【不動産M&A事例紹介】浅草の老舗料亭を不動産M&Aで売却

【不動産M&A事例紹介】浅草の老舗料亭を不動産M&Aで売却

複数の親族が関与する会社は合意が困難

浅草の老舗料亭を経営するA社の2代目甲社長は、70歳になって、引退したいと考えていました。A社の浅草にある料亭は、甲社長の父親の代に開いた古い店舗です。

父親の代にその土地に10階建てのビルを建て、1階は飲食スペース、地下を厨房にし、2階以上は賃貸オフィスとして、十分な家賃収入を得ています。

A社の経営は、一族の長男であった甲社長が先代社長から引き継ぎ、複数の親族が株主になっています。

周りからみれば、浅草の名士として立派な社長ですが、甲社長が悩んでいたのは、会社経営を巡って親族の人間関係が悪いことです。

A社は、甲社長のほか、妹の夫である乙氏が専務取締役、弟の息子である丙氏が常務取締役として経営に入っています。しかし、経営戦略に対する考え方の違いから、これまで何度も対立してきました。株主も3つのグループに分かれてしまい、意見を合意させることが難しい状況です。

また、経営に参加していない、他の親族の十数人の株主のなかからは、「総資産は20億円近いのに、わずかな配当しかもらっていない。相続になれば、現金化が困難な非上場株式に対して、多額の相続税を支払わなくてはならないぞ!」という不満の声が出ています。

甲社長の子供たちは、会社を承継する気はありません。親族の人間関係が悪いことを知っている子どもたちは「お客さんも減って、今後は伸びる可能性の無い古い料亭など、さっさと廃業してください。そうしないと、相続税の支払いで大問題になるのではないですか?」と廃業を迫ってきます。

甲社長が元気なときは、「何を言ってるのだ、伝統ある会社を残すことが経営者の役割だ!」と強気の主張を続けてきた甲社長ですが、70歳を過ぎて、真剣に事業承継を考えなくてはならないと思い始めました。

不動産の現金化を検討

ある日、甲社長は、ロータリークラブの仲間のB氏に相談しました。B氏は不動産会社を経営しており、東京都心の不動産市場には精通しています。「浅草の浅草寺に近い場所にあるビルならば、買い手はいくらでも探せますよ。インバウンド需要で賑わっています。ぜひ、私に仲介させてください。」と売却を提案してきます。

B氏が調査した結果は、固く見積もっても20億円、浅草エリアに対する需要が増加しているため、これを上回る価格でも売却できそうです。

しかし、甲社長が単純にビルを売却すれば、売却益の約30%が法人税等で消えてしまいます。20億円の30%といえば6億円です。これを株主に配当すれば、さらに所得税等に50%の税金がかかります。甲社長自身はもちろん、親族の株主も手取り金額が少なくなってしまいます。

また、甲社長には、いまだに料亭の事業運営に対する愛着や、これまで尽くしてくれた従業員に申し訳ないという気持ちがあります。

分散した株式に伴う相続税の問題

「事業も続けられて、分散した株式の問題も、相続税問題も、両方を同時に解決できるような方法はないだろうか?」と、甲社長は悩んでいました。

そこで、甲社長は、相続専門の税理士にアドバイスを求めました。税理士は、甲社長の話を聞くなり、「そのケースは、不動産M&Aで解決できるかもしれません!」と言いました。

税理士は、甲社長に会い、詳しい事情を聞いたうえで、問題点をシンプルに整理しました。

A社に伴う問題点は、資産価値が高く、株式の相続税評価額が高いこと、それに伴う納税資金が不足することです。また、株主が多数であり、意思決定が困難であること。そして、数年後に株主が高齢化すれば、相続が発生し、問題はさらに深刻化することです。

不動産M&Aは売り手の税負担が軽い

税理士は、ビルを単純売却して会社を清算した場合と、株式譲渡によって会社ごと売却した場合を比較しました。

単純に不動産を20億円で売却した場合、法人税等は約30%の6億円が課されたうえに、会社を清算すると残余財産に対して所得税等は約50%の7億円が課されます。したがって、株主の手取り額は、7億円(=20億円-6億円-7億円)になります。

これに対して、会社ごと売却する不動産M&Aの場合は、株式譲渡ですから、譲渡所得税の20%の4億円が課されるだけです。つまり、株主の手取り額は16億円(=20億円-4億円)です。

買い手側の手続きやリスクなどを考慮して、仮に不動産価格の評価を値下げして売却したとしても、株主の手取り額は十分あります。

極端な話し、不動産価格を半額に下げたとしましょう。20億円の半額は10億円です。会社を10億円で売却したとしても、株主の手取り額は、8億円(=10億円-2億円)です。つまり、不動産を売却した後に清算して分配した場合よりも、手取り額が大きいのです。

不動産M&Aと事業承継の両立も可能

また、不動産M&Aの場合は料亭の経営を残すことも可能です。店舗経営の別会社をつくって運営させ、不動産を所有する会社だけを売却するのです。運営会社はM&Aの買い手から店舗建物を賃借し、今までと同様、営業を継続すればよいのです。そうすれば、家賃の支払いは発生しますが、従業員の継続雇用も維持されるでしょう

この税理士の提案が決め手になり、甲社長は、会社の売却を株主総会に上程し、株主全員の承諾を得て、不動産M&Aが成立しました。

この事例でA社を譲り受けたのは、不動産業者のB氏でした。税理士から不動産M&Aのメリットと実務手続きを聞いて、「これは行ける!」とひらめいたとのことでした。

都心一等地の優良な不動産は品薄です。個別不動産の単純売買では、競争相手が多く、高値になりがちです。買い手のほうから売り手側の税務メリットを提案すれば、売り手が売却するという意思決定の背中を押すことができます。この事例では、売り手の税務メリットが大きな要因となり、A社の売却が決定したのです。

複数の株主がいる不動産M&Aは、株主全員の合意を取り付けなければならないため、大きなハードルを乗り越えなければなりません。それを乗り越えるには、税務メリットの享受が必要となります。

親族の株主へ不動産M&Aのメリットを説明する

いくら税務上のメリットがあるとはいえ、歴史と伝統がある会社です。甲社長にはそのオーナーであることに誇りやプライドがあります。自分の代で売却するには相当の勇気がいります。親族から反対されてしまいます。会社の実態は不動産賃貸業でも、昔からの家業は継続したいというケースもあるでしょう。

また、甲社長をはじめとする役員の退職金をいくらにするか、従業員の処遇をどうするか、加えて、株主の最大の関心事である売却価格の問題もあります。

「いくら以上でなければ絶対に株式は売らないぞ!」と主張する少数株主もいるかもしれません。複数の株主の合意形成は容易ではありません。

そこで、不動産M&Aを行うことの理由を明確にして、他の株主に説明することが必要です。

不動産M&Aを実行する理由の一つは、株主が複雑になった現状を解決することです。次の相続が発生して株主数が倍増すると、支配権の所在が見えなくなってしまいます。

また、親族による共同経営に伴うトラブルを解決することです。関係が希薄になるにつれ、経営者の合意形成が難しくなっていきます。中には経営に全く関心のない株主が現れることでしょう。そうであれば、個人財産として株式を所有するのではなく、それを現金化したいという意見が出てくるはずです。

これらの解決策として有効となるのが、不動産M&Aです。廃業と同時にすべての資産価値を現金化することができます。甲社長はA社を不動産M&Aによって売却することで、個人財産の最大化を実現することができました。

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