親族内での事業承継を成功させる方法

今回のテーマは親族内承継です。中小企業の事業承継に悩んでいる経営者の皆さまが、これからの一歩に自信と勇気を持って取り組んでいただけるよう、具体的なアドバイスを提案します。

目次

親族内承継の基本

事業承継の際、親族内での引き継ぎが困難な状況に直面することがあります。例えば、赤字が続く中で収益性改善が見込めない場合や、売上が減少し、その流れを止めることができない状況です。そんな時こそ、新しい取り組みや経営改革に挑戦するチャンスです。

まず、新商品やサービスの開発、経営管理体制の見直し、デジタル化による業務効率化などを検討して、既存事業を改善していきましょう。それでも効果が見込めない場合は、事業再構築の選択肢を検討しましょう。最後に、第三者承継の道を選ぶこともあります。

事業承継において、経営資源(人材、設備、資金、知的財産)を正確に把握することが大切です。特に、目に見えない無形の知的財産(顧客関係、営業力、技術・ノウハウなど)を継承できるかどうかが重要なポイントとなります。

また、後継者が先代経営者の経営管理体制や業績評価制度を引き継ぐことができるかどうかも問題です。経営環境が変化する中、新たな組織構造や成果主義の給与制度など、柔軟な変革が求められることがあります。

大口顧客や技術力の承継

B to Bビジネスを展開する会社は、先代経営者の個人的な人間関係を基盤に大口顧客との取引を行ってきたはずです。しかし、事業承継による社長交代に伴い、顧客との取引が終了するリスクが高まります。

この問題に対処するために、後継者は現経営者の引退前の数年間で顧客との人間関係を築くことが求められます。具体的には、後継者が現経営者と一緒に顧客訪問を行い、仕入れ担当者との間に信頼関係を構築することが大切です。これによって、事業承継後も顧客との取引が継続できるようになります。

また、中小企業では、工場の製造現場で活躍する職人の技術力が重要な役割を果たしてきましたはずです。しかし、高齢化により退職を迎える職人が増えています。これにより、製造ラインを担当できる人材が不足するおそれがあります。

職人の技術やノウハウは、製造業における競争力の基盤となる貴重な資源です。しかし、これらは人間の記憶に依存しており、引退とともに失われる可能性があります。そこで、次のような方法で技術やノウハウを次世代に伝承しましょう。

一つはマニュアル化です。職人の技術やノウハウを書面にまとめ、「見える化」することで、後継者が学びやすくなります。もう一つは、OJT(On-the-Job Training)です。若い世代の従業員に、現場で先輩職人から直接技術やノウハウを学んでもらい、知識を引き継ぎます。

製造業だけでなく、サービス業など他の業種でも、技術やノウハウの伝承が重要です。こうした取り組みを通じて、企業の競争力を維持・向上させることが可能です。

子どもが後継者になること

家族経営の企業では、後継者問題がよく見られます。これは、経営者が引退できない、子どもが後継者にならない、そして子どもが経営者になるための教育が必要となる状況を指します。

創業者や現経営者は、自分が死ぬまで仕事を続けたいと考えることが多く、引退後の人生について考えるのを嫌がります。しかし、そのまま放置すれば、突然の病気などで経営者が倒れた場合、事業が存続できなくなるリスクが高まります。

一方、経営者の子どもたちは、様々なキャリア選択肢があり、必ずしも家業を継ぐことが唯一の選択肢ではありません。また、子どもたちは経営者である親の背中を見て育ち、経営者になることが当然だと考える傾向があります。税制の面でも、親から株式を無償で承継できるため、資金負担がない有利な立場にあります。しかし、子どもにとって、本当にやりたい仕事であるかどうかが問題となります。

さらに、子どもが後継者に決まった場合でも、リーダーシップを発揮できないことが問題となります。経営者は、リーダーシップを発揮して経営課題を解決し、従業員を引きつける必要があります。特に、カリスマ性のある先代経営者がいた場合、新しい経営者がリーダーシップを発揮することは難しいです。新社長が信頼関係を築くためには、従業員との良好な人間関係が重要です。

親族内の資産承継

親族内での資産承継に関する問題は、子どもが親から株式や事業用資産を引き継ぐのが難しい状況を指します。これは、法人の株式や個人の不動産の贈与・相続に伴う贈与税や相続税の負担が重いこと原因です。

事業を会社で運営している場合、後継者が経営を安定させるためには、過半数の議決権を持つことが重要です。株主の権利と持株数には関連性があり、決議や権利行使の内容が異なります。過半数を持つことで取締役の選任の権限を持つこととなり、経営権が安定します。

また、後継者が現経営者の負債(銀行借入金、個人保証)を引き継ぐことに抵抗があることが問題です。その場合、銀行借入金を引き継がない方法や、個人保証を外す方法を検討する必要があります。

この問題は事業性評価と関連しています。事業性が良く、借入金の返済可能性が高い場合は、後継者が負債の引き継ぎを嫌がることは少ないでしょう。しかし、事業性に問題があり、借入金の返済が困難になる可能性がある場合、後継者は負債の引き継ぎを躊躇するでしょう。会社が倒産すると、個人財産も失うことになるためです。その場合、銀行借入金を引き継がない方法や、経営者保証ガイドラインなど、個人保証を外す方法を検討する必要があります。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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