精密部品切削加工業界のM&Aと企業価値評価

精密部品切削加工業界のM&Aと企業価値評価

近年、精密部品切削加工業界のM&Aが増えている。ここでは、精密部品切削加工業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明する。これらから、精密部品切削加工業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみよう。

M&Aを考える精密部品切削加工業界の概要

精密部品切削加工業界の市場環境

精密部品切削加工業は、機械工具を用いて材料の不要部分を除去し、精密部品を製造する事業者のことをいう。炭素鋼やステンレス、アルミニウム、チタン、セラミックスなどの材料をナノメートル単位で超精密加工する技術が要求される。

現在主流となっている切削加工の方法は、コンピューターで数値制御を行うNC旋盤加工であり、技術の著しい高度化が進んでいる。従来のような汎用的な旋盤やフライス盤のような機械は、マシニングセンターのような多機能機械にとってかわられている。

精密部品切削加工業者の多くは、東京都大田区や大阪府東大阪市など都市型工業集積地や愛知県のトヨタ自動車周辺に、大企業の協力工場としてネットワークを形成している。得意先の海外移転によって、受注量が大幅に減少している。

経済産業省「工業統計表・産業別統計表(平成29年)」によれば、各種機械・部分品製造修理業の出荷額は、2012年に5,846億円であったが、2016年には4,734億円まで減少している。

精密部品切削加工業界は、従業員数10人未満の零細企業が多く、全体の過半数を占めている。また、経営者の高齢化が進展し、後継者不在のため廃業する企業が急増している。

一方で、中国をはじめとする新興国の技術水準が向上を続けているため、海外展開しようとする企業は、激しい競争環境に直面することになる。

精密部品切削加工業界のビジネスモデル

精密部品切削加工業のビジネスモデルは、賃加工の下請け、請負加工を行うものである。工場に、金属工作機械、動力付き金属加工機械を備え、製造加工と修理を行う。得意先との結びつきが強いため、大企業の海外移転に伴って自ら海外展開を行うか、受注を失って廃業するか、二極化が進んでいる。

精密部品切削加工業界M&Aで買い手候補となる企業

精密部品切削加工業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられる。この業界では、以下のような上場企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定される。

旭精機工業、放電精密加工研究所、知多鋼業、那須電機鉄鋼、昭和鉄工、フルヤ金属、東亜バルブエンジニアリング、山王、東北特殊鋼、UEX、オーネックス、トーアミ、大泉製作所、大和重工、東邦金属、ヒーハイスト精工である。

精密部品切削加工業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで精密部品切削加工業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができる。また、得意先である大手メーカーは、高度な技術によって製造された精密部品を継続して購入することもできることに加え、工作機械や工具などの仕入先との関係を継続することができる。

また、小規模事業者が単独では難しかったNC旋盤マシニングセンターによる省力化・短納期化よって、精密部品切削加工業の経営効率化を実現することができる。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるだろう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、切削・研削・特殊加工を一体化させた大規模な生産設備の導入による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができる。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができる。

精密部品切削加工業界M&Aで買収する買い手の注意点

精密部品切削加工業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

精密部品切削加工業では、売上が得意先へ依存している。それゆえ、得意先との取引基本契約を確認し、チェンジ・オブ・コントロール条項が無いか、確認する必要がある。また、NC旋盤機械という有形固定資産を承継するため、機械設備が陳腐化していないか、大規模修繕が必要ないか、確認する必要があるだろう。工場での現物の実査は不可欠である。

精密部品切削加工業の事業性を評価する場合の注意点として、主たる取引先が国内の生産を継続するかどうかという点がある。海外移転の可能性があるとすれば、需要が完全に消滅してしまう危険性があるだろう。

精密部品切削加工業の買収で承継すべき経営資源

職人の匠の技、製造技術が基本となる経営資源である。また、得意先との契約関係も重要な経営資源となる。いずれも無形資産である。

無形資産は、事業承継によって喪失されることが多いため、精密部品切削加工業のM&Aを行う場合は、顧客関係の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要だろう。

精密部品切削加工業のM&Aで買収するときの企業価値評価(株価算定)

精密部品切削加工業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっている。

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、精密部品切削加工業の収益性について、売上高成長率は約3.3%である。また、粗利率は25.7%、営業利益率は6.0%となっている。生産性について、1人当たり売上高は1,451万円、1人当たり人件費は496万円となっている。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、精密部品切削加工業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.6~0.5倍、PER倍率は10~15倍、EBITDA/企業価値倍率は2~8倍となっている。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば6%、急成長の新興企業であれば8%が妥当であると考える。これは、この類似上場企業のROICが5%前後であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.5~0.9であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計している。

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、三ツ知(3439)、エーワン精密(6156)、CKサンエツ(5757)、サンコール(5985)、日本発条(5991)マルマエ(6264)が挙げられる。

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