ファミリーオフィスの3つのタイプと運営担当者の役割

ファミリーオフィスの3つのタイプと運営担当者の役割

ファミリーオフィスの機能と業務

ファミリーオフィスの主たる機能は、富裕層一族の資産を管理することです。大別して3つ、金融資産、不動産、事業のポートフォリオを管理することになります。

投資の助言

この機能を果たすために必要な業務ですが、一つは、金融資産や不動産への投資の関する助言を提供する一方で、金融機関を選定し、監視する業務があります。投資を金融機関に丸投げすれば、手数料や信託報酬の高い投資信託ばかり買わされる「いいカモ」となってしまうため、それを阻止することです。

事務管理と会計税務

また、資産の事務管理や経理(会計・税務申告)があります。法律や税務などの専門サービスに、個人で弁護士や税理士を雇っていると、コスト面で負担が重くなります。富裕層一族の資産は、個人が個別に管理するよりも、一族全体を包括的に管理するほうが、効果的かつ効率的なのです。

特に、税務については、資産税に係る高度な知識と経験が必要となるため、一般的な税理士では対応できない業務です。

資産承継の計画立案と実行

さらに、富裕層一族の個人の資産承継に係る計画立案する業務です。諸外国のファミリーオフィスでは、相続税がゼロまたは極めて軽い環境にあるため、相続税対策を実施されることがほとんどなく、死ぬまで金融資産で運用しているような富裕層がほとんどです。

しかし、相続税が諸外国と比べて重い日本では、相続税対策が極めて重要な意味を持ちます。金融資産と不動産では相続税の負担が大きく異なるため、これらの組み換えを行うなど、最適な資産承継スキームを計画しなければいけません。

ライフスタイル・サービス

そして、資産内容に沿ったライフスタイル・サービス(医療や教育)に係る助言を提供する一方で、これらを提供する外部業者を選定し、監視する業務があります。ジェット機やヨットなど贅沢品、宝飾品、高価なコレクションの取得を支援すること、子供を進学させるために最高の教育を提供すること、身辺警護などセキュリティを確保すること、最高のホテルと飲食店やスパの予約や交通手段の手配といったコンシェルジュ・サービスを提供することがあります。

特に、全世界をカバーするような緊急医療、重篤な疾病に対する最先端の医療技術を提供するサービスは、近年、極めて重要なものとなっています。

親族間の人間関係の調整

加えて、富裕層一族の中での争いを処理し、調整する業務があります。特に、事業へ投資している企業オーナーの場合、現経営者と後継者との「対話」を推進する役割を果たします。親子なら解決できても、従兄弟同士では解決困難な争いがあるため、調整役としての機能は重要です。

ファミリーオフィスの3つのタイプ

ファミリーオフィスは、シングル・ファミリーオフィス、マルチクライアント・ファミリーオフィスおよびコマーシャル・ファミリーオフィスの3種類に分類されます。

シングル・ファミリーオフィスとマルチクライアント・ファミリーオフィスは、富裕層一族が財産を拠出して法人を作り、独自に専門人材を雇って運営するものであるのに対して、コマーシャル・ファミリーオフィスは、専門人材を雇うことなく、外部業者のサービスを有償で利用するにとどまります。

資産規模が50億円までの富裕層は、プライベートバンクなどが提供するコマーシャル・ファミリーオフィスを利用しますが、50億円を超えると、専門人材を雇い入れて独自に運営するようになります。50億円からマルチクライアント・ファミリーオフィスを、100億円を超えると単独でシングル・ファミリーオフィスを運営しようとします。

資産規模 タイプ
10億円~50億円 コマーシャル・ファミリーオフィス
50億円~100億円 マルチクライアント・ファミリーオフィス
100億円~ シングル・ファミリーオフィス

(1)シングル・ファミリーオフィス

伝統的なファミリーオフィスは、超富裕層一族がその財産を管理するために設立した専属の機関であり、これがシングル・ファミリーオフィスです。このタイプは超富裕層の中でも頂点に位置するものです。独立した法人が、一族の全財産を法人が所有し、専門人材を雇い入れます。

富裕層の一族は、ほぼ例外なくその財産をしっかりと管理したいと考えます。そこで、ファミリーオフィスが、運用成果の記録、会計記録や決算・税務申告などの事務管理機能をまとめて遂行します。

また、外部からの商品・サービスの売り込みに対応するゲート・キーパー役の機能を果たします。

一方で、富裕層が資産をまとめて運用すると、他では得られない資産運用の機会を得ることができます。そこで、投資専門家を外部から雇い入れ、資産運用を行います。たとえば、ヘッジファンド投資、不動産投資、オルタナティブ投資などへの投資を行います。

富裕層一族の価値観を次世代に承継していくために、子供の教育を行うこと、慈善活動によって社会貢献することもあります。

そして、一族の資産を運用で増やすだけでなく、減らさないために節税対策を講じることも重要です。

シングル・ファミリーオフィスは、相続争いなど一族内部の争いごとや、複雑で込み入った資産管理の諸問題を、独自に解決することができる体制がとられています。

【シングル・ファミリーオフィスの機能】

1. 資産の管理・会計税務

2. 資産運用

3. 教育

4. 慈善活動

5. 節税手段の実行

(2)マルチクライアント・ファミリーオフィス

マルチクライアント・ファミリーオフィスが設立されるのは、既存のシングル・ファミリーオフィスに他の富裕層一族を合併することで、資産規模を拡大したい場合、当初から複数の富裕層一族が集まって、影響力の大きなファミリーオフィスを築こうと考える場合です。

ファミリーオフィスを安定的に運営するには、総資産の30%超を占める資産を持つ富裕層一族が中核となることが必要だと言われています。

ファミリーオフィスが果たす機能は、資産の管理・会計税務、資産運用、教育、慈善活動、節税手段の実行であり、シングル・ファミリーオフィスと概ね同じとなっています。複数の富裕層によって構成されるがゆえに、投資やビジネスの実務において、優秀な投資専門家を雇う、規模拡大によって通常では得られない投資機会を得る、相互に顧客紹介するなど、様々なチャンスを得て、人脈を築くことができる点が強みとなっています。

(3)コマーシャル・ファミリーオフィス

コマーシャル・ファミリーオフィスは、プライベートバンクや金融機関の営業担当者、会計事務所などが、資産運用や事務管理サービスを提供するものです。富裕層は、このサービスを外部業者として利用することになります。

これは、外部から提供されるサービスを利用するだけの話で、実態としての法人があるわけでないため、厳密に「ファミリーオフィス」とは言い難いタイプではあります。しかし、日本において大手金融機関が「ファミリーオフィス」であるかのように富裕層に提供するサービスは、すべてコマーシャル・ファミリーオフィスとなっています。

ファミリーオフィスの運営担当者の役割

ファミリーオフィスの責任者となる運営担当者が、この円滑な運営と成功の主たる要因となっています。

運営担当者に必要な能力は、経営管理能力です。また、コミュニケーション能力、コンサルティング能力、交渉能力も必要です。特に、富裕層一族と共に仕事をする上では、よく話を聞き、彼らの気持ちを理解し、説得する能力が求められます。感情の機微を捉え、巨額の富が与える影響を親身になって理解する人間力が求められます。

それらと併せて、専門知識が必要となります。事務管理や会計税務、節税スキーム構築に加えて、不動産投資や金融資産運用に関する知識も必要です。

この点、コマーシャル・ファミリーオフィスは外部からのアドバイザーとしての立ち位置となるため、運営担当者は自ら専門能力を提供するのではなく、各分野の専門家を監督することになります。これに対して、シングル・ファミリーオフィスでは、富裕層一族と直接に接する機会を多いことから、特定の問題に即座に対応することができるよう、運営担当者が自ら専門能力を提供しなければいけません。

【ファミリーオフィス運営担当者に必要な能力】

1. 事務管理や会計税務

2. コミュニケーション能力

3. 感情を理解する人間力

ファミリーオフィスは、優秀な投資担当者、法律や税務の専門家など、多様な専門人材に依存しています。これらの人材をファミリーオフィスが直接雇用することもありますが、一般的に、オフィスの外部専門家として業務委託したり、顧問契約を交わしたりすることが一般的です。

つまり、ファミリーオフィス内部の運営担当者が、複数の外部人材を集めてチームを編成し、業務を遂行することとなります。

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