会社を誰に継がせる?企業経営者の引退について考えよう

企業経営者にとって、社長の仕事は自分の人生そのものであったはずです。ご自身の引退後、誰が後継者として最適でしょうか。

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親心として当然!かわいい子供への事業承継が基本

中小企業の社長は、会社のオーナー(大株主)であることが多く、社長を交代するときは、会社の支配権である株式を渡すことになります。社長交代と株式承継、これら2つを同時に行うことになるのです。

事業承継ガイドラインなどでも説明されているように、一般的に、事業承継では3つの後継者が考えられます。親族内承継、従業員承継および第三者承継です。今回は、税理士である筆者が実務で直面する4つのケースを具体例として挙げてみましょう。

第一は、事業承継である子供を後継者にすることです(親族内承継)。子供を社長にするともに、子供に株式を承継します。これは、社長が心情的に望んでいる将来像であり、法人(会社)と個人財産が一体化している中小企業にとって、最も自然な事業承継です。

この場合、後継者をどのように教育するか、自社株式を分散させずに後継者に集中させることができるか、納税資金を確保することができるかが課題となります。子供に株式を渡す方法は、贈与または相続となるため、税金がかかりますが、事業承継税制を使えば税金ゼロで大丈夫です。

もちろん、子供が企業経営者になることを望まない場合、親族内承継を実現することはできません。近年は、子供が親と別のキャリアへ進むことを望むため、親の経営する事業を承継しないケースが増えてきています。これが、後継者難の問題が生じる原因の一つです。

意外と多い「所有と経営の分離」

第二に、従業員を後継者としながらも、株式は子供に承継させる選択肢です。これは、従業員承継において見られる特殊な事業承継で、「所有と経営の分離」と呼ばれます。事業と株式を渡す相手が異なるのです。

このような状況が発生する理由は2つあります。一つは、後継者と想定していた子供に経営者としての能力と経験が不足しているため、一時的なリリーフとして従業員に任せようとするものです。すなわち、孫がいれば、その孫が将来的に社長になってくれることを期待しつつ、事業承継を一世代飛ばそうと考え、一時的な従業員承継によってそれまでの時間稼ぎをするのです。

もう一つは、子供がいない、子供が継ぐことができないなど、従業員を後継者にするしかないものの、従業員に株式を買い取るお金が無いケースです。社長は、後継者である従業員を社長にすれば、それで事業承継は完了だと考え、株式を自ら所有したまま放置してしまいます。結果として、社長はそのまま相続を迎え、子供たちが株式を相続することとなります。

いずれにしても、社長の子供が大株主となってしまし、企業経営は第三者である従業員に委ねる分離体制となります。

実は、このように分離することは危険です。なぜなら、後継者である従業員は、株式を所有しないために(場合によっては、借入金の個人保証も行わないため)、自ら失うものがなく、大きなリターンを狙って大胆な投資を行うなど、無茶な経営を行う傾向にあるからです。結果として、従業員が社長の時代に業績が悪化し、経営が行き詰まるケースが多く見られます。

これからの主流は事業の第三者承継と不動産の相続

第三は、子供も従業員も継がないため、第三者を後継者とせざるをえないケースです。この場合、株式は有償の譲渡となり、現金化されることとなります。社長が譲渡代金として受け取った現金は、将来の相続財産となって子供へ承継されることになります。

これには、従業員承継において有償譲渡する場合(MBO)、同業他社など第三者へ譲渡する場合(M&A)の2つがあります。M&Aの場合、社長は多額の現金を獲得することになりますので、企業経営者から金融資産家へ転身することになるわけです。

もちろん、中小企業の全ての事業が価値のある経営資源を有しているわけではありません。また、事業に価値があっても、それを上回る債務(借入金)が足かせとなることもあります。事業承継したいと希望しても、それを承継してくれる第三者が必ず見つかるわけではないのです。

特に、その事業が、社長個人の経営力(営業力、技術力、リーダーシップなど)に依存する場合、それを他人に移転することが容易ではありません。経営力は目に見えるものではなく、属人的なものだからです。

それでも、第三者承継は、後継者難の問題が深刻化している現在、中心となる選択肢です。その理由は、中小企業が単独で生き残るべきか否かという問題と関連しています。

近年、中小企業の低い生産性が問題となっています。従業員に支払う給与水準を上げることができません。このような状態で、中小企業を単独で存続させて、若い後継者に経営させても、事業が成長することは困難です。そうであれば、経営力の高い大企業に事業を任せるほうがよいのです。大企業は、IT投資できる資金力と、高い生産性の事業を持っているからです。M&Aでも事業を高く買い取ってくれることでしょう。

結果として、社長は多額の現金を受け取ることができます。また、大企業に統合されることで、事業の生産性が向上して給与水準が上がり、従業員もハッピーです。

第三者に承継すると言っても、法人(会社)を丸ごと承継させる必要はありません。借入金の承継は拒否されることがほとんどでしょう。その場合、必要最低限の経営資源だけを譲渡すればよいのです。残された不動産や現金などは社長が所有し続け、不動産の賃貸経営でも行えばよいでしょう。後継者教育も必要ありません。子供への相続も容易になります。

今後の事業承継は、事業を第三者に承継し、残った不動産を子供に相続する、このパターンが主流になると考えられます。

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この記事を書いた人

公認会計士/税理士/宅地建物取引士/中小企業診断士/行政書士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年経済産業省「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント・コンサルティング部、みずほ証券投資銀行部門、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門に在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継のアドバイスを行った。現在は税理士として相続税申告を行っている。

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