繰越欠損金を有する会社をM&Aで買収した場合の効果

以前は、繰越欠損金のある会社をM&Aで買収して節税対策を行うという手法が盛んに行われていました。これは、繰越欠損金を有する企業をM&A買収し、その会社に黒字の事業を移すことで課税所得の圧縮を図ろうとする租税回避スキームでした。

しかし、現在はこのような目的のM&Aを実行することが難しくなっています。

以下に説明する規制により、この租税回避スキームがかなり制限されておりますので注意が必要です(法人税法第57条の2)。

目次

繰越欠損金が使用できなくなる要件

繰越欠損金の使用が制限されるのは、特定の株主によって50%超の株式を直接・間接に保有されている会社です。

繰越欠損金を有する法人(以下、「買収された会社」といいます。)において、特定支配関係(50%超の持株関係、以下、「買収」といいます。)が生じた後5年以内に、以下のいずれかに該当する場合は、該当事業年度以降において、それ以前に生じた欠損金を繰越すことができません。

1. 買収された会社が、買収以前において事業を営んでいない場合において、買収以後に事業を開始すること

つまり、休眠会社をM&Aで買収して新たに事業を開始させても、休眠会社の繰越欠損金は使えないということです。

2. 買収された会社が、買収の直前において営む事業のすべてを、買収後に廃止し(または廃止することが見込まれている場合)、旧事業の買収直前における事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入または出資を受け入れること

つまり、M&Aで買収された会社の事業を廃止させ、廃止した事業規模の5倍を超える多額の資金を注入した場合は、従来の事業で発生した繰越欠損金は使えないということです。

3. 買収するほうの会社が、欠損等法人に対する債権を取得している場合において、買収した会社が旧事業の買収以前における事業規模のおおむね5倍を超える資金借入等を行うこと

つまり、M&Aで買収された会社に対する債権を保有しつつ、事業規模の5倍を超える多額の資金を借り入れをさせる場合は、従来の事業で発生した繰越欠損金は使えないということです。

4. 上記1、2、3のいずれかに該当する場合において、買収された会社が自己を被合併法人(消滅会社)とする「適格合併」を行い、または買収された会社の残余財産が確定すること

つまり、合併によって消滅する場合もアウトということです。

5. 買収に基因して、買収される直前の役員のすべてが退任し、かつ、買収の直前に使用人(旧使用人)の総数の20%以上の者が使用人でなくなり、旧使用人が従事しない事業の事業規模が、旧事業の買収直前における事業規模のおおむね5倍を超えること

つまり、従来の事業(M&A前の事業)を継続したとしても、M&Aの後に旧役員の退任、従業員の20%以上の退職・配置転換が行われ、かつ従来の事業の5倍を超える新規事業が行われるようになった場合は、従来の事業による繰越欠損金は使えないということです。

それではどうやって節税できるのか?

逆に言えば、特定の株主によって50%超の株式を直接・間接に保有される場合ではないこと、もしくは従来の事業をほぼ同じ状態で継続するのであれば、従来のように繰越欠損金を利用することは可能です。そのような場合であれば、繰越欠損金を目的とするM&Aであっても実行可能ということでしょう。

繰越欠損金のある会社をM&Aで買収する場合は、その後の状況によって繰越欠損金が利用できるかどうかが変わってくるので、注意する必要があります。繰越欠損金の利用を目的とするM&Aを実行する場合、M&Aと組織再編税制の専門知識が必要となりますので、必ず事業承継に詳しい税理士へ相談するようにしてください。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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