太陽光発電業のM&A(買収・売却)と企業価値評価

近年、太陽光発電業のM&Aが増えている。ここでは、太陽光発電業の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、太陽光発電業においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみたい。

目次

M&Aを考える太陽光発電業の概要

太陽光発電業の市場環境

太陽光発電業は、10キロワット以上の産業用の太陽電池モジュールを設置し、太陽光によって発電した電力を電力会社へ販売する事業者のことをいう。産業用のうち1,000キロワット以上のものは「メガソーラー」と呼ばれる。

近年、大企業も含めて新規参入する事業者が増加しており、今後の市場拡大が見込まれます。太陽光発電事業の導入容量は、2016年の2,746万kWから、2018年の3,722kWへと増加している。

しかし、新規参入規制の法改正、買取価格の下落といったマイナス要因もあり、市場が伸び悩んでいる。買取価格を見ますと、2012年は40円/kWでしたが、2019年は14円/kWと、3分の1の価格水準まで下落している。

太陽光発電業のビジネスモデル

太陽光発電業のビジネスモデルは、借入金によって太陽光電池モジュールの設備投資を行い、継続的な売電によるキャッシュ・フローで借入金を返済しながら、収益を獲得するものである。

太陽光発電事業は、再生可能エネルギーの固定価格買取り制度(FIT、発電した電力が20年間にわたり同一価格で買い取られることが保証されている制度)の対象となるため、発電した電力を電力会社に買い取ってもらうことができる。経済産業省や電力会社への届け出が必要ではあるが、土地と資金があれば誰でも参入できる事業である。経済産業省の資料によれば、2018年の太陽光発電システム一式の購入費用は161万円(発電容量5kW)である。人件費や販売管理費をそれほど必要としないため、利益率の高い事業である。

太陽光発電業M&Aで買い手候補となる主たる企業

太陽光発電業のM&Aの買い手候補は大企業が中心になると考えられます。この業界では、以下のような企業が中心となって買収を進めていくことが想定される。

ユーラスエナジーホールディングス、SBエナジー、三井物産、双日、住友商事、オリックス、シーテック、ファンドクリエーションである。

太陽光発電業M&Aで売却する売り手のメリット

法改正によって、発電設備を持たずに売電の許認可だけを持つ太陽光発電事業者は、設備工事を行って実際に太陽光発電を開始しなければ、許認可が取り消されることとなった。そのため、設備投資を行う余裕がない事業者は、新制度への対応が難しい状況である。

しかし、新たに発電するための設備投資を行うことは、大きな負担である。また、近年は、買取価格の低下などによって業績が悪化し、事業継続が苦しくなる事業者も出てきている。そこで、発電事業を断念し、M&Aにより事業を売却するケースが出てきたのだ。

売電の許認可だけを持つ事業者や事業継続が困難となった事業者は、M&Aによって事業を売却することができれば、太陽光発電事業を現金化し、容易に撤退することが可能となる。

太陽光発電業M&Aで買収する買い手の注意点

太陽光発電業M&Aの買収デュー・ディリジェンスの注意点

太陽光発電業の事業性を評価する場合の注意点として、売電収入の安定性がある。買取価格の単価は保証されているものの、発電量は日々の日照時間や日射量などの影響を受けます。発電所の立地、天候等によって収入が変動するので、収益性の推移を確かめる必要があるだろう。

また、発電設備として太陽電池モジュールとパワーコンディショナーが必要である。これらの設備に異常がないか、故障がないか、現物を確かめる必要がある。

太陽光発電業の買収で承継すべき経営資源

発電設備とその土地が基本となる経営資源である。太陽光発電業のM&Aを行う場合は、有形固定資産の承継を確実に行うことが重要だろう。

太陽光発電業の買収のための事業価値評価

太陽光発電業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっている。

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、太陽光発電業の収益性について、売上高成長率は約6.4%である。また、粗利率は49.5%、営業利益率は16.6%となっている。生産性について、1人当たり売上高は3,708万円、1人当たり人件費は284万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、太陽光発電業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は1.4~2.5倍、PER倍率は10~20倍、EBITDA/企業価値倍率は5~10倍となっている。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば5%、急成長の新興企業であれば10%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが5%前後であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.5~0.8であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、ウエストホールディングス(1407)、ジー・スリーホールディングス(3647)、FHTホールディングス(3777)が挙げられる。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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