットの通信費用などです。これらは、不動産経営のために使用した費用とプライベートで使用した費用に、合理的な基準で按分しなければなりません。

按分基準について、特に決まったものはありませんが、面積按分などを行うこととなるでしょう。

それゆえ、自宅の中でパーティションで区切った事務スペースを設け、客観的に面積を測定できる状態にしておかなければいけません。パーティションを設けるなど邪魔だ!とおっしゃるかもしれませんが、邪魔だということは、換言すれば、不動産経営の事務作業を行うために必要としている証拠となります。

従業員と行った慰安旅行の費用は必要経費か?

「家族と一緒に行った旅行の費用を何とか経費に入れたい。」というご要望を聞くことがよくあります。

この点、厳しい要件が2つあるのです。一つは、旅行が4泊5日以内であること。それを超えると必要経費には入りません。もう一つは、参加者が職場全体の従業員の人数の50%超であることです。

ここで、「うちの従業員は全員家族だ」、「家族全員連れて旅行に行ったぞ」とする不動産オーナーが多いと思います。

しかし、個人経営の場合、青色事業専従者である家族と一緒に慰安旅行に行っても、その費用は必要経費とすることができません。従業員は、「親族外」であることが必要なのです。親族外の従業員に家族が混ざっているのであれば、必要経費とすることができるでしょう。

青色申告特別控除と青色事業専従者給与

これは節税策というよりも、制度上の特典を使うかどうかという話です。

事業的規模で不動産経営を行っている場合(5棟10室以上)、複式簿記で貴重し、損益計算書だけでなく貸借対照表も作成して確定申告に添付することによって、65万円を所得控除を行うことができます。

同様に事業的規模であれば、家族に対して青色事業専従者給与を支払うことができ、それを必要経費とすることができます。

たとえば、不動産所得2,000万円の不動産オーナーが年間約700万円の所得税等を負担していたとしましょう。

ここで、奥様に青色事業専従者給与を600万円支払うとすれば、奥様は年間約80万円の所得税等を負担することになりますが、ご主人の不動産所得が1,400万円に減少することで、所得税等の負担が年間約450万円になります。

したがって、税金をトータルで見ますと、約▲170万円の減少となります(=450万円+80万円-700万円)。

生計同一の夫婦であれば、どちらが所得を稼いでも実態は変わりません。青色事業専従者給与によって節税することができます。

建物の修繕費は必要経費に計上してもよいのか?

建物の修繕のための支出は、一事業年度の必要経費となる修繕費と、複数の事業年度の必要経費として配分される資本的支出に区別されます。これらの区別が非常に悩ましいところです。

修繕費とは、建物や設備の修理などに行った支出のうち、資産の維持管理のためのもの、価値が毀損した部分の原状回復を行うためのものをいいます。たとえば、壁紙の張替えや畳の取替えです。これらは、その全額を一事業年度の必要経費とすることができます。

これに対して、資本的支出とは、建物や設備の修理などに行った支出のうち、資産の価値を高めるためのもの、耐用年数を長くするためのものをいいます。たとえば、大掛かりな改装工事(リノベーション)です。これらは、資産として計上し、減価償却を行うことによって、必要経費を複数年度に配分することになります。

資本的支出の減価償却ですが、支出の対象となった資産本体と同じ耐用年数を適用することになります。たとえば、耐用年数が47年で、築20年の鉄筋コンクリートの建物を対象として資本的支出を行った場合、減価償却の期間は27年(=47年-20年)ではなく47年です。それゆえ、大きな支出に対して必要経費がとても小さいため、資金繰りを悪化させます。

以上から、資本的支出は可能な限り減らして修繕費に計上したいと考えることになります。この点、判定が難しいため、実務上は「形式基準」(所得税基本通達37-12、13)によって判定することになります。この基準によれば、仮に資本的支出に該当したとしても、20万円未満の場合は、すべて修繕費とすることができます(分割払いを行って、その1回の支払いが20万円未満に抑えても、認められません。)。

また、概ね3年以内の周期で修理や改良が行われているものは、すべて修繕費となります。前回の修繕費の記録を残しておく必要があるでしょう。

さらに、資本的支出か修繕費か区別できないものであっても、60万円未満の支出、その固定資産の取得価額の10%以下の支出については、すべて修繕費となります。

そして、特例として、継続適用することを条件として、支出額の30%か、取得価額の10%のいずれか小さい金額を修繕費とし、残額を資本的支出とすることも認められます。

29万円の機械設備でも必要経費となるケースあり

エアコンや給湯器などの設備を新しいものに取り替える場合、これは修繕ではなく、資産の取得となります。すなわち、資産計上したうえで、減価償却を通じて必要経費を期間配分することとなります。

ただし、1個10万円未満の設備は一括で必要経費とすることができます。

また、青色申告の方に限り、1個30万円未満の設備は、総額300万円を上限として、一括で必要経費とすることができます。

開業前に支払った費用でも必要経費に入るものがある

サラリーマンの方など、まさにこれから不動産経営を始められる方は、どの段階から必要経費を計上することができるのか、気になることでしょう。

実は、不動産経営は、物件を購入する前から始まっているのです。物件を購入する前に、「不動産投資セミナー」を受講したり、不動産投資の専門書を買って読んだりする人がいるはずです。

また、購入しようか検討している物件を北海道まで視察に行くこともあります。さらに、不動産仲介業者との食事代はもちろん、自宅を事務所として使った場合には、光熱費、通信費なども必要経費とすることができます(プライベートな費用と按分します。)。

これらの支出は、実際に不動産オーナーになっていない段階であっても、必要経費とすることができます。

ただし、いったん「開業費」として資産計上し、不動産経営がスタートした後にその償却によって必要経費に配分することとなります。

これを知らずに領収書を捨ててしまい、経費に入れない方が数多くおられますが、本当にもったいない話です。これから始まる不動産経営のために、領収書をきちんと保管しておくことです。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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