タクシー業界のM&Aと企業価値評価

  • 2020.12.12
  • M&A
タクシー業界のM&Aと企業価値評価

近年、タクシー業界のM&Aが増えている。ここでは、タクシー業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、タクシー業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみよう。

M&Aの多いタクシー業界の現状

タクシー業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&Aの買い手候補となる同業他社について説明する。

タクシー業界の市場動向・経営環境

タクシー業は、一般乗用旅客自動車運送事業、すなわち、乗車定員10人以下の自動車を貸し切って旅客を運送する事業を営む事業者のことをいう。

企業の経費削減の影響によって、需要は緩やかに減少している。また、規制緩和によって運賃・料金の引下げ競争が発生した。その結果、実働1日1車両当たりの運送収入(日車営収)は、減少が続いている。

国土交通省「タクシー事業の現状について」によれば、わが国のタクシー売上高は、2001年度に2兆円を下回り、2015年度には1兆5千億円まで減少した。

タクシー業界のビジネスモデル

タクシー業のビジネスモデルは、運転手を雇い、街中を走らせることで一般利用者に旅客運送のサービスを提供するというものである。人件費率は約70%と高い水準となる。

近年は自動配車アプリの導入など、利便性を高めたサービスも提供し始めている。将来的には、AIによるタクシー需要予測技術が活用され、また、自動運転技術の導入が進められることから、タクシー需要の喚起や、運転手不足の解消、配車効率向上の手段として活用されることが期待されている。

タクシー業界M&Aで買い手候補となる企業

タクシー業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。

三重交通グループホールディングス、大和自動車交通、第一交通、日本交通、東都自動車、国際自動車、帝都自動車交通、日の丸交通、淀川交通、日本タクシーである。

II  タクシー業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aでタクシー業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。

また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、タクシー業の経営効率化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、営業規模の拡大による生産性向上、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

タクシー業界M&Aで買収する買い手の注意点

タクシー業界で買収を行う際、デュー・ディリジェンスにて調査すべき経営資源や注意点を説明する。

タクシー業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

タクシー業は、労働集約型の事業であるという特徴があります。よって、運転手の賃金が安く抑えられており、労働条件に問題があるケースが見られる。残業代の未払いなど簿外債務がないか、労働管理におけるコンプライアンスが適切に守られているか確かめなければいけない。

また、配車の効率化に取り組んでいるか、デジタルGPSを活用した車両方位等自動表示システム(AVM、車両の位置を地図上に表示するシステム)の活用が行われているか確かめることが必要である。

タクシー業の買収で承継すべき経営資源

タクシー業では、運転手が基本となる経営資源である。近年、運転手の高齢化と人材不足が慢性化しており、運転手は貴重な経営資源となります。良質な人材を確保するために、運転手の福利厚生や研修システムも重要な経営資源となるだろう。

運転手は、事業承継によって退職することが多いため、タクシー業のM&Aを行う場合は、運転手の引継ぎに時間と労力をかけるなど、人的資源の承継を丁寧に行うことが重要だろう。

タクシー業を買収するときの企業価値評価(株価算定)

タクシー業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる財務数値は、以下の通りとなっている。

タクシー業の評価で使う資本コストとマルチプル

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、タクシー業の収益性について、売上高成長率は約▲3.7%である。また、粗利率は25.5%、営業利益率は▲0.6%となっている。生産性について、1人当たり売上高は443万円、1人当たり人件費は303万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、タクシー業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.5~1.0倍、PER倍率は不明、EBITDA/企業価値倍率は8~12倍となっている。

さらに、筆者が推計するタクシー業の株主資本コストは、安定した老舗企業であれば4%、急成長の新興企業であれば8%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが2~3%であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.3~0.4であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

タクシー業の類似上場企業比較法で採用すべき企業の例

タクシー業を評価する類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、三重交通グループホールディングス(3232)、大和自動車交通(9082)、第一交通産業(9035)が挙げられる。

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