ステージ別に見る資金調達の実践的手法~創業期・成長期・成熟期、それぞれの資金戦略とは

起業家や個人事業主にとって、資金調達は常に重要なテーマである。どれほど魅力的なビジネスモデルを描いていても、資金が不足すれば事業の継続や拡大は困難となる。しかし、資金調達の方法は、事業のフェーズによって大きく異なる。この記事では、創業期・成長期・成熟期という三つのステージに分け、それぞれに適した資金調達のアプローチを解説するとともに、「定年後に小規模法人を立ち上げる」「副業でECショップを始める」「小さな飲食店を出す準備をしている」という三つの実例を交えて考察する。

目次

創業期における資金調達の考え方

創業期は、ビジネスの種をまき始めたばかりの段階である。このフェーズでは、売上が安定しておらず、事業計画も試行錯誤の段階にある。そのため、外部からの資金調達は難しく、自己資金や家族・知人からの借り入れに頼るケースが多い。

自己資金の役割と重要性

金融機関の審査において、自己資金の有無は非常に重要である。創業融資を受ける際には、自己資金比率が一定以上であることが求められることも多く、これは「起業に対する覚悟の表れ」として評価される。

たとえば、定年後に小規模法人を設立し、長年の経験を活かしたコンサルティング業を始めた男性は、退職金の一部を活用して創業資金に充てた。創業計画書を丁寧に作成し、日本政策金融公庫からの融資を受けることにも成功した。退職金というまとまった資金を活かすことで、無理のないスタートアップが可能となったのである。

創業支援制度の活用

自治体や商工会議所などが提供する創業支援制度も有効である。たとえば、創業支援事業計画に基づいた認定支援機関のサポートを受けることで、信用保証協会の保証枠が拡大されたり、利率の優遇を受けられたりする制度もある。

成長期における資金調達の要諦

事業が軌道に乗り、顧客が定着し始めると、次に求められるのは拡大投資である。商品ラインの拡充、店舗の増設、スタッフの雇用など、運転資金に加えた設備資金が必要となる。このフェーズでは、売上や利益といった定量的な実績が求められ、それに基づいた信用力の向上が融資のカギを握る。

銀行との関係構築

地域金融機関との関係づくりが重要となる。特に、定期的に試算表を提出し、財務状況を共有することで、金融機関との信頼関係が築かれ、より柔軟な資金調達が可能になる。これは短期資金の調達だけでなく、将来的な長期融資の布石にもなる。

副業としてECショップを始めた女性は、当初は自宅の一角を倉庫兼作業場として利用していた。しかし、ネット販売が好調となり、在庫量の増加とともに倉庫を借りる必要に迫られた。そこで、地域の信用金庫と相談を重ね、半年分の売上推移とマーケティング施策を根拠に、事業性評価融資を実現した。副業とはいえ、事業としての継続性と成長性を見せられたことがポイントであった。

補助金・助成金の活用

成長期では、設備投資に対して各種補助金・助成金を利用することで、自己負担を軽減できる。たとえば「ものづくり補助金」や「小規模事業者持続化補助金」は、設備購入や販売促進のための費用を一部支援してくれる制度である。申請書類の整備と実現可能な事業計画の策定が求められるため、認定支援機関と連携することが成功のカギとなる。

成熟期における資金調達と再投資

事業が安定し、利益も出るようになると、次に問われるのは中長期的な経営戦略である。安定期にある企業は、内部留保を活かしながらも、より効率的な投資や資金活用を図る必要がある。たとえば、新たな販路の開拓、後継者への承継準備、店舗のリニューアルなどがその例である。

財務管理と資金繰りの高度化

成熟期の事業者には、財務体質の強化と資金の見える化が求められる。月次でキャッシュフロー計算書を作成し、資金繰りの見通しを正確に把握することが経営判断の精度を高める。銀行からの資金調達も、金利や返済期間といった条件の見直し交渉が可能となり、資金の効率的な運用が可能になる。

小さな飲食店を開業した男性は、開店から3年目を迎える頃には常連客がつき、予約も取りづらい人気店に成長した。厨房設備の入れ替えと店舗のリニューアルを考えた彼は、直近3期分の決算書を持って銀行と交渉し、5年返済の設備資金を調達することに成功した。ポイントとなったのは、継続的な売上成長と、資金使途の明確さであった。

新規事業への投資と多角化

成熟期においては、既存事業で得た利益を活用し、新たな事業展開を模索することも重要である。例えば、既存のリソースを活用した新商品開発や、異業種への進出といった多角化戦略は、企業の持続可能性を高める。しかし、そのためには冷静な事業性評価とリスク管理体制が不可欠である。

資金調達のステージ別アプローチまとめ

創業期は自己資金と創業融資、成長期は売上実績に基づく信用力向上と補助金活用、成熟期は内部留保と長期的視点に立った資金運用といったように、資金調達の方法は段階ごとに変化する。共通して重要なのは、事業の実態をしっかりと把握し、適切に数値で説明できる能力である。

事業のフェーズに応じた戦略を描くことで、無理のない資金調達が可能となり、結果として持続可能な経営が実現する。どのステージにおいても、専門家や金融機関との信頼関係を築き、客観的な視点から事業を評価し続けることが求められる。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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