【法人化】なぜ富裕層は節税のために法人活用するのか?

富裕層と呼ばれる資産家の方々は、節税のために法人を活用されます。今回から数回に分けて、節税のための法人の活用方法についてご説明させていただきます。

目次

なぜ法人化を行おうとするのか

上場企業の大株主、多くの賃貸不動産を持つ地主さん、非上場企業の経営者、医師など高額所得者は、個人財産を所有するために、法人を持っておられます。非上場企業の経営者であれば、会社そのものが法人であるにもかかわらず、持株会社という法人を追加しようとします。最近では、サラリーマンの副業の受け皿として法人を持つ人もいるようです。

このように多くの資産家が法人を活用するのは、なぜでしょうか?これは、個人で財産を持つよりも、法人で財産を持つほうが、税負担が減少するからです。稼いだお金に対する所得税、子どもに承継する財産に対する相続税、いずれの税負担においても、法人のほうが軽いのです。

一般的に、株式、不動産など収入を生み出す資産を持っているとき、その収入が定期的に入ってくることによって、個人財産が増え続けます。しかし、それを十分に相殺できる経費が無ければ、個人の所得が大きなものとなります。所得金額が4,000万円を超えれば、総合課税の税率は約45%、住民税を合わせると約55%です。

この一方で、法人税の税率は、中小法人であれば約30%です。個人と法人の税率の差がとても大きなものであることがわかります。

そこで、この税率差を利用した節税を考えることができます。経費に計上できる支出の範囲が法人のほうが広い、給与として支払うと給与所得控除が使える、家族に給与を支払うと所得税を抑えることができるなど、細かい節税効果も伴います。いずれにせよ、個人の預金口座でこれ以上お金を増やす必要が無いほどの富裕層の方々は、稼いだお金は法人の預金口座に貯めておけばよいということなのです。

そうすると、個人財産は、個人で所有するのではなく、法人を通じて非上場株式という資産として所有することになります。ここでも相続税の節税効果が出てきます。同じ財産であっても、個人で直接所有するよりも、法人を通じて間接所有するほうが、税法上の複雑な計算式のおかげで、相続税負担が軽くなるケースが多いからです。類似業種比準価額を適用、株特外しなど、様々なテクニックがありますが、単純に相続税評価額を計算するだけでも税負担が軽くなっているはずです。

所得税を節税して法人にお金を貯め込み、相続税を節税して、法人でパッケージ化したお金を子どもに渡すというのが、富裕層のやり方なのです。

所得税はどれくらい課されるのか

所得4,000万円超の個人に課される所得税の最高税率は45%です。これに加えて、住民税10%が課され、事業所得のある方には事業税5%も課されます。不動産賃貸業であっても、5棟10室以上を賃貸していると事業的規模となれば、事業税5%が課されます。

一方、中小法人に課される法人税、住民税、事業税を集計した実効税率は、2022年には33.58%です。個人と比べると約25%も差があります。

しかし、法人の所得を資産家個人の生活費や趣味の費用に使うことはできません。法人の営業に関連する支出しか経費計上できないからです。そこで、法人から個人にお金を移すために、給与を支払いますと、これには所得税が課されます。そうすると、法人税と所得税の二重課税となってしまいます。法人税の税率が軽いと、単純に喜ぶことはできないでしょう。

それにもかかわらず、法人を活用されるのはなぜでしょうか。低い税率という理由以外に挙げられる理由がいくつかあります。一つは、個人で十分な給与所得を得ているため、これ以上お金をもらう必要性が無いことです。もちろん、贅沢な暮らしをしたい、趣味にお金がかかりすぎるなど、もっとお金が必要だという方もいるかもしれませんが、それは少数派です。

もう一つは、経費計上できる支出の範囲が広いにことあります。不動産賃貸でも小売業でも何でも構いませんが、同じ事業を営むとしても、個人で営むよりも法人で営むほうが、経費計上できる範囲が広いからなのです。

法人だとこれだけ経費に入る!

事業を営むためには、当然に支出が必要です。個人であれば、日常生活のための支出と事業のための支出を同じ財布で行うため、生活のための家事費と仕事のための経費があります。

この点、同じ支出があったとしても、個人であれば経費計上することができなくても、法人であれば経費計上できるものがあります。

一つは、給与所得控除です。資産家個人が個人で稼いでもこのような非課税枠はありませんが、法人で稼いで本人やその家族に給与を支払うとすれば、給与所得控除という非課税枠があります。これは経費ではないものの、税負担を軽減する効果があります。

また、家族に係る福利厚生費です。海外旅行の費用は、4泊5日以内であり、従業員数の50%超が参加していれば、従業員の慰安旅行の費用として経費に計上することができます。それに付随して教育研修費を計上することもできるでしょう。

これ以外の支出であっても、個人であれば経費計上できないけれども、法人であれば経費計上できるものがあります。これは、個人事業であれば、事業目的の範囲が狭く限定されているのに対して、法人の事業であれば、その目的の範囲をある程度広く解釈することできるからです。ただし、領収書をきちんと保管しておき、事業目的との関連性を説明できなければいけません。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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