【不動産オーナー民法トラブル】家族が勝手に土地を売ってしまった!どうなる?

目次

勝手に賃貸アパートを売却して表見代理となる事例

表見代理の事例を紹介します。

父親は、近ごろ認知症の症状が現れてきて、老人ホームへの入居も考え始めた時期、所有する賃貸アパートを売ろうかと考えていました。しかし、まだ土地売却を決意したわけではありません。

父親は、体調が悪く、賃貸アパートの管理は自分ではできなくなっていたため、子供にその管理を任せていました。そんな状況を家で見ていた子供は、ある日、ギャンブルで多額の借金を抱えてしまいました。返済のためのお金が必要となったため、子供は「私は父の代理人です。」と言って、入居者の一人との間で、勝手にそのアパートの不動産売買契約を締結してしまいました。

このような場合、父親は賃貸アパートを売らなければいけないのでしょうか?

この事例ですが、原則的な考え方は、子供には代理権が無いわけで、売買契約は無効であって、父親は賃貸アパートを売る必要はないということです(無権代理行為)。

しかし、賃貸の管理業務に限っては代理権が付与されており、子供は代理人として賃貸業務を行っていたわけです。

この点、入居者(買主)からすれば、子供が売買契約まで代理権を当然に与えられていると信じるのは正当でしょう。それなのに、父親から「代理権など与えていない、アパートは売らんぞ!」と言われてしまってはかわいそうです(外観法理)。

そこで、代理人である子供が自ら有する代理権の範囲を超えて法律行為を行った場合、相手方である入居者(買主)がそれを知らなかった(過失もなかった)のであれば、その売買契約は有効となるのです(表見代理)。

「それでは父親がかわいそうだ!」という意見があるかもしれません。しかし、賃貸管理まで任せて信頼していた子供に裏切られたというストーリーです。子供を信頼していた父親に落ち度があると言わざるをえないのです。

時効で不動産の所有権を取得する事例

次に時効の事例を紹介します。

花子さんが父親の太郎さんから相続した土地に賃貸アパートを建てて生活していました。しかし、相続登記を行っていなかったため、他界した太郎さんの所有となっていたのです。また、太郎さんの相続の際に兄弟(相続人)の二郎さんとは遺産分割協議を行っていませんでした。

花子さんは自分が建てた賃貸アパートの敷地ですから、「土地は自分のものだ!」と主張しています。しかし、法律的には、相続のときから法定相続分2分の1で兄弟の二郎さんと共有になっていたのです。ちなみに、この事例では、二郎さんも他界しており、現在は、花子さんは二郎さんの奥様と共有となっていました。

民法上、この土地は、花子さんと二郎さんの奥様との共有です。しかし、花子さんは自分が所有するという意思を持っており、アパートを建てて公然と占有していますから、外部の第三者から見れば、花子さんの土地のように見えてしまいます。

このような場合、花子さんは一定期間が過ぎれば、「時効」によって取得することができます。つまり、二郎さんの奥様の持分を自分の持分をすることができるのです。

この点、二郎さんの奥様との共有状態にあることを知らなければ(過失もなければ)、占有を開始してから10年で時効となり所有権を取得することができます。花子さんは「そんなことは知らなかった!」と当然に主張するはずです。

しかし、相続の結果として相続財産が共有となったことは、税理士か司法書士に聞けばわかるはずであり、それを知らなかったのは花子さんが悪い(過失がある)とも言えます。その場合、占有を開始してから20年で時効となり所有権を取得することになります。

相続登記をするかしないかは、お客様の自由ですが、後からトラブルになることを避けるためにも、他界した親(被相続人)の所有権が残ったまま放置しないようにしましょう。

未成年の子供に土地の売却を任せていたら?

制限行為能力者の事例です。

父親は土地の売却に迫られていましたが、病気で入院することになったため、未成年の子供に土地売却を任せました。つまり、父親は子供に代理権を付与しました(委任状を書きました。)。子供が売買契約を締結すると、父親が売主となります。

しかし、子供が未成年者(年齢20歳未満の者→18歳未満に改正予定)であれば、制限行為能力者となるため、法律行為を行っても、原則として、取り消すことができます。とすれば、いったん成立した売買契約を父親は取り消すことができるのでしょうか?

この点、未成年者の法律行為を取り消すことができる制度は、未成年者を保護するためのものでした。

しかし、このケースでは、土地売買で損害を受ける可能性があるのは売主である父親であり、未成年者が損害を被るおそれはありません。また、父親は自ら委任状を書いて子供に土地売却を任せているのです。したがって、父親はこの売買契約を取り消すことはできません。

家族が勝手に土地を売ってしまった事例

父親は何となく土地を売ろうかどうしようか悩んでいました。まだ、土地売却を決意することができず、悩み続けています。

その状況を家でこっそりと見ていた子供が、「私は父の代理人です。」と言って、知人との間で、勝手に土地の売買契約を締結しました。

この場合、父親は土地を売らなければいけないのでしょうか?

原則的な考え方は、子供に代理権が無いわけですから、父親は土地を売る必要はないというものです(無権代理行為)。

父親が3,000万円で売りたいと思っていた土地が、子供によって1,000万円で売られてしまったとしましょう。この場合、父親はまさか1,000万円で安く売るはずはないですから、売買を無効にして、父親は土地を売らないと主張することができます。

しかし、父親にとって、売ったほうが有利だというケースもあります。たとえば、希望をはるかに上回り、子供が土地を5,000万円で売ったとしましょう。この場合、その価格では喜んで売りたいと思うはずですので、売買契約に問題があるとしても、それを追認することができます(追認権)。つまり、父親が土地を売ることができるのです。

それに対して、何も知らずに売買契約を締結した友人は、かわいそうです。父親から「代理権など与えていない、土地は売らんぞ!」と言われてしまうおそれがあるからです。そんな状態が続けば、不安になります。

そこで、追認権について、「追認しますか、追認しませんか?連絡してください。」と、父親に対して連絡せよと催告することができるのです(催告権)。

父親は、「誰だ、こいつは!?契約なんてしてないぞ、気持ち悪いな、無視しよう。」となるはずです。催告を無視すれば、追認しないこととなるため、父親が売主になることはありません。

買主が高値で買ってしまった場合はどうなるでしょうか?

何もしなかった友人が、冷静に不動産価格を再検討した結果、市場において3,000万円前後で取引されていた土地を、誤って5,000万円で買ってしまったことを知りました。

この場合、買主である友人は、売買契約の取り消すことができます(取消権)。

ちなみに、買主の取消権と売主の追認権は、早いもの勝ちです。売主が大急ぎで追認した場合には、もはや買主のほうから取り消すことはできなくなります。父親からすれば、3,000万円の土地を5,000万円で売ることができたということです。

結果的に、何も知らなかった友人は本当にかわいそうです。買うと決意していた土地を買うことができなかったわけですから。それゆえ、友人は、勝手に売買契約を締結した子供に対して責任を追及し、土地を引渡すように請求する、または、損害賠償を請求することができます。

未成年者は不動産の売買できる能力はあるのか?

行為能力の制限一つは、未成年者です。未成年者とは年齢20歳未満(2022年から18歳に改正)の者をいいます。

未成年者は、法定代理人(親権者または後見人)の同意を得るか、法定代理人に代理してもらうことによって、完全に有効な法律行為ができます。

よって、未成年者が親の同意なく勝手に不動産売買を行った場合には、それを取り消すことができます。たとえば、17歳の子供が勝手に土地の売買契約を締結しても、それを取消しすることができます。

また、成年被後見人の行為能力も制限されています。成年後見人とは、精神上の障害によって物事を判断する能力がない人で、家族などからの請求によって裁判所から後見開始の審判を受けた人を言います。完全な認知症になったイメージです。

成年被後見人が法律行為を行うには、成年後見人(保護者)が代理しなければいけません。成年被後見人が行った行為は、たとえ成年後見人の同意を得ていたとしても、取り消すことができます。

たとえば、成年被後見人の自宅を売却するときは、成年後見人が代理して売買契約を行います(家庭裁判所の許可が必要です。)。

同様に、軽い認知症である被保佐人被補助人の行為能力も、能力の程度に応じて制限があります。被保佐人は重要な財産上の行為のみ保佐人の同意を必要しますので、保佐人の同意を得ないで自宅の売買契約を締結したときには、その契約を取り消すことができます。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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