空調・給排水設備工事業界のM&Aにおける企業価値評価とデュー・ディリジェンス

空調・給排水設備工事業界のM&Aにおける企業価値評価とデュー・ディリジェンス

近年、空調・給排水設備工事業界のM&Aが増えている。ここでは、空調・給排水設備工事業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、空調・給排水設備工事業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみよう。

M&Aを考える空調・給排水設備工事業界の概要

空調・給排水設備工事業界の市場環境

空調設備工事業は、建築物(建物や工場)の空気を調和させるために、冷暖房設備、温湿度調整装置、換気装置、空気調節装置、冷凍冷蔵装置などの設備工事を施工する事業者のことをいう。

一方、給排水設備工事業は、建築物(建物や工場)の給水施設、排水施設、水洗便所、厨房施設、汚水や汚物処理施設など設備工事の施工を行う事業者のことをいう。

建設工事の請負金額に占める給排水設備工事の割合は約6%と言われており、電気工事に次ぐ金額である。近年、省資源や省エネルギーに配慮した建物、増改築やリフォームの需要が増加しているため、空調・給排水設備工事の売上は上昇傾向にある。

国土交通省「平成30年度建設投資見通し」によれば、国内の建設投資額は、2015年度は50兆円であったが、2018年度は57兆円まで増加した。

高度成長期に整備された各種インフラ配管が敷設後50年を超えてきており、それらの更新ニーズが高まってきていることから、空調・給排水設備工事の今後の需要は安定的に推移することが見込まれる。

空調・給排水設備工事業界のビジネスモデル

空調・給排水設備工事業のビジネスモデルは、地域に密着し、大手ゼネコンの下請工事の施工を行うものである。中小企業の多くは、2次請負(サブコン)からの3次下請けや、木造やプレハブの戸建住宅の空調・給排水設備工事や市町村の小型工事の施工を行っている。

冷暖房設備については、引き渡し後のアフターサービス、設備の品質保証や事故トラブル発生時の緊急対応なども業務となる。

環境対応の設備、居住継続したままの増改築やリフォーム工事を提供するため、高度な施工技術の導入や他の専門業者との連携が求められる。また、職人が高齢化しているため、若年技術者の採用と教育、技術資格の取得支援が求められる。

今後は、節水や水の循環利用などSDGsへの貢献する技術を開発し、他社と差別化することが求められるだろう。

空調・給排水設備工事業界M&Aで買い手候補となる企業

空調・給排水設備工事業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。

例えば、川崎設備工業、朝日工業社、荏原製作所、三機、三建設備工業、三晃空調、新日本空調、新菱冷熱工業、須賀工業、大気社、大成温調、高砂熱学工業、テクノ菱和、日比谷総合設備、日本空調サービス、協和日成、ヤマト、ダイダン、サニックス、ニットー、暁飯島工業である。

空調・給排水設備工事業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで空調・給排水設備工事業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、得意先であるゼネコンは、下請け工事業者に継続して発注できることもできることに加え、3次下請け業者との関係を継続することができる。

また、小規模事業者が単独では難しかった新技術の開発よって、空調・給排水設備工事業の高度化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、工事規模の拡大による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

空調・給排水設備工事業界M&Aで買収する買い手の注意点

空調・給排水設備工事業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

空調・給排水設備工事業は、職人の技術力が競争力を決めることから、職人の能力を評価しなければいけない。また、車両や機械、CAD等を使用するためのOA機器等の固定資産が陳腐化していないかどうか、実査して確かめることが必要である。さらに、工事進行基準で売上を計上している場合、未収入金や未成工事支出金が滞留していないか、回収可能性に問題がないか、確かめなければいけない。リベート支払いが横行する業界であることから、仮払金など不透明な債権について、回収可能性を確かめることが不可欠である。

事業性評価に関して、空調・給排水設備工事業者はゼネコンの下請けという弱い立場にあって採算性管理が難しいことから、赤字の工事を受注していないか、適切な利益を確保できているかどうかを調べることが必要だろう

空調・給排水設備工事業の買収で承継すべき経営資源

許可が必要であるため、管工事の許可、建設業許可は必ず承継すべき経営資源である。

また、技術を持った職人が基本となる経営資源である。一般建設業許可だけでなく特定建設業許可を取得するためには、技術士資格保有者を雇用しなければいけない。

それ以外の技術資格として、管工事施工管理技士、給水装置工事主任技術者、排水装置工事主任技術者、配管技能士、浄水槽設備士、貯水槽清掃作業監督者、建築設備検査資格者などが有用でるため、これらの資格を持つ職人を継続雇用することが求められる。

職人の技術など無形資産は、事業承継によって喪失されることが多いため、空調・給排水設備工事業のM&Aを行う場合は、職人の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要だろう。

空調・給排水設備工事業のM&Aで買収するときの企業価値評価(株価算定)

空調・給排水設備工事業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっている。

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、空調・給排水設備工事業の収益性について、売上高成長率は約2.1%である。また、粗利率は25.9%、営業利益率は3.6%となっている。生産性について、1人当たり売上高は1,957万円、1人当たり人件費は504万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、空調・給排水設備工事業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.6~1.1倍、PER倍率は10~15倍、EBITDA/企業価値倍率は5~10倍となっている。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば5%、急成長の新興企業であれば10%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが8%前後であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.4~0.9であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、川崎設備工業(1777)、新日本空調(1952)、朝日工業社(1975)、大気社(1979)、大成温調(1904)、高砂熱学工業(1969)、テクノ菱和(1965)、日比谷総合設備(1985)、日本空調サービス(4658)、協和日成(1981)、ヤマト(1967)、曙飯島工業(1997)が挙げられる。

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