遠い親戚や第三者が、会社にとって好ましくない株主となった場合、その株式を買取ってしまいたいと思うかもしれません。今回はその方法を説明いたしましょう。
後継者の経営権を確保するには
親族内承継を前提として、社長に就任する子供の気持ちを考えてみましょう。後継者になる覚悟を決めた子供にとっての関心事は、経営権の確保です。突然社長を解任されてしまうと困るからです。
経営権を確保するためには、議決権株式の大部分を取得しなければいけません。しかし、親から子供への株式承継は簡単な話ではありません。相続という問題に関係するからです。
親から自社株式を相続することになれば、他の兄弟との争いがあるかもしれませんし、親戚との争いがあるかもしれません。特別受益があるため、贈与されても同様です。
相続において、仮に子供たちが平等な遺産分割を行うと、後継者ではない子供にも自社株式が均等に渡されてしまうことになり、経営権が分散します。これに対して、不平等な遺産分割を行うと、遺留分を侵害するなど、相続争いが発生します。自社株式の相続は難しい問題です。
会社法の観点からは、自社株式は、後継者に集中させることが望ましいと言われています。その集中度合いの目安は、株主総会の普通決議を支配するための「過半数」ということになるでしょう。そうすると相続財産の大半が後継者に偏ることになります。
もし親が自社株式以外の財産、たとえば不動産や金融資産をたくさん所有していたのであれば、バランスよく遺産分割することができるでしょう。後継者である子供に自社株式に取得させる一方で、後継者ではない子供に不動産や金融資産を取得させるのであれば、平等な遺産分割が実現するからです。
しかし、現実に多いのは、親の相続財産のほとんどが自社株式で、自宅は賃貸しており、金融資産はほとんど持っていないというケースです。このような状態では、自社株式を巡って相続争いが発生してしまいます。
死ぬまで株式を手放さないと相続でトラブルが
現経営者が「自分では決められない、子供たちが話し合って決めてほしい」と考え、遺言を書かないケースが多く見られます。しかし、相続が発生した場合、大きな問題が生じ、危険な相続争いに発展することになるでしょう。
例えば、自社株式300株を所有したまま他界し、子供3人に相続する場合、その自社株式は相続財産に含まれ、遺産分割協議の対象となります。
この点、子供たちへ100株ずつ自動的に分割されるのであれば話は簡単でしょう。しかし、民法上はそうではなく、自社株式を仲良く1株ずつ共有することになります。遺産分割が確定するまで、自社株式の1株1株がすべて共有状態に陥ってしまうのです。これでは相続人である子供たちの協議が整わなければ、1株の議決権も行使することができなくなってしまいます。
遠い親戚へ株式が分散することも回避したい
会社の創業期には資本や株主を集めるために、従兄弟など傍系親族、友人や得意先などに自社株式を分散しがちです。後継者が、株主名簿に叔父さんの名前が入っているのを見て、悩んでしまうケースがあります。
自社株式を人間関係の遠い株主へ分散させている場合、その自社株式の相続が問題となります。後継者との人間関係が希薄であるため、自社株式を、会社にとって好ましくない第三者に譲渡しまう可能性があるからです。経営に関与していない以上、持っていても意味がないからです。最悪のケースでは、株主総会招集請求権を濫用的に行使されるなど、会社とその第三者が敵対的な関係になり、企業経営に悪影響が生じてしまいます。
このような問題を避けるためには、発行済議決権株式の全部を譲渡制限株式としておくことが不可欠です。株式譲渡制限株式の譲渡について取締役会又は株主総会の承認が必要となり、第三者への分散を防止することができるからです。
しかし、譲渡ではなく、自社株式が相続される場合には、会社による譲渡承認を受ける必要はありません。それゆえ、相続されるケースを想定した別の手段が必要となります。
株式の売渡請求権を悪用された「相続クーデター」
相続による自社株式の分散を防ごうとするならば、相続人に対する売渡請求を行うことができる定款規定を設けておくことが必要です。これによって、会社に好ましくない人が自社株式を相続した場合、会社が売渡請求することで、自社株式を買い取ってしまうのです。
会社から見れば、自己株式の取得となり、特定の株主から取得するための決議することになるため、株主総会の特別決議(議決権の過半数の株主の出席かつ出席株主の議決権3分の2以上の賛成)が必要です。
この点、通常のケースでは、株主総会決議の際、他の株主は、自分を売主に追加するよう会社に請求することができるため、問題となります。
しかし、定款に基づく売渡請求に基づく自己株式の取得の場合、他の株主から売主への追加を請求できないこととされています。
ただし、この制度には、危険なケースがあります。それは、会社にとって好ましくない人に相続が発生することよりも先に現経営者に相続が発生するケースです。
現経営者に相続が発生した場合に、株式を取得すべき後継者が相続人となります。ここが危ないのです。そのタイミングで、定款規定に基づいて会社が後継者に対して売渡請求権を行使されてしまう危険性があるからです。これによって、大量の自己株式が取得されてしまうと、最悪の場合、会社にとって好ましくない株主が筆頭株主になってしまうこともあるでしょう。これを「相続クーデター」といいます。
会社にとって好ましくない株主が株主総会招集請求権を持っている場合には、要注意でしょう。
分散した株式は早めに買い取りたい
相続発生後における自社株式の買取りは、遺産分割のバランスを図るために有効な手段となります。加えて、譲渡所得の特例が適用されて税負担を軽減できるという特典が付されています。
しかし、相続発生後の自社株式の買取りは、相続争いを招くケースが多く見られます。それゆえ、可能であれば、現経営者の生前に自社株式を買い取っておきたいものです。
方法の一つは、後継者が自ら買い取っておくことです。他の株主が譲渡価額に合意し、買取り資金を準備することができるならば、後継者は、株式の買取りを進めておくべきです。これが最もシンプルな方法でしょう。
後継者が買取るのではなく、現経営者が自ら買い取っても構いませんし、会社が買い取っても構いません。いずれにせよ、後継者との関係性が薄い株主から自社株式を買い取っておくことで、後継者に将来の揉め事を残さないようにしておくことが重要です。