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資金調達を正しく理解する:負債・資本・現金化それぞれのメリットとデメリット

資金調達方法の選び方で事業の未来が変わる
起業や事業拡大に際して避けて通れないのが資金調達である。多くの経営者にとって、どの資金調達手段を選ぶべきかという問題は、経営戦略そのものに直結する重要な意思決定である。
資金調達には大きく分けて、負債(借入)、資本(出資)、そして資産の現金化の3つの方法がある。それぞれに明確なメリットとデメリットが存在し、経営者の目的や置かれた状況によって適した手段は異なる。事業の成長段階や業種、取引先との関係、財務体質などを総合的に勘案したうえで選択することが肝要である。
本稿では、それぞれの資金調達手法の特徴を踏まえたうえで、具体的なメリット・デメリットを解説する。これから小さな飲食店を始めようとする人、副業でECショップを開業しようとする人、定年後に法人設立を検討している人など、多様な個人事業主・中小企業経営者にとって有益な知見となるだろう。
負債のメリット・デメリット
借入による資金調達は、最もポピュラーな手段の一つである。日本政策金融公庫や民間金融機関による融資制度が整っており、比較的利用しやすい環境が整っている。
メリット
まず第一に挙げられるのは「迅速な資金調達」である。金融機関との条件が整えば、急な資金ニーズにも短期間で対応できる。このスピード感は、例えばオープン直前の飲食店が急きょ設備投資資金を必要とした場合などに非常に有効である。
また、「レバレッジ効果」も見逃せない。自己資本では手が届かない大きな事業に対して、借入を活用することでより大きな利益を狙うことが可能となる。これは、ECショップの事業規模を急拡大したい副業経営者にも有効な戦略だ。
加えて、「支払利息の損金算入」による節税効果も重要である。法人税法上、利息は損金として認められるため、課税所得を圧縮し、手元資金を確保する手助けとなる。
さらに、借入による調達では「経営権を維持」できる点も見逃せない。出資と異なり株主の意向を気にする必要がなく、経営の自由度が保たれる。
デメリット
一方で、借入には「返済義務と利息負担」という明確なコストが伴う。長期的には財務負担となり、特に売上が安定しない時期にはキャッシュフローを圧迫する。
「倒産リスクの増加」も無視できない。返済不能に陥れば債務超過に陥り、追加融資が受けられないばかりか、倒産に直結する危険もある。
また、借入が膨らむと「財務健全性が低下」し、取引先や投資家からの信用が損なわれる可能性もある。
そして、「心理的プレッシャー」は経営者にとって大きな負担となる。返済を念頭に置いた意思決定は、短期的視点に偏るリスクも孕む。
最後に、「経営感覚の狂い」も起こり得る。資金繰りが一時的に楽になることで緊張感が緩み、不必要な投資を招いてしまうことがある。
資本のメリット・デメリット
資本による資金調達、すなわち出資は、返済の必要がない点で大きな魅力を持つ。ベンチャー企業や中長期的な成長を目指すスタートアップでは頻繁に活用される手法である。
メリット
最大の特徴は「返済義務がない」ことである。自己資本の調達であるため、元本の返還や利息の支払いは不要であり、資金繰りの負担が軽減される。
さらに、「資金の用途に制限がない」こともメリットだ。銀行融資のような使途制限がなく、たとえば設備投資、人材採用、広告宣伝など、柔軟な使い方が可能である。
また、「財務体質の強化」にもつながる。出資を受けることで自己資本比率が上がり、財務の安定性が向上する。これは定年後に立ち上げた法人が対外的な信用を得るうえで大きなプラスとなる。
「株主層の拡大」や「株式の流動性向上」も、特に上場を目指す企業にとっては魅力的な効果である。
デメリット
しかし、資本調達には「経営への介入リスク」がある。出資者は株主として議決権を持ち、経営に意見を述べることができる。これが過度になると、創業者の意思が通らなくなる恐れもある。
また、「株主へのリターン負担」が継続的に発生する。配当や株主優待など、株主に対するリターンが求められ、経営資源を圧迫する。
「株式の希薄化」も注意が必要だ。新株を発行することで既存株主の持株比率が下がり、影響力の低下や不満を招くことがある。
さらに、「株主総会運営コスト」や「投資家からの成長圧力」も経営者にとっては見過ごせない課題である。特にVC(ベンチャーキャピタル)からの出資を受けた場合は、早期のEXITが求められ、経営に大きなプレッシャーがかかることがある。
資産現金化のメリット・デメリット
近年、資産の現金化という手段も注目されている。代表的なものが「ファクタリング」や「手形割引」である。これは、売掛債権や手形を第三者に譲渡することで資金化する方法であり、負債や出資と異なる性質を持つ。
メリット
まず「迅速な資金調達」が可能である点が最大の利点である。ファクタリングでは即日での資金化も可能であり、緊急時の資金需要に対応できる。特に、融資に頼れない赤字企業でも利用できる可能性がある点は特筆に値する。
「財務状況に左右されない」点も大きな特徴である。自社の業績が悪くても、売掛先の信用力があれば調達可能であるため、スタートアップや経営改善中の企業にとっては有力な選択肢となる。
さらに、「貸借対照表に影響を与えない」ため、負債比率の上昇や信用格付けの悪化を回避できる。
「売掛先の倒産リスク軽減」も重要なポイントだ。ファクタリング後に取引先が倒産しても、リスクはファクタリング会社が負うため、資金繰りに対する安心感が高まる。
手形割引についても、「早期現金化」「審査通過の容易さ」「低コスト」といった点で中小企業にとって魅力的な手法となる。
デメリット
一方で、「コスト面の課題」は避けて通れない。ファクタリング手数料は融資に比べて高く、2社間では8~18%、3社間でも2~9%の手数料が発生する。
「調達額の制限」もネックであり、売掛金額や手形額の範囲内でしか現金化できない。
また、3社間ファクタリングでは「取引先への通知」が必要となるため、取引先に経営状況を疑われるリスクがある。
手形割引では「償還請求リスク」があり、不渡りが発生すれば買戻しを求められる。さらに「分割の難しさ」や「現金化までの時間」といった実務上の制約も存在する。
事業フェーズに応じた最適な資金調達手段を選ぼう
資金調達は経営の生命線であり、どの手段を選ぶかによって企業の将来が大きく左右される。借入による迅速な調達、出資による財務体質強化、資産現金化による柔軟な対応。それぞれに明確な強みとリスクがある。
たとえば、定年後に法人を立ち上げた経営者であれば、経営権の維持を重視して借入を選ぶことが合理的である。一方、副業としてECショップを展開する個人事業主であれば、迅速性と審査通過率から現金化手段の活用が効果的である。さらに、小さな飲食店を準備している人であれば、自己資本を厚くして対外信用を得るために資本調達を検討すべきだろう。
重要なのは、自社の状況や目的に合った資金調達手法を選び、それぞれのメリットを最大化し、デメリットを適切に管理することである。戦略的な資金調達は、持続可能な成長の礎となる。