空調機器製造業界のM&Aにおける企業価値評価とデュー・ディリジェンス

空調機器製造業界のM&Aにおける企業価値評価とデュー・ディリジェンス

近年、空調機器製造業界のM&Aが増えている。ここでは、空調機器製造業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、空調機器製造業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみよう。

M&Aを考える空調機器製造業界の概要

空調機器製造業界の市場環境

空調機器製造業は、空間の空気の温度・湿度・流量・清浄度を調整するための機器または設備、例えば、家庭用エアコン、除湿機、家庭用ヒートポンプ給湯器、ヒートポンプ式温水床暖房期、空気調和機、業務用エアコン、業務用ヒートポンプ給湯器、空調設備機器、カーエアコン、冷凍機器を製造販売する事業者のことをいう。大手電機メーカーが主として空調機器を製造し、中小企業が冷凍機器(空気調和機)を製造している。

国内のルームエアコンの普及率は9割を超え、成熟産業となっている。今後は中国や東南アジアにおける需要増加に対応することが必要だろう。

日本冷凍空調工業会「空調機器分類別の国内出荷台数の推移」によると、空調機器の国内出荷台数は、2011年の1,066万台から2017年の1,116万台へ増加している。

日本冷凍空調工業会「地域別世界のエアコン需要の推定(平成30年)」によると、日本のエアコン需要は2017年で1,000万台をわずかに下回る水準でほとんど増加していないが、中国のエアコン需要は2016年の4,000万台から2016年の4,600万台へと急増している。中国が世界最大の需要国である。

空調機器製造業界のビジネスモデル

空調機器製造業のビジネスモデルは、自社工場で製造した製品を販売するというものである。家庭用小型機器は、メーカー系販社経由で小売店へ販売されるケースと、量販店へ販売されるケースがある。また、大規模業務用機器、産業用機器は、大手建設会社やエンジニアリング会社を通じて大手設備工事会社へ販売される。

成熟市場ではあるが、ヒートポンプ技術、高い空気洗浄技術、省エネ対策、脱フロン対策に対応できる技術開発力が求められる。また、国内が空洞化しているため、東南アジア諸国における現地生産体制の強化も求められる。

空調機器製造業界M&Aで買い手候補となる企業

空調機器製造業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような上場企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。

コロナ、長府製作所、川重冷熱工業、ダイニチ工業、協立エアテック、昭和鉄工、新晃工業、荏原冷熱システムである。業界最大手のダイキン工業は、中小企業の買収を行わないと考えられる。

一方で、大企業のノンコア事業だと想定されるのが、日立ジョンソンコントロールズ空調、東芝キヤリア、富士通ゼネラルである。

空調機器製造業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで空調機器製造業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、得意先である販売店や建設業者は、高品質の空調設備を継続して購入することもできることに加え、部品の仕入先との関係を継続することができる。

また、小規模事業者が単独では難しかったロボット、AIやIoT投資によって、工場の自動化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、生産規模の拡大による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

空調機器製造業界M&Aで買収する買い手の注意点

空調機器製造業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

空調機器製造業は、成熟産業の中の老舗企業であり、固定資産が陳腐化している可能性が高いことが問題となる。工場の生産設備の実査を行い、大規模修繕や買換えの必要性がないか確かめる必要がある。

空調機器製造業の事業性を評価する場合の注意点として、国内市場の成長を想定しないことである。国内市場は縮小することが見込まれているため、東南アジアへの輸出を増加させることができるかどうかが重要である。

空調機器製造業の買収で承継すべき経営資源

製品企画力、技術開発力と製造工程の生産技術が基本となる経営資源である。また、工場の機械設備などの有形固定資産も重要な経営資源となる。

技術・ノウハウなどの無形資産は、事業承継によって喪失されることが多いため、空調機器製造業のM&Aを行う場合は、特許権などの知的財産権はもちろん、技術・ノウハウに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要だろう。

空調機器製造業のM&Aで買収するときの企業価値評価(株価算定)

空調機器製造業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっている。

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、空調機器製造業の収益性について、売上高成長率は約▲0.7%である。また、粗利率は13.5%、営業利益率は3.5%となっている。生産性について、1人当たり売上高は2,798万円、1人当たり人件費は463万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、空調機器製造業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.5~1.8倍、PER倍率は10~25倍、EBITDA/企業価値倍率は5~15倍となっている。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば6%、急成長の新興企業であれば9%が妥当であると考えます。これは、この類似上場企業のROICが8%前後であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.5~0.8であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、コロナ(5909)、長府製作所(5946)、川重冷熱工業(6414)、ダイニチ工業(5951)、協立エアテック(5997)、昭和鉄工(5953)、新晃工業(6458)、木村工機(6231)が挙げられる。

なお、ダイキン工業(6367)は他社を圧倒する高い評価となっているため、中小企業の価値評価における比較対象から除外すべきだろう。

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