ビルメンテナンス業界のM&Aと企業価値評価

ビルメンテナンス業界のM&Aと企業価値評価

近年、ビルメンテナンス業界のM&Aが増えている。ここでは、ビルメンテナンス業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、ビルメンテナンス業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみよう。

M&Aの多いビルメンテナンス業界

ビルメンテナンス業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&Aの買い手候補となる同業他社について説明する。

ビルメンテナンス業界の市場動向・経営環境

ビルメンテナンス業は、ビルの清掃、保守、機器運転などを請負う事業者のことをいう。

厚生労働省「労災保険収支状況」によれば、ビルメンテナンス市場の規模について、1991年は2.3兆円であったが、2016年は3.9兆円まで増加している。今後も首都圏を中心に大型ビルの新築が増えることから、ビルメンテナンス市場規模の拡大が予想される。

一方で、ビルメンテナンス業は、人材不足と賃金上昇が深刻な業界であることから、外国人の採用など、今後の規制緩和が期待される。

ビルメンテナンス業界のビジネスモデル

ビルメンテナンス業のビジネスモデルは、労働者を雇い入れ、受託した業務に従事させるというもので、人件費が総費用の8割を占める労働集約的な事業である。価格競争が激しく、コスト低減のために、パートやアルバイトといった非正規雇用がほとんどとなっており、55歳以上の高齢者や女性が多数を占めている。

いまだに3Kのイメージが強く、労働条件が厳しいことから、人材採用が難しい状況が続いている。清掃分野ではビルメンテナンス業界全体で9万人が不足すると言われることがある。

2次請け、3次請けと下請け業者に外注するケースも多いことから、自ら顧客獲得できる元請け業者として契約を受注することができなければ、収益性は極めて低くなってしまう。

ビルメンテナンス業界M&Aで買い手候補となる企業

ビルメンテナンス業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような上場企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。

イオンディライト、日本ハウズイング、日本管財、ビケンテクノ、大成、RSC、である。また、非上場企業として、太平ビルサービス、大京アステージ、東京美装興業、大成有楽不動産、大星ビル管理がある。

ビルメンテナンス業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aでビルメンテナンス業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、得意先である不動産オーナーは、ビル管理業務を継続して発注することができる。

また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、ビルメンテナンス業の経営効率化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、事業規模の拡大による生産性向上、一括採用による人材採用コストの低減、広告宣伝費や本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

ビルメンテナンス業界M&Aで買収する買い手の注意点

ビルメンテナンス業界で買収を行う際、デュー・ディリジェンスにて調査すべき経営資源や注意点を説明する。

ビルメンテナンス業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

ビルメンテナンス業は、価格競争が厳しく、収益性が低いという特徴がある。特に官公庁が顧客の場合、1年単位で競争入札が行われますので、価格競争が永遠に終わらない。顧客との受託契約がどれだけ継続するかが事業価値評価に多く影響するので、顧客関係を精査する必要があるだろう。

また、慢性的に人材不足にあるので、雇用する従業員が継続して勤務を続けることができるかどうか、労働環境や雇用条件を精査する必要があるだろう。

ビルメンテナンス業の買収で承継すべき経営資源

人材が基本となる経営資源です。十分な人材を継続雇用することができ、必要な資格を取得させているか確かめることが必要である。建物、設備に係る資格として、建築物環境衛生管理技術者、ビル設備管理技能士などが求められている。

また、不動産オーナーとの受託契約が収益源となる経営資源であるため、大手不動産会社の系列であれば、受託契約を継続させることが不可欠である。

無形資源は、事業承継によって喪失されることが多いため、ビルメンテナンス業のM&Aを行う場合は、顧客関係の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要だろう。

ビルメンテナンス業を買収するときの企業価値評価(株価算定)

ビルメンテナンス業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる財務数値は、以下の通りとなっている。

ビルメンテナンス業の評価で使う資本コストとマルチプル

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、ビルメンテナンス業の収益性について、売上高成長率は約3.5%である。また、粗利率は37.9%、営業利益率は2.4%となっている。生産性について、1人当たり売上高は417万円、1人当たり人件費は253万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、ビルメンテナンス業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は1.0~2.0倍、PER倍率は10~20倍、EBITDA/企業価値倍率は5~6倍となっている。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば5%、急成長の新興企業であれば10%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが5~10%であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.4~0.9であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

ビルメンテナンス業の類似上場企業比較法で採用すべき企業の例

類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、イオンディライト(9787)、日本ハウズイング(4781)、日本管財(9728)、ビケンテクノ(9791)、ストライダーズ(9816)、大成(4649)、アール・エス・シー(4664)が挙げられる。

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