時代の変化の怖さ
Tさん夫婦は、叔父夫婦に子どもがいなかったことから、夫婦養子として養子縁組をしました。
叔父は初婚ですが、叔父の妻は再婚で、先夫の子どもが3人います。
養母が叔父と再婚したのは、先夫と死別したあとで、3人の子供たちはそれぞれ独立していましたので、叔父夫婦の老後を託せる状況ではありませんでした。そうしたことから、叔父の甥になるTさん夫婦が養子となったのです。
叔父は20年前に亡くなりましたが、そのときは叔父の妻が財産を引き受けてTさん夫婦は何も相続しないようにしました。
叔父が亡くなったあと、養母は90歳になるまで元気で、1人暮らしをし、今年、亡くなりましたが、その間、Tさん夫婦がずっと定期的に様子を見に
いく生活を続けてきました。そして、養母は今年の春に亡くなり、相続手続きすることになりました。
葬儀のあと、疎遠だったはずの実子から、養母が自筆で遺言書を作成していると知らされ、予想していなかったことで、驚きました。
内容は、「自宅はTさん夫婦に、預金は3人の子どもに」とされています。叔母の財産は、評価額2500万円の自宅と預金3800万円です。
叔母の遺言書には、不動産の方が評価が高いので、世話になるTさんへとしており、3人の実子たちは現金が少なくても納得するようにという記載があります。
この遺言書は、不動産の評価が高かった20年前に書かれており、養母とすれば養子縁組をしているTさん夫婦を優先的に考えた内容だったところが、叔母は自宅1階を貸し店舗にして収入があり、叔父の遺族年金などもあり、また、病気で医療費が必要になることもなく、現金が思いの外、残ったようです。
裁判所はおすすめしない
実子側は早々に弁護士を立てて、遺言書通りに進めると言ってきましたが、Tさん夫婦にすれば、養母の面倒も見なかった実子に多額の現金が渡ることが不本意で、遺言書にある真意がわからないところ。なにか、対抗手段はないかと、相談に来られました。
養母の財産は、基礎控除を超えているため、相続税の申告が必要になります。申告期限は来年2月です。そうなるとあまり余裕はありません。
Tさん夫婦の寄与分を主張して、家庭裁判所に調停を申し立てる方法もありますが、得策ではなく、Tさん夫婦も弁護士に依頼することになり、時間も費用もかかります。理不尽ながら、遺言書どおりにして争わない方がいいとアドバイスしました。
相続する不動産を売却すればどれくらいの手取りになるのかを想定して、結論を出してはどうかとアドバイスし、早期解決の選択肢を作るような提案をします。弁護士が入り、家庭裁判所に持ち込んでも、感情面は救ってくれません。話し合いができないので、ストレスはピークになり、体調を崩される方が多いのです。
戦ってすっきりしたい気持ちを冷静に押さえることも解決の近道になります。