事業承継を相談すべき専門家を見つける方法

事業承継の専門家
目次

事業承継の専門家とは

事業承継の専門家とは、中小企業の事業承継の際に発生する課題(論点、解決すべき問題点)を解決することができる専門家です。

事業承継に伴って課題は非常に多く発生するため、すべてを把握するのは困難です。事業承継に伴う課題を漏れなく把握するために、事業承継の専門家に相談することになります。

事業承継の専門家に求められる3つの条件

では、事業承継を相談すべき専門家は誰でしょうか?以下の3つの側面をすべて指導できる専門家です。

(1)事業性評価ができること
事業承継に直面する事業の経営状態を把握し、経営環境を調査したうえで、成長戦略を考えることができる。

(2)現経営者と後継者のキャリアを考えることができること
事業承継は社長交代ですから、退任する社長の老後のライフプランを考える一方で、新たに社長に就任する後継者のキャリア選択、生きる覚悟を決めさせることができる。

(3)事業(株式)の承継手続きに伴う法務・税務・財務を指導できる
事業承継では、経営権が現経営者から後継者(M&Aの場合は買い手)へ移転します。それに伴う法務や税務の専門知識を提供することができる。M&Aの場合、買い手を紹介してマッチングさせることができる。

事業承継の専門家が解決すべき問題は3つある

事業承継は、企業経営者の立場(社長)の交代であるとともに、経営者の地位を裏付ける財産(株式)を移転することでもあります。

これを支援するということは、経営の承継後継者の育成及び個人財産の承継という3つの側面から支援しなければならないということです。

そのためには、企業経営を理解し、事業の存続・成長を導かなければなりません。

また、経営者になろうとする後継者の気持ちを理解し、そのキャリア・プランの選択を促したうえで、社長になるという人生最大の意思決定をサポートしなければなりません。

同時に、財産の移転の手続きやそれに伴う税負担を考える必要があります。

さらに、第三者への承継の場合は、相手探し、買い手とのマッチングという問題が出てきます。

つまり、事業承継支援には、「事業をどうするか?」という企業経営の問題、「社長人材を創出することができるか?」という個人のキャリア選択や後継者育成の問題、「事業や株式の移転手続きはどうするか?」という資産税およびM&Aの問題という3つの問題が問われるのです。

これらを3つまとめて支援できる専門家が、事業承継を相談すべき専門家と言えます。

金融機関や仲介業者は事業承継の専門家なのか?

結論を申し上げると、金融機関やM&A仲介業者は、事業承継の専門家ではありません。

金融機関の事業承継支援の取り組みが、期待されるほどの成果を生み出さなかった理由は、金融機関側の目線で支援していたことにあります。金融機関は、売りたい商品を売るために事業承継支援を行ってきました。お客様側の目線で支援が行われていなかったということです。

生命保険契約を売りたい生命保険セールスマン、融資や投資信託を売りたい銀行員、いずれも金融機関側の商品・サービスを販売することを目的とし、取り扱う分野に関連した支援を提案し、実行してきました。

金融機関が出版する「事業承継」をタイトルとする専門書も、ほとんどがこのような目線で書かれています。

しかし、お客様側に立ってみますと、本当に解決すべき問題が他にあったということがあります。事業戦略の見直しが求められるお客様に、遺産分割問題が重要だからと生命保険を契約させられるケース、節税策が必要のないお客様に、融資による株式の買取りスキームが提案されるケースなどが多く見られました。

これらのケースでは、お客様が抱える問題の本質は無視され、支援者側の商品・サービスに係る問題点だけしか見られていなかったのです。これでは事業承継の問題を解決したと言うことはできません。

何が正しいのかわからないお客様は、「金融機関しか事業承継を相談できる相手がいない」と思い込み、それで満足してしまっているのです。結果的に本質的な問題が解決せず、後から問題が顕在化し、トラブルが発生するケースが多く見られました。

相談すべき事業承継の専門家とは

事業承継に関する業務をすべて一人で対応できる専門家はいません。事業承継を相談するのために主要な分野について、どのような専門家が適しているか、次の表にまとめました。身近にこのような専門家がいない場合は、事業承継支援コンサルティング研究会にご相談ください。

業務専門家
事業承継全体のコーディネート中小企業診断士、軍師
事業計画や経営戦略の立案、組織改革の実行など経営に係る業務中小企業診断士
役員報酬や給与体系の見直し、助成金申請などに係る業務社会保険労務士、行政書士
自社株式の評価、事業承継税制の適用申請、退職金の計算、節税対策などの業務税理士、公認会計士
親族間、株主間の紛争解決、会社法を活用した自社株式対策に係る業務弁護士
遺言書の作成、民事信託に係る業務弁護士、司法書士、税理士
引退後のライフプランに関することファイナンシャル・プランナー、中小企業診断士
法人設立、会社分割、定款変更、登記、契約書のチェックなどの法律に関する業務弁護士、司法書士
後継者教育、幹部教育など教育関連の業務中小企業診断士、キャリアカウンセラー
事業承継補助金など公的支援策活用に関する業務中小企業診断士、税理士(経営革新等認定支援機関)
後継者への多面的な支援業務軍師、中小企業診断士
M&A、第三者承継などの推進業務公認会計士・税理士、中小企業診断士、M&Aアドバイザー

事業承継の専門家による正しい支援とは

事業承継の専門家のあるべき姿は、お客様が抱える問題を、正確かつ網羅的に把握しようとすることです。問題を漏れなく発見することが最大の支援策となります。

事業承継の問題は、大別しますと、事業そのものの問題、後継者人材のメンタルな問題、経営資源の移転手続きの問題、この3つに大別されます。支援者は、これら3つの分野のすべての典型論点を調査し、問題の有無を探らなければいけません。

後継者キャリアの専門家であっても、M&Aの譲渡手続きの問題点を指摘しなければいけません。資産税専門の税理士であっても、社長の経営管理手法の問題点を指摘できなければいけません。幅広く、網羅的な観点とその支援が求められるのです。

事業承継の専門家には、これらを包括的にアドバイスすることが求められるのです。極めて高度な能力と経験が求められます。それゆえ、事業承継の専門家を見つけることは容易ではありません。

事業承継を専門とする士業

税理士による事業承継の相談

税理士による事業承継の支援は、株式や事業用資産の移転手続きです。これらは税務と法務に関連する課題ですので、税務の専門家である税理士の得意分野となります。

また、債務(借入金)の承継についても、決算書を作成し、企業財務を日常的に取り扱う税理士であれば、相談対応できるはずです。

従業員承継では、株式買取りの資金調達の課題が出てきますが、日本政策金融公庫の創業融資などを取り扱う税理士であれば、事業計画の策定支援などにおいて支援することができます。

税理士の顧客は主として中小企業・個人事業主であり、それらの経営者のほとんどは顧問税理士のことを身近にいる最も信頼できる相手だと思っています。そのため、事業承継など企業経営そのものに係る問題についても、税理士が相談相手だと考えています。

しかし、これは大きな誤解です。

ほとんどの税理士は、決算書・申告書の作成というデスクワークに長年従事しているサラリーマンです。このような税理士が、企業経営者が抱える事業戦略や経営管理の悩み、経営者個人の生き方といったメンタルな問題を理解することはできません。

しかし、税理士事務所を自ら経営している開業税理士であれば、お客様と同じ経営者の立場にあるため、企業経営の課題を理解し、その支援スキルを習得するは可能であるはずです。

税理士は、その特徴からも顧問先企業の事業承継ニーズを察知するには最も適当な存在であり、経営者に対して、事業承継の気付きを与え、顧問先企業の見える化・魅せる化を指導するなど、主導的な立場で円滑な事業承継を進めていくことが期待されています。

弁護士による事業承継の相談

弁護士は、中小企業や経営者の代理人として、事業承継を進めるにあたり、 経営者と共に金融機関や株主、従業員等の利害関係者への説明・説得を行い、 円滑な事業承継を進める役割を担っています。

弁護士には、主に、法的な観点からの検討・助言を期待することができます。それゆえ、事業承継においては、検討すべき法的な問題点、踏まえておくべき法的な手続が、随所にあります。

たとえば、親族内承継は、相続についての民法のルールが関わってきます。現経営者が後継者に株式を遺贈するような場合には、遺言が民法の要求する方式を満たしていることが必要ですし、後継者への贈与・遺贈の場合には、後継者以外の相続人の遺留分への配慮も必要です。

また、現経営者が借入債務・保証債務等を背負ったまま亡くなった際には、相続人がそのまますべて相続する単純承認を避けた方がよい場合もありますので、その場合には、限定承認や相続放棄も検討する必要が生じてきます。

一方、従業員承継や、第三者承継(M&A)では、株式譲渡のほか、事業譲渡や会社分割等について、主に会社法のルールが深く関わってきます。事業承継においては、法的な観点からの検討・助言が不可欠です。

中小企業診断士による事業承継の相談

中小企業診断士は、経営診断、経営指導を主たる業務とするため、業界動向分析を得意としています。また、売上の計上から原材料の仕入れまで、ビジネス・モデルの分析も得意としています。

SWOT分析やローカル・ベンチマークを活用することによって、事業承継問題を抱える対象事業の経営環境と経営資源の分析を行ってもらうことができます。

また、中小企業診断士は、長年サラリーマン生活を経て独立された人が多く、現経営者とコミュニケーションをとることを得意としています。企業の内部事情を理解していますから、事業承継のタイミングに生じる悩みを聞いてくれます。

企業経営だけでなく現経営者の引退後のライフプランまで腹を割って話すことができます。会話の内容は専門的な内容だけでなく、雑談も大切です。ゆっくりと対話を行い、理解を深めていくことができる士業です。パートナーとして共に事業承継問題に取組むという関係を作ることができます。

M&A仲介やM&Aアドバイザリーを学ぶセミナー・研究会へ参加しましょう

事業承継やM&Aという難しい経営課題を解決することができる専門家を目指す方々は、事業承継支援コンサルティング研究会に参加し、事例研究、書籍執筆、グループ・ディカッションに励んでいます。東京都中小企業診断士協会認定のセミナー・研究会です。

事業承継支援コンサルティング研究会
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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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