不動産を「売却する」手続きは?
不動産の売買には、法律や税金、登記など様々な分野が関係するため、慎重に意思決定を行う必要があります。事前に様々な情報を入手しておかなければなりません。
いくらで売るか?
不動産を売りたい場合、売却価格をいくらにするかという問題があります。
不動産には個性があり、例えば、同じ棟のマンションでも階数や向きなどによって価格が異なるのが通常です。
概して売主側は強気となり、取引相場よりも高いの値付けをしがちでしょう。しかし、買主側もそのときに売りに出ている他の物件と比較したり、過去の成約事例などを参考にしたりして購入価格を検討するため、売却価格が取引相場よりも高すぎると、買主側から敬遠されてしまいます。
いつまでに売るか?
また、売却スケジュールも問題となります。不動産の物件情報を入手した買主が不動産を確認して価格交渉および契約へと進むことになりますが、契約で完了というわけではありません。買主が銀行ローンを組む場合は銀行に融資申込みの手続きを行い、売買代金の決済と引渡し、所有権移転登記と続いていくことになります。その結果、売却プロセスに入ってから、契約が成立して引渡しが完了するまでには、一般的に数ヵ月間を要することになるのです。それゆえ、売却代金を他の投資対象の購入資金に充てるような計画があるような場合、売却スケジュールが問題となります。
税金はいくら取られるのか?
さらに、税金等の諸経費をどう見積もるかが問題となります。不動産の売却には、仲介手数料・引越費用・測量代・契約書の印紙代などの経費の支払いが伴う。それゆえ、このような諸経費を事前に確かめておくと同時に、売却により利益が発生する場合は、それに伴う税額についても計算しておかなければならない。また、銀行借入金が残っている場合は、その残額についても把握しておき、不動産に抵当権などが設定されている場合、買主にその不動産を引き渡すまでに、借入金を返済して抵当権を抹消しなければならない。
地積測量図は作っておくこと
なお、区画整理が行われた土地や不動産会社が分譲した土地などは、境界が明確なので問題はありませんが、それ以外の土地は境界が不明確なものがあります。その場合、売却に先がけて土地家屋調査士に依頼して地積測量図を作っておかなければいけません。特に道路との境界の確定は時間と費用がかかるため、それらも見込んで資金計画や売却スケジュールを立てたほうがよいでしょう。
中古物件を売却するとき、売主が自ら買主を探すことも可能ですが、通常は宅地建物取引業者に依頼して買主を探してもらうことになります。宅地建物取引業者が行う買主探しには以下の表のような方法があります。
宅建業者の買主探し手段 | 説明 |
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Webサイトへの掲載 | SUUMOやHOMESなどの大手ポータルサイト、宅建業者が独自に制作しているWebサイトに掲載する。 |
REINSへの登録 | REINSへ登録すると、他の宅建業者による検索によって閲覧されることになる。 |
宅建業者間のチラシ配布 | チラシを作って、宅建業者間で配布する。 |
投函チラシ配布 | 新聞の折込広告を行う。 |
店頭掲示 | 宅建業者の営業店の店頭に掲示する。 |
提携業者紹介 | 提携している他の宅建業者へ情報を提供し、買主情報を集める。 |
不動産を「購入する」手続きは?
不動産を購入するには、最初に、予算を決めなければなりません。その内訳として、すべて自己資金で賄うのか、銀行借入金によって資金調達するのか、父母や祖父母など親族などからの資金援助が見込めるかなどについても確認しておくことが必要です。
融資の返済スケジュールを検討する
特に、銀行借入金については現在の財務状況、所得水準でいくらまで融資が受けられるのか、大まかな数字を捉えておくことが重要です。また、融資が受けられたとしても、その返済が月々どれくらいになるのか、予め計算しておくことが必要です。
付随費用も無視できない
また、不動産の購入には、本体価格のほかに付随する費用が必要となります。購入形態や条件によって異なるものの、主な付随費用としては、仲介手数料、登記費用、契約印紙代、固定資産税等の清算金、不動産取得税、融資保証料、火災保険料、修繕積立金などがあります。これらの付随費用も資金計画に入れておかなければなりません。意外と大きな金額となります。
対象物件の条件を決めておく
どのエリアで物件を探すかも重要です。物件探しを続けていくうちに、希望のエリアと希望予算では、満足いく物件を見つけることができない場合は、郊外や地方に希望エリアを拡大することが必要となることもあるでしょう。
それに加えて、どのくらいの広さ・間取り・価格の物件を探すかについても、予め決めておく必要があるでしょう。
現地調査や役所調査も必要
不動産はその現況だけでなく、法律による制限や権利関係についても十分に調査しておくべきです。周辺の売り物件と比べて格安だということで購入したところ、思わぬ法令上、権利上の落とし穴があって、希望していた建物が建築できない等のトラブルが生じることがあります。このような事態を防ぐために、不動産を購入する際には、事前に現地調査しておく必要があります。
不動産の購入にあたっては、現地へ行き対象不動産の状況を確認するほか、周辺の環境、境界等いくつかのチェックしておくべきポイントがあります。周辺の環境、交通、利便施設、嫌悪施設の有無、地形、方位、日照、眺望などです。
周囲に広い空地がある場合は、そこに高層の建物が建築されて眺望が害される可能性があるため、その利用計画についても事前に確認しておくことが必要でしょう。
面積については、土地を公簿で売買する場合は、実測面積と差異があっても売買代金の清算は行われません。そこで、実測面積が公簿面積と大きく違っていないか事前に確認することが必要です。
壁芯面積と内法面積の違いを知る
マンションの場合、分譲会社が作成するパンフレットでは各住戸の専有部分の床面積は壁芯(壁の中心線で測った面積)で記載されているのに対して、不動産登記簿では内法(壁の内側で測った面積)で記載されおり、面積の計算と測定方法が異なっています。この点には注意が必要です。
買うときも地積測量図が必要
また、土地を購入する場合、隣地との境界を正確に確認することが不可欠です。地積測量図の入手の際は、実測図があっても、隣地所有者の立会いに関する署名捺印がないと、境界の合意があったか不明確であるため、必ず署名捺印の入った地積測量図を入手しなければなりません。
また、そのような地積測量図がない場合は、売主の責任と負担で立会い済みの測量図を作成してもらい、境界には境界石やプレートを入れてもらうように依頼すべきです。
さらに、樹木、電線、塀等が越境していないか、逆に越境されていないかについても確認する必要があります。
宅建業者に丸投げしてはいけない
これらについて宅地建物取引業者が適切に対応してくれるのであればよいですが、そうではない場合、投資家が自ら対応しなければいけません。税理士や公認会計士にも相談しておくべきでしょう。
マンションの区分所有物件を購入する場合、その管理規約や使用細則を事前に確かめておく必要があります。事務所使用が認められているか否か、ペットの飼育は可能なのか、その詳細は、リフォームにあたって防音上の規制は、管理人は常駐なのか日勤なのか等、マンション特有のチェックポイントがたくさんあります。
また、修繕積立金の積み立て状況や、大規模修繕計画の有無や内容についても併せて確認しておかなければいけません。特に修繕積立金は不足する傾向にあるため、不足額を推計しておきましょう。
不動産の所有権を登記する方法
不動産登記とは何か
日本では、不動産の取引を安全かつ円滑に行うために、不動産の客観的な状態および権利の変動について登記記録を作成して、一般に公示する不動産登記制度を採っています。不動産取引を行う場合も、最終的にその不動産が自分の名前で登記されることによって取引が完了します。
登記簿とは、登記記録が記載されている帳簿のことをいいます。現在、登記所はコンピューター化されているため、登記記録は磁気ディスク等をもって整えられ保管されています。それ以外の閉鎖された登記記録については、土地、建物の別でバインダー式のファイルなどで保管されています。
登記記録は、表題部と権利部(甲区・乙区)とで構成されます。
【登記事項証明書記載例】
「表題部」とは、表示に関する登記が記載される部分をいいます。土地の表示に関しては、所在、地番、地目、地積等が登記記録として記載されています。建物の表示に関しては、所在、地番、家屋番号、種類、構造、床面積等が記載されています。
「権利部」とは、権利に関する登記が記載される部分をいます。権利部は甲区と乙区とに分かれ、甲区には所有権に関する事項(過去の所有も含む)が記載されています。所有権の保存、移転及びこれらの仮登記並びに差押等の所有権の処分の制限等の事項が甲区に記載される。乙区には抵当権など所有権以外の権利に関する事項が記載されます。
不動産に関する登記には、以下の種類があります。
①表題登記(建物)
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建物の新築により新たに不動産が誕生した場合に、その建物の概要(所在、家屋番号、種類、構造、床面積等)を登記簿に記載する登記です。表題登記は登記簿の表題部に記載されます。 |
②合筆登記、分筆登記(土地)
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土地は筆を一つの単位としており、「1筆」とは一定の線で区切られた土地の最小単位です。筆は外観上の土地の区画とは必ずしも一致しません。合筆登記とは、隣接した2 筆以上の土地を1 筆に合わせる登記をいいます。分筆登記とは、1 筆の土地に新たに線を入れて2 筆以上の土地に分ける登記をいいます。 |
③所有権保存登記(建物)
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所有権保存登記とは、これまで所有権が設定されていない不動産(新築建物など)に初めて所有権の設定する場合に行われる登記です。所有権保存登記は、登記簿の権利部(甲区)に記録されます。 |
④所有権移転登記(土地・建物)
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所有権の登記がされている土地・建物について、売買や相続などで新たにその所有権を取得した場合に行われる登記が所有権移転登記である。所有権移転登記は登記簿の権利部(甲区)に記載される。 |
⑤共有登記(土地・建物)
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1個の不動産を複数の人で所有することを「共有」といい、1 個の不動産の所有権を複数の名義で登記することを共有登記という。共有登記の場合、それぞれの人の有する所有権の割合は、「持分」で登記簿に表示される。 |
⑥抵当権設定登記(土地・建物) | 抵当権とは、資金の借入れの担保として不動産を差し入れた場合に、その不動産に対して行う登記であり、これによって借入者が返済できなかった場合、抵当権の設定がある不動産から優先して返済を受けることができるようになる。抵当権設定登記は、登記簿の権利部(乙区)に記載される。 |
⑦仮登記(土地・建物)
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条件がまだ整っていないために本登記をすることができない場合に行う登記が、仮登記である。仮登記は、本登記ができるまでの間、順位を確保しておくためのものである。 |
【参考:地番と住居表示】
地番 | 一筆の土地ごとに登記所が付す番号である。
不動産登記規則第98 条《地番》及び不動産登記事務取扱手続準則第67 条《地番の定め方》は、地番を定めるに当たっては市、区、町、村、字又はこれに準ずる地域をもって「地番区域」を定め、この地番区域ごとに土地の位置が分かりやすいものとなるように定めるものとしている。 土地を分筆した場合は、分筆前の地番に支号(枝番)を付して各筆の地番を定めることとし、これに対し、土地を合筆した場合には、合筆前の首位の地番をもってその地番とする。 国有地である土地は、登記されないため地番が付されない。 |
住居表示 | 昭和37 年に施行された「住居表示に関する法律」に基づく表示である。住居表示が実施された地域では、住居表示と地番は異なる。その方法には、街区方式と道路方式がある。
街区方式とは、道路、鉄道などの恒久的な施設又は河川などによって区画された地域に付けられる符号(街区符号)と、その地域内の建物に付けられる番号(住居番号)を用いて表示する方法。我が国のほとんどの地方自治体で採用されている方式である。 一方、道路方式とは、道路の名称と、道路に接する(又は道路に通ずる通路を有する)建物に付けられる番号を用いて表示する方法で、欧米で一般的に採用されているものである。 |
登記事項証明書の入手方法
登記記録を入手するためには、法務局(登記所)で書面による交付を依頼するか、インターネットのWebサイト(登記情報提供サービス)を利用することになります。
登記事項証明書は、大きく全部事項証明書と現在事項証明書とに分けられます。現在事項証明書は、現在有効な事項しか表示されません。このため履歴を含めた情報を確認したい場合は全部事項証明書を請求しなければなりません。
証明書の交付を受けようとする場合、土地であれば「地番」を、建物であれば「家屋番号」を記入します。
土地の地番が分からない場合は、登記所に備えられている公図から調べる必要があります。住居表示と公図との対照表により公図の番号を特定し、その公図を閲覧して、その土地の位置から地番を調べます。
家屋番号は、原則として敷地の地番に従って付されているため、その地番上の建物で特定することができますが、一筆に土地に複数の建物が存在する場合などは、その地番上のすべての建物を調査する必要があります。
また、建物がすでに取り壊されているのに登記上の手続き(滅失登記)を行っていないため、登記上の記録だけが残っている場合もありますので、注意が必要です。
なお、登記を申請する場合には、出頭又は郵送の方法がありますが、申請書のほかにも添付すべき書類が求められます。これらの提出書類は、権利に関する登記の場合、次のようなものです。
【権利に関する登記の添付書類】
(司法書士の代理による場合は、これに加えて委任状が必要です。)
区分所有マンションの権利はどうなる?
分譲マンションや共同ビルなどのように、1棟の建物の中に複数の住宅、事務所、店舗等があるときは、それぞれの住宅等を1個の建物として登記することができます。
ただし、この建物を新築した者は、その建物内のすべての住戸等について表題登記を一括して行わなければなりません。分譲マンションにおいては、通常そのマンションを分譲した不動産会社がこの手続きを行います。
そして、建物自体は一棟でありながら、そのなかに構造上区分された複数の住戸が存在し、それぞれ独立して住居、店舗、事務所などの用途に利用される部分を有している建物のことを「区分所有建物」といい、この中の各独立住戸の所有権を「区分所有権」といいます。
区分所有権については、「建物の区分所有等に関する法律」に規定され、専有部分を所有するための建物の敷地(土地)に対する権利を「敷地利用権」、そのうち登記されたものを「敷地権」といいます。
この敷地利用権は、原則として専有部分と分離して処分することはできません。また、抵当権等の権利を、土地または建物の一方のみを対象として設定することもできません。
敷地権の表示のある区分所有建物について、所有権の移転や抵当権の設定があった場合、その登記は、「建物」の登記記録によって権利関係が公示され、土地の登記記録には記録されません。
敷地権登記がされている場合、建物の登記簿の表題部に敷地権の所在地番、種類、割合等が記載されるため、土地登記簿に権利の変更が記載されなくても、土地について共有持分の所有権移転登記がなされたものと同じ効力を有することとされています。
登記済証から登記識別情報へ
不動産を取得したとき、登記手続きの完了とともに登記所から交付される書類として「登記済証」(権利証)がありました。不動産を売却するときには、その不動産の正当な売主であることを確認するために、登記済証を登記所へ提出しなければなりませんでした。
しかし、インターネットを利用して不動産登記申請を行うオンライン申請では、登記済証は交付されず、その代わりとなる本人確認機能として、「登記識別情報」(12桁の英数字の組み合わせによる記号)が提供されています。
不動産登記の費用はいくらか?
登記にあたっては、法務局へ登録免許税を納める必要があります。土地を買ったときは、固定資産税評価額の1,000分の20(軽減税率では1,000分の15)です。建物を買ったときは、固定資産税評価額の1,000分の20です。
また、登記申請書類を作成して申請等を行う司法書士へ支払う報酬も必要となります。
もちろん、自分で登記手続きを行えば登録免許税のみで費用は済みますが、不備や誤りを防ぎ安全な権利移動等を行うためには、司法書士に依頼すべきでしょう。