オーナー企業の経営者はどうすれば会社を高く売却できるか

近年、M&Aによる事業承継が増加してきています。オーナー企業の経営者はどうすれば高く売却できるのでしょうか。今回は事業計画について説明します。

目次

買い手候補による買収価格の計算は事業計画

会社を高く売却できるということは、買い手に高く買収してもらうということです。つまり、買い手から高い買収価格が提示されるような魅力的な事業を営んでいなければいけません。

M&Aで買い手が買収価格を計算するときの材料は、事業計画です。どのような買い手であっても、事業計画を見て、買収価格を計算し、買収すべきか否かを判断します。これは、経営者は、「投資額はいくらで、そこからどれだけの利益(キャッシュ・フロー)が生み出されて、何年で回収できるのか」、すなわち、投資回収計算を考えるからです。

そこで、売り手は、買い手の投資判断に資する事業計画を提供しなければなりません。また、その基礎にある事業戦略を詳しく説明しなければいけません。

たとえば、売り手から「希望売却価格は1億円」だと要求する場合、1億円という事業価値は、どのような事業計画に基づいているのか、その計画の実現可能性はどのくらいあるのか、売り手の考えをわかりやすく説明しなければなりません。

また、売り手の事業価値は、買い手側の事業内容によって大きく変わります。対象事業と買い手側の事業との間でシナジー効果が発生するからです。シナジー効果が発生する場合、事業価値が高くなり、高い買収価格が期待できます。つまり、2つの事業を統合したとき、買い手側の商品・サービスとどのように販売連携できるか、重複する機能を統合することによってどのようにコスト削減できるか、結果としてどれくらい収益性が高まるか(生産性が向上するか)、これらのシナジー効果の大きさが、事業価値の評価とその実現可能性に影響し、買収価格に反映されることになるのです。

事業計画とは

事業計画とは、将来予想される損益およびキャッシュ・フローの計画とその根拠のことをいいます。通常のM&Aでは、3年から5年分の損益予測として提示されます。

予想売上高(トップ・ライン)については、「地域」や「商品・サービスの種類」といったセグメントごとの明細書を作成することも必要です。また、買い手から得意先の一覧表を要求されますので、事前に用意しておきます。

具体的には、製品・商品・サービスの単価および販売量を分解し、シナジー効果によって、単価が上昇すること(競争力強化)と、販売量の増大すること(市場拡大、シェア拡大)を予測した金額を計算します。

ここで買い手が重視する数値は、対象事業の正常収益力です。過去の実績を考慮しつつ、シナジー効果など買い手の目線から修正を加え、正常収益力が評価されます。この正常収益力に基づいて、DCF法などの計算が行われ、買収価格が決定されるのです。

それゆえ、直近の事業年度の実績値は重要な数値です。将来予測の発射台となるからです。実績値を大きく上回る正常収益力を評価させようと思うのであれば、売上高と利益が上昇傾向にある実績を残しておかなければいけません。買収価格を高く評価させるためには、業績好調のタイミングを捉えてM&Aを行う必要があるのです。

ここで留意すべきことは、買い手によるM&Aの目的です。これは、(1)事業価値を現金一括で取得すること、そして、(2)その後の事業価値の増大、すなわち、シナジー効果を創出することにあります。その手段が統合による収益性の向上(生産性の向上)です。

そうすると、買い手は、(1)対象事業の正常収益力と現状の事業価値を正確に評価しようとします。それゆえ、提示する事業計画には、単なる損益予測の数字だけでなく、具体的な事業戦略や投資計画、アクションプランまで記述し、買い手が事業の将来性をイメージしやすい情報として提供するとよいでしょう。この点については、買い手から細かく質問されるため、対象事業の経営陣が今後の事業の見通しをどのように考えたのか、経営目標をどのように達成しようと考えているのか、質問に対して即答できるように準備しておくことが必要です。質問に即答できれば、実現可能性の高い計画だと買い手に感じさせることができるでしょう。

これに加えて、買い手は、(2)シナジー効果によって創出される価値を評価し、それを現状の事業価値の評価に織り込んでくることがあります。つまり、買収価格を高めに評価する傾向があるということです。それゆえ、売り手は、単に事業計画そのものを説明するだけでなく、M&Aによって期待されるシナジー効果を提案したほうがよいでしょう。シナジー効果は、事業価値のプラス要因となります。売り手で考えるアイデアを積極的に提供することで、買収価格を引き上げることができるのです。

高い買収価格を提示してくれる買い手の特徴

M&Aを行おうとするとき、売り手は、買い手候補をリストアップし、複数の買い手候補に買収提案を持ち込みます。そして、最も高い買収価格を提示してくれる買い手候補をM&Aの相手として決定することになるでしょう。

高い買収価格を提示してくれる買い手には、以下のような特徴のある経営者がいます。このような経営者を見つけることが、会社を高く売却する手段となります。

  • 経営者の能力が高く、対象事業を成長させる自信がある
  • 買い手側の事業と統合させることによって大きなシナジー効果(収益拡大、コスト削減)が期待される
  • 余剰資金が豊富にあり、M&Aが失敗しても買い手側の事業に大きな影響がない
  • 対象事業を買収することによって、市場シェアが変動するため、他の競合他社には絶対に買収されたくない
  • オーナー企業のワンマン社長。経営者の感情で投資意思決定が行われ、とにかくM&Aをやりたい気持ちが強い
  • 上場する大企業のサラリーマン経営者。株主からM&Aをやれとプレッシャーを受けている、来期の予算を達成するにはM&Aが必要、買収に投じるのは自分のカネではない、M&Aの責任は負わなくてもいいと考えている

このような経営者を見つけるには、買い手側となる企業とのネットワークが豊富なM&Aアドバイザーにマッチングを依頼することが有効でしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

目次