学習塾・予備校業界のM&Aと企業価値評価

学習塾・予備校業界のM&Aと企業価値評価

近年、学習塾・予備校業界のM&Aが増えている。ここでは、学習塾・予備校業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、学習塾・予備校業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみよう。

M&Aの多い学習塾・予備校業界

学習塾・予備校業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&A可能性のある競合他社を説明する。

学習塾・予備校業界の市場動向・経営環境

学習塾とは、小学生から高校生までを対象として、学校教育の補修、上級の学校への進学のための授業を提供する事業者のことをいう。少子化の経営環境によって、学生の数は減少しているものの、上級の学校への進学率が上昇しているため、学習塾の市場ニーズは僅かであるが増加している

これに対して、予備校とは、高校生や浪人生など大学受験生を対象として、大学受験に向けた試験対策の授業を提供する事業者のことをいう。少子化の経営環境によって、大学進学者が減少しているため、今後の予備校の市場ニーズは減少することが予想される。

学習塾・予備校業界のビジネスモデル

学習塾・予備校業のビジネスモデルは、従業員である講師を雇用して、顧客である学生に対して授業を提供するというものである。進学を目的とした受験専門の学習塾・予備校と、学校の授業の補習などの学習指導を行う補習型の学習塾がある。

自宅を教室として活用することもあり、賃料を削減することが可能であることに加えて、講師の人件費以外に大きな費用は発生しない。開業資金をあまり必要としないことから、多くの個人事業主が学習塾を開業している。

また、授業料は前払いであることから、資金繰りは良好な企業が多いようである。

学習塾・予備校業界M&Aで買い手候補となる企業

学習塾・予備校業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような大企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。

学習塾では、栄光、リソー教育、早稲田アカデミー、明光ネットワークジャパン、東京個別指導学院、臨海、ブレーンバンク、京進、ステップ、成学社、ウィザス、スプリックス、学究社、城南進学研究社、市進ホールディングス、進学会ホールディングスである。一方、予備校では、河合塾、駿河台学園、高宮学園、ナガセである。

学習塾・予備校業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで学習塾・予備校業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、受講を希望する学生は、お気に入りの授業を継続して受講することもできることができる。

また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、マルチメディア機器が充実すれば、学習塾・予備校業の高度化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、講師の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、教室規模の拡大による生産性向上、優秀な講師の採用や、多額になる広告宣伝費の効果的な支出、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

学習塾・予備校業界M&Aで買収する買い手の注意点

学習塾・予備校業界で買収を行う際、デュー・ディリジェンスにて調査すべき経営資源や注意点を説明する。

学習塾・予備校業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

学習塾・予備校業は、講師の人気が生徒獲得能力を決定するという特徴がある。よって、講師には個別に面談を行うなど、継続雇用が可能かどうか確認することが不可欠だろう。アルバイト講師が多いのであれば、安定的に高品質の授業を提供することができる講師を採用することができているか、確かめたい。

学習塾・予備校業の事業性を評価する場合の注意点として、広告宣伝費が大きく、効果的な支出が求められるということがある。

学習塾・予備校業の買収で承継すべき経営資源

学習塾と予備校のいずれも、効果的な授業と適切な個別指導を行うことができる講師(従業員)が基本となる経営資源である。人気講師の引き抜きは日常茶飯事であるから注意が必要だろう。また、教室の立地条件、長期間にわたって継続的に通学してくれる学生も重要な経営資源である。

予備校が学校法人であれば、監督官庁である都道府県知事の認可が、経営資源となる。

最近では、効果的な教材と学習ソフトウェア、インターネットを通じた動画配信ができる機械設備も重要な経営資源だと考えられる。

無形資源は、事業承継によって喪失されることが多いため、学習塾・予備校業のM&Aを行う場合は、講師や受講生との人間関係の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要だろう。

学習塾・予備校業を買収するときの企業価値評価(株価算定)

学習塾・予備校業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっている。

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、学習塾の収益性について、売上高成長率は約3.6%である。また、粗利率は76.3%、営業利益率は3.3%となっている。生産性について、1人当たり売上高は525万円、1人当たり人件費は260万円となっている。

一方、予備校業の収益性について、売上高成長率は約▲16.1%である。また、粗利率は87.9%、営業利益率は6.6%となっている。生産性について、1人当たり売上高は810万円、1人当たり人件費は405万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、学習塾・予備校業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.7~3.5倍、PER倍率は20~50倍、EBITDA/企業価値倍率は9~16倍となっている。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば5%、急成長の新興企業であれば9%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが5~20%と比較的高くなっているものの、類似上場企業のベータ値が0.3~0.8であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、リソー教育(4714)、早稲田アカデミー(4718)、明光ネットワークジャパン(4668)、東京個別指導学院(4745)、京進(4735)、ステップ(9795)、成学社(2179)、ウィザス(9696)、スプリックス(7030)、学究社(9769)、城南進学研究社(4720)、市進ホールディングス(4645)、進学会ホールディングス(9760)、秀英予備校(4678)、クリップコーポレーション(4705)、昴(9778)、ナガセ(9733)が挙げられる。

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