今でも有効なのか?事業用資産の買換え特例をわかりやすく解説!

買換え特例

賃貸している不動産を売却し、新たに賃貸用の不動産を購入すると、譲渡所得に対する課税を将来に繰り延べることができます。ただし、無条件で繰り延べることができるわけではなく、様々な条件があります。事業用資産の買換え特例を利用して、不動産経営に係る利回りを高めていきましょう。

目次

「事業用資産の買換えの特例」とは何か?

不動産を買換える場合は利益が出ても税金を取られない

事業用資産の買換えの特例とは、賃貸アパートやマンション、駐車場、テナントビルなどの不動産(事業用資産)を売却し、一定期間内に他の不動産(事業用資産)を取得したときは、譲渡所得に対する課税を繰り延べることができるという制度です。

これは、譲渡所得がプラスのとき、すなわち、安く取得した不動産を高い価格で売却する場合に使うべき特例です。バブル期のように不動産が値上がりしたときが、絶好のタイミングとなります。逆に、取得したときよりも売却するときの価格のほうが安くなっている場合(損失が生じる場合)に使うべき特例ではありません。

たとえば、昔から所有している事業用の不動産で、田舎であった土地が再開発などによって、価格が急激に上がったときなどは、この特例を活かすことができます。

この特例は、課税の繰り延べであって非課税になるわけではありません。新たに取得した不動産(買換資産)を将来売却するときには、繰り延べられた部分も含めて税金が課されることになります。

すなわち、事業用資産を買い替えれば、本来支払うべき所得税等を将来に先送りすることができるということです。ただし、無条件で先送りというわけではなく、厳しい条件が設けられています。

20%に課税、80%の税金は将来に繰り延べ

この特例を使いますと、買換えることで発生する譲渡所得の80%を将来に繰り延べることができます。すなわち、売却した金額(譲渡価額)よりも新たに取得した金額(取得価額)の方が大きいときは、売却した金額に20%(課税割合)を乗じた金額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。

たとえば、土地を売却して100万円の利益が出たならば、100万円全額に対して税金が課されるべきでしょう。しかし、この特例を使えば、20%を乗じた20万円だけを利益として、税金が計算されることになります。

売却代金が残ったら、その部分は100%課税

ただし、売却金額と買換えのための購入金額がぴったりと一致することはありません。売却した金額よりも新たに取得した金額の方が小さいときは、その差額100%と購入金額20%との合計額を収入金額として譲渡所得の計算を行います。

譲渡収入 = 差額100% + 購入金額20%

特に、新しい不動産を購入するとなると、新たに広告を出す、住所変更の通知や得意先への挨拶など、経費が予想以上にかかることがあります。譲渡所得に対して課税されることで、税負担が重くなり、賃貸経営を圧迫してしまうようなときは、課税を将来に繰り延べることで、資金繰りを改善することが可能となります。

事業用資産の買換えの特例の5つの要件

この特例を受けるためには、次の要件の「全て」に該当することが必要です。

【要件1】売りも買いも事業用だ!

売却する不動産(譲渡資産)と新たに取得する不動産(買換資産)は、いずれも賃貸経営のために使うもの(事業用のもの)に限られます。オーナーの居住用に不動産を取得するのであれば、特例を適用することはできません。

ここに事業用の土地とは、事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅など(特定施設)の敷地として使用している土地をいいます。

賃貸アパート・マンションなどの貸家建付地だけでなく、自ら事業を営んでいる場合の職場などが対象となりますが、遊んでいる土地や空き地になっている土地などは対象外です。また、工場中に備え付けられている機械装置は対象外です。

オーナー本人の事業に使われていない資産は、原則として買換えの特例の対象になりません。この「事業」が、オーナー本人が営むものだけなのか、家族が営んでいる事業もそこに含まれるのかが問題となります。

この点、売却した不動産が、オーナーと生計同一の親族の事業に使われていた場合には、オーナー本人の事業に使われていたものとして、特例を適用することができます。一方、新たに取得した不動産についても同様に、その不動産をオーナーと生計同一の親族の事業に使わせていた場合であっても、オーナー本人の事業に使われたものとして、特例を適用することができます。

【要件2】買換えの組み合わせが特定されている

売却する不動産(譲渡資産)と新たに取得する不動産(買換資産)の組み合わせは特定されており、複数のケースがあるのですが、一般に使われる可能性があるのは、次の2つのケースだけでしょう。

<ケースA>既成市街地の内側から外側へ

東京都の23区、大阪市などの既成市街地の内側にある事業所として使用されている建物又はその敷地等で、所有期間が10年を超えるものを売却して、既成市街地等の外側(国内に限ります。)にある事業用の土地や建物、構築物又は機械装置を取得する場合

具体例を挙げれば、長年にわたって製造業を営む個人が既成市街地等の区域内にある○○区の工場と敷地を売って、既成市街地等の区域外にある△△市に工場と敷地を買い換える場合です。

<ケースB>300㎡以上の土地へ

所有期間が10年を超える国内にある事業用の土地等や建物又は構築物を売却して、国内にある事業用で300㎡以上の土地等、建物又は構築物を取得する場合

不動産収入がある方が、条件の悪い物件から条件のよい物件に乗り換えるときの特例は、この組み合わせを使います。土地等の「等」は借地権のことです。

国内にある土地等を譲渡して、国内にある土地等を取得するとありますから、地域は問われません。どこにある不動産を売って、どこにある不動産を買ってもよいのです。

300㎡の土地は広すぎて特例は使えない?と思われるかもしれません。しかし、土地と建物がセットになった、あるいは建物だけ(買換資産)を新たに取得するときを取得するときは、取得した不動産(買換資産)を「建物」として特例の適用ができますから、土地300㎡の要件が足かせとなることはありません。

このように、売却する不動産(譲渡資産)と新たに取得する不動産(買換資産)が、法令に規定されている一定の組合せに該当する必要があります。この判定が一番むずかしい部分です。

【要件3】取得する土地は面積5倍以内

新たに取得する不動産(買換資産)が土地の場合は、その面積が、売却する土地等の面積の5倍以内であることが条件となります。ただし、5倍を超えたとしても、全てが買換え特例の適用ができなくなるわけではなく、5倍を超えた部分についてのみ、買換えの特例を適用することができなくなります。100m²の土地を売って、1000m²の土地を買うときは、5倍の500m²までしか、特例を適用することができないのです。誤解しないように注意しましょう。

【要件4】売却の年度か、その前後1年間で買いなさい!

不動産を売却した年度か、その前年中、あるいはその翌年中に新たな不動産(買換資産)を取得しなければいけません。たとえば、2019年に事業用の不動産を売却するのであれば、2018年に先行して新たな不動産を購入しておく、または、売却の翌年である2020年中に新たな不動産を購入する必要があります。

前年中に取得した資産を買換資産とするためには、「先行取得資産に係る買い換えの特例の適用に関する届出書」を税務署に提出しておくことが必要です。譲渡した翌年度に新たな不動産(買換資産)を取得する予定の場合には、「買い換え資産の明細書」を確定申告書に添付して提出することが必要です。

【要件5】事業は1年以内に開始せよ!

新たな不動産(買換資産)を取得した場合、1年以内に事業を開始しなければいけません。もし取得してから1年以内に事業として使用しなくなった場合は、原則として特例を適用することができなくなります。

事業用資産の買い換えの特例の計算例

<ケースA> 売却金額以上の金額で新たな不動産を購入したとき

売った金額 < 買った金額(高い!)

買換え特例1

(出所:国税庁)

 

事業用の土地・建物を売却して、事業用資産の買換えの特例を受ける場合、売却金額(譲渡価額)よりも購入金額(取得価額)の方が大きい場合、売却金額に20%(または、25%や30%。)を乗じた金額を収入金額として譲渡所得の金額の計算を行います。

例えば、古くから賃貸する不動産を3億円で売却し、新たに5億円の不動産を購入するケースです。売却する不動産の取得費と譲渡費用の合計額が1億円だったとしましょう。

譲渡収入のうち課税されるのは20%部分だけですから、6,000万円(=3億円×20%)です。そして、この部分に対応する取得費と譲渡費用は、1億円の20%ですので、2,000万円です。したがって、譲渡所得は4,000万円(=6,000万円-2,000万円)となります。

本来は2億円の譲渡所得が発生していたはずですが、4,000万円に減額となりました。残りの1億6,000万円はどこに行くのでしょうか?

この部分は、新たに取得した不動産の取得価額が減額されます。すなわち、5億円で取得した不動産の取得価額は、1億6,000万円だけ減額されて、3億4,000万円となるのです。建物であれば、小さくなった減価償却を通じて課税が実現し、土地であれば、将来の売却時の取得費の減少を通じて課税が実現します。結果として、課税が将来に繰り延べられているのです。

<ケースB> 売却金額以上よりも小さい金額で新たな不動産を購入したとき

売った金額 > 買った金額(安い!)

買換え特例2

(出所:国税庁)

 

事業用の土地・建物を売却して、事業用資産の買換えの特例を受ける場合、売却金額(譲渡価額)よりも購入金額(取得価額)の方が小さい場合、その差額と購入金額の20%(または25%、30%)を乗じた金額の合計額を収入金額として譲渡所得の金額の計算を行います。

例えば、古くから賃貸する不動産を5億円で売却し、新たに3億円の不動産を購入するケースです。売却する不動産の取得費と譲渡費用の合計額が1億円だったとしましょう。

購入した不動産のほうが安いですから、その差額は儲け(手元に残る)となります。すなわち、売却金額と購入金額の差額2億円は譲渡所得となります。一方、新たに取得した不動産(買換資産)のうち20%の部分に対して税金が課されることになりますから、6,000万円(=3億円×20%)だけを所得として加算します。合算しますと、2億6,000万円です。

つまり、買換え特例の適用によって、譲渡収入は2億6,000万円となります。ここで、売却金額に対する比率を計算しますと、52%となっています(=2億6千万円÷5億円)

これに対して、この譲渡収入に対応する取得費と譲渡費用として、1億円の52%部分だけを計算に入れます。すなわち、5,200万円(=1億円×52%)です。

以上から、譲渡所得は2億800万円(=2億6,000万円-5,200万円)となります。

店舗併用住宅を買換えた場合はどうなる?

店舗併用住宅とは、居住用と店舗用が一緒になっている家屋をいいます。この店舗併用住宅を売却して譲渡所得が生じ、代わりに同じ種類の店舗併用住宅に買い換えた場合に、事業用資産の買換え特例を適用することができるかどうかが問題となります。

この点、一定の要件に該当するときは、店舗用の部分のみ事業用資産の買換え特例を適用することができます。

その一方で、居住用に使っていた部分には、事業用資産の買換え特例を適用することはできないものの、居住用財産の3,000万円特別控除の特例や居住用財産の買換え特例などの特例を適用することができます。

なお、居住用部分と店舗用部分のどちらか一方の用途の使用割合が建物全体の90%以上になっている場合には、その用途に全体が使われていたものとして、事業用資産の特例または居住用財産の特例を適用することもできます。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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