貴金属・アクセサリー小売業界のM&Aにおける企業価値評価とデュー・ディリジェンス

貴金属・アクセサリー小売業界のM&Aにおける企業価値評価とデュー・ディリジェンス

近年、貴金属・アクセサリー小売業界のM&Aが増えている。ここでは、貴金属・アクセサリー小売業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、貴金属・アクセサリー小売業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみよう。

M&Aを考える 貴金属・アクセサリー小売業界の概要

貴金属・アクセサリー小売業界の市場環境

貴金属・アクセサリー小売業は、主として金・銀加工製品および宝石類(ジュエリー)、イヤリング・ピアス・指輪などの装身具を小売りする事業者のことをいう。

近年、商品の売れ筋は二極化している。低価格帯のアクセサリーはインターネット通販が伸びているものの低価格化が進んでいる。

これに対して、高価格帯のジュエリーは、ブランド品などの高額商品の販売も好調である。特に、2012年以降の富裕層の需要、インバウンド消費拡大によって、貴金属の売上が急増した。しかし、若年層の節約志向によるジュエリー離れが進んできているため、今後の需要は減少が予想される。

その一方で、宝飾品の中古品売買やリフォーム市場が拡大してきている。ここでは日本リ・ジュエリー協議会が発足し、「ジュエリー鑑定士資格制度」など、独自に人材教育の場が設けられている。

総務省「家計調査年報」の一世帯当たりの装身具の年間支出額を見ますと、1,995年は10,923円でしたが、2017年は4,218円まで減少している。

 

また、総務省・経済産業省の「平成28年経済センサス」によれば、全国のジュエリー製品小売業の年間売上高合計は、1994年は約1兆3,700億円でしたが、2016年は約5,600億円へ減少している。全体として、市場は減少傾向にあると言えるだろう。

貴金属・アクセサリー小売業界のビジネスモデル

貴金属はファッション流行にあまり左右されず、定番商品が継続的に売れる商品であるが、アクセサリーは、取り扱う商品の幅が広く、アイテム数がとても多い商品である。

海外市場の商社から国内商社を通じて素材(貴金属)が国内に入ってくる。その素材(貴金属)を加工するメーカーから卸売業者を通じて小売店が仕入れを行い、小売店はそれらを一般消費者へ販売する。

貴金属・アクセサリー小売業界M&Aで買い手候補となる主たる上場企業

貴金属・アクセサリー小売業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような上場企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。

東京貴宝、NEW ART HOLDINGS、クロスフォー、光・彩(7878)、4℃ホールディングス、ハピネス・アンド・ディ、桑山である。

貴金属・アクセサリー小売業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで貴金属・アクセサリー小売業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、得意先である一般消費者は、お気に入りのデザインや品揃えのジュエリーやアクセサリーを継続して購入することもできることに加え、メーカーや卸売業者などの仕入先との関係を継続することができる。

また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、貴金属・アクセサリー小売業の経営効率化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、店舗チェーン規模の拡大による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

貴金属・アクセサリー小売業界M&Aで買収する買い手の注意点

貴金属・アクセサリー小売業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

アクセサリー小売業が取り扱う商品は、多品種少量であるため、在庫管理がとても重要である。流行の変化や季節性があり、売れ残りリスクが高く、在庫管理は難しいものである。陳腐化した在庫がないか、実地棚卸を行って確かめることが不可欠だろう。ダイヤモンドについては、合成ダイヤモンドの混入事件が発生しているので、貴金属の鑑定も重要である。

貴金属・アクセサリー小売業の事業性を評価する場合の注意点として、第一に、他店との差別化や競争のために魅力的な商品を仕入れることができるルートの確保がある。商品構成や企画をメーカーや卸売業者に丸投げせず、魅力的な商品を自ら選定し、新しい仕入先を常に開拓し続けなければいけない。

第二に、販売員の接客技術とその教育がある。販売員は接客技術と素材に係る商品知識を高めなければいけない。また、店舗を管理する店長には商品の仕入れから販売まで大幅に権限委譲するため、店長人材を育成するための教育制度も不可欠である。

貴金属・アクセサリー小売業の買収で承継すべき経営資源

接客力・販売力の高い人材が基本となる経営資源である。また、在庫や店舗の立地、商品の仕入先と品揃えなどの無形資産も重要な経営資源となる。在庫は貴金属など効果なものが多いため、価値ある資産として確実に承継されなければいけない。

人材は、事業承継によって退職が発生し、流出を招くことが多いため、貴金属・アクセサリー小売業のM&Aを行う場合は、幹部人材だけでなく従業員全員の継続雇用のための取り組みに時間と労力をかけるなど、人材の承継を丁寧に行うことが重要だろう。

貴金属・アクセサリー小売業M&Aで買収するときの企業価値評価(株価算定)

貴金属・アクセサリー小売業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっている。

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、ジュエリー製品小売業の収益性について、売上高成長率は約▲4.1%である。また、粗利率は49%、営業利益率は1.0%となっている。生産性について、1人当たり売上高は1,575万円、1人当たり人件費は356万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、貴金属・アクセサリー小売業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は1.0~2.0倍、PER倍率は20~30倍、EBITDA/企業価値倍率は10~20倍となっている。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば5%、急成長の新興企業であれば9%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが4%前後であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.5~1.0であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、東京貴宝(7597)、NEW ART HOLDINGS(7638)、クロスフォー(7810)、光・彩(7878)、4℃ホールディングス(8008)、ハピネス・アンド・ディ(3174)、桑山(7889)が挙げられる。

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