なぜ経営承継が難しい?優秀で営業力ある社長ほど事業承継に失敗するのはなぜか?

経営承継

事業承継とは、株式の相続やM&Aの問題だと思われる方が多いですが、企業経営を次の社長に引継ぐことも問題です。ここでは経営承継を考えましょう。

目次

経営承継のために事業を存続させるにはどうすべきか?

事業承継は、会社の支配権を次の社長に引継ぐことですので、確かに株式の承継(相続やM&A)は重要な問題です。

しかし、事業承継の「事業」つまり企業経営の承継も意外と難しい手続きとなり、それが問題となることがあります。

事業承継を行うような老舗企業は、昔からの経営環境が大きく変化する局面に直面していることでしょう。このような変化に応じて、事業内容を変えていくことも必要とされます。

赤字になっていると後継者は承継しようとは思わないはずです。将来の黒字を確保できるよう、継続的な付加価値の提供が可能となる状態を取り戻さなければいけません。

そのためには、これまで築いてきたビジネス・モデルやのれん、顧客関係、ブランドを承継することはもちろん、新しい時代に適応できる商品開発力、技術力、新しいビジネス・モデルが必要となります。

これら目に見えない経営資源のことを、「無形資産」といいます。事業承継には、この無形資産の明確化が必要となるのです。

無形資産を正しく認識することができれば、事業承継は半分成功したようなものです。しかし、無形資源は、現経営者や従業員の頭の中に入っている見えないものです。技術、ノウハウ、顧客関係など無形資源は、人から人へ伝達しなければいけません。コミュニケーションを通じた情報共有が必要でしょう。それによって、これら無形資産を後継者に移転することが、経営承継の目的となります。

経営承継を子供が行う必要はない

ある製造業の会社にとって、高い技術力が最大の無形資産となっているとしましょう。それを容易に承継することができるでしょうか。

その技術がマニュアル化されている場合には、そのマニュアルを渡してあげれば承継できます。しかし、技術を持つのが経営者個人や従業員である場合には、目に見えないため、承継することは難しいものでしょう。

もし経営者や従業員が突然の病気で引退してしまった場合はどうすればいいでしょうか。技術を承継できる者がいないため、無形資産を維持することができず、会社の存続が難しくなってしまいます。

一般的に、無形資産が経営者や従業員の個人的能力に依存している場合には、経営承継に時間を要するといわれています。そのような場合、無形資産をマニュアルなどに明文化したり、OJTで人から人へ承継したりするなど、組織的に承継する手続きが必要となります。後継者には無形資産の習得のために時間をかけて教育する必要があります。

無形資産を維持するための仕組みの構築はとても難しいものです。後継者と想定していた子供が、これら無形資産を承継することができないと判断された場合、M&Aを検討すべきケースもあるでしょう。後継者に無理させるよりも、第三者に承継してもらうほうがよいケースがあるのです。

経営承継のためにワンマン経営から組織的経営へ移行しよう

オーナー企業の場合、技術、ノウハウ、営業力、顧客関係などの無形資産が、従業員ではなく経営者個人に帰属しているケースがほとんどです。

しかし、偉大な経営者個人に集中していた無形資産を、子供や従業員が承継することは、経営者としての能力という点において難しい問題となります。

そこで、このような個人への一極集中の状況を変えて、組織全体での共有という状況を作らなければいけません。つまり、経営者によるワンマン経営から、組織的な経営体制に移行する必要があるのです。経営承継にはこれが不可欠となります。

すなわち、経営者個人が行っていた仕事を従業員へ権限移譲し、無形資産を組織全体で共有できる仕組みを作ることが必要です。無形資産を分散して共有しなければいけません。経営の組織的分化および事務分掌の明確化によって、経営者個人への依存度を低くすることが必要となります。

注意すべき点は、組織的な経営体制に移行すると、権限が分散し、経営者が引っ張ってきた求心力が低下してしまうおそれがあることです。そこで、新たな求心力となりうるメンタル面での指針、すなわち「経営理念」を確立し浸透させなければなりません。

経営承継には早めの対策が必要

後継者の選定には、現経営者の引退の時期が関連しています。仮に現在65歳で、70歳に引退すると決めますと、それまでに後継者の問題を解決し、後継者に経営を承継しなくてはなりません。つまり、5年の猶予しか残されていないということです。

経営承継の時期は、現経営者の体力や健康状態を考慮に入れつつ、後継者教育に必要な時間を勘案して決めるべきでしょう。経営承継を行うと決めたならば、社内への公表や取引先企業及び金融機関への告知時期も検討することが必要となります。

具体的には、現経営者の意向と健康状態に応じて、経営承継の時期を決めましょう。いつまでも元気で精力的に働くことができる自信があったとしても、肉体的・精神的な老化現象は避けられないことです。

現経営者としては、いつまでも自分のやり方で経営を続けたいと思うかもしれませんが、老化による不適切な経営判断が企業経営に及ぼす弊害も無視できません。元気なうちに引退しておいたほうが安全だというケースがあります。後継者へ計画的に経営承継を行っていく必要があります。

また、現経営者が引退を決意した場合、役職員や関係者が心理的、物理的にその決定を受け入れるかどうかが問題となりますが、周囲の人たちは何の説明を受けていない状況のまま突然の相続が発生するような事態が最悪です。会社の支配権争いやクーデターが起きるケースがあります。現経営者が元気なうちに関係者への周知を図り、理解を得ることが必要なのです。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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